87話 太陽に眠れ
俺たちはカズスとジョイスロウ殿下らが戦っている場所へ飛んだが、やはりジョイスロウ殿下たちは苦戦していた。
ジョイスロウ殿下、ポルマレフと、彼らを乗せたアルゲンタビスは、無数の小型の魔物にまとわりつかれ齧られていたのだ。
「ワーグ、まずは殿下達を助ける! そこへ急速で向かってくれ!」
「うん!」
カズスが近くにいる以上、あまり時間はかけられない。
「【シャボン・ウォッシャー】!」
彼らの近くにきた瞬間、シャボンを大量にを浴びせる。
小型魔物どもはあとかたもなく洗浄された。
「シーザ、戻ってきたのか。エルフィリアは安全な場所へ置いてきたのか?」
「…………」
「……シーザ?}
「その傷ついたアルゲンタビスでは、いつ墜落するか分かりません。ここは俺達にまかせて、すぐに着地してください」
エルフィリアの死を口にするのは、まだつらい。
それに悲しむのも苦しむのも、奴との決着をつけてからだ。
「おいっ、まさかエルフィリアは……!」
「殿下、コイツはもう限界です。降りるしかありません。しっかり掴まっててください」
ポルマレフは何かを察したのか、それとも本当に限界だったのか、何も聞かずにアルゲンタビスを着地させに降りていった。
俺達は彼らを見送りはせず、黒い羽で舞う奴の元に向かう。
「カズス、戻ってきたぜ」
奴は腕をくみ、俺を見定めるようににジロジロ見ていた。
「フッフフやけに早いじゃないか。こんな短時間でエルフィリアを地上に降ろして戻ってこれたのか? あの娘をちゃんと治療できるような場所に置いてこれたのか、んん?」
ギリッ
傷をえぐるような奴の言葉に歯が鳴った。
「フン、どうやらあの小賢しい娘は死んだようだな。死体は捨てて、私への復讐に戻ってきたという所か」
「……もう言葉はいいだろう。俺とおまえに、そんなものは必要ない。ただ殺し合う。それだけだ!」
俺は周囲に大量のシャボンを発生させた。
だが、奴は戦う気配もなく、ただ身をひるがえす。
「フン小僧、きさま如きの復讐譚につき合ってやる義理などない。このカズスが恐れたのは、あの小娘の頭脳のみ。夜にまた相手をしてやるから、おとなしく待っているがいい」
そしてすばやく滑空してその場を飛び去ろうとした。
だが、逃がさん!
シャゴオオオオオオオッ
滞空してあるシャボンをレンズに変え、一気に太陽光を奴の元へ収束させた。
「グアアアアアアアアッ!!!? 小僧きさまァ!?」
「甘いんじゃないのか、カズス。魔王といえど光より速く飛べるのか? 俺はこの空からきさまを逃すつもりはない」
カズスの動きが止まった。
俺はさらにシャボンを追加し、八方から太陽光をカズスに浴びせる。
奴を葬るために、エルフィリアは自らこの空から落ちたんだ。
その思いに応えるためにも、奴は絶対にここで倒す!
「おのれ……エルフィリアがいなくとも、ここまで力を使えるのか、小僧!?」
「カズス! もう、きさまはどこへも行けない。地上の闇へも潜ませない。この空で太陽の光に散れ!」
「……いいだろう。小僧。きさまをここで倒さねばならぬ敵と、この魔王が認めてやろう」
カズスの全身から暗黒の瘴気が生み出される。
奴はそれを収束、そして凝縮して巨大な塊にした。
「【暗黒黒百魔弾砲】! 喰らえ!」
そして解放。
巨大な闇の塊が俺達に向かって放たれた。
ズウウウウウウウウウンンン
直撃。
されど、かわせなかったんじゃない。
避ける必要がなかったのだ。
「……魔王の魔力がこの程度か。ここまで弱体化しているとはな」
「カズスさま、あなたの闇の力はもう死んでいます。あまりに強力な太陽の光を浴びすぎました」
おそらくは、これが今のカズスの全力。
それでも俺達にわずかなダメージすら与えられなかった。
「……ヌウッ」
「エルフィリアを倒すため、あえて苦手な太陽のある空に来たのは見事だった。だが、その代償は大きかったようだな」
ビキビキッ
太陽の収束光を浴びせているにも関わらず、奴の体が膨らんでいく。
爪は鋭く巨大に、翼も禍々しく変化していく。
「ヌアアアアッ、きさまなどに舐められるこの私ではない!」
突進。
さらにカズスは全身から刃を出す変化をして、急速に俺達に迫る。
「ワーグ、逃げるな。奴の狙いは別にある」
俺はあえてワーグにとどまるよう命じ、新たなシャボンを周囲いっぱいに生み出す。
ズバアアアアアアアアンッ
カズスは俺に衝突した途端、爆発した。
奴の体内に存在する暗黒の瘴気をいっぱいにまき散らして。
されど……
ガシイッ
「自分の頭を体から切り離し、体を爆発させる。そのまき散らされた瘴気で相手にダメージを与えつつ、自分は頭のみとなって脱出する、だな?」
俺はまき散らされた瘴気をシャボンで浄化する。
そして俺の右手は狙い過たずカズスの頭をつかんでいた。
「けどな、その最後の脱出技も死んでいるんだ。俺はもう二度も見ているんだからな。ここが暗黒の賢者の終着点だ」
「この……雑魚が……私の邪魔を……するな。私は……偉大なる頭脳……」
俺は奴のうわごとには構わず、どう終わらせるか考えた。
その時、ふと奴の盟友ネウディシのことを思い出した。
どうするか決まった。
俺は奴を太陽に向けて掲げた。
「このまま太陽の光で消えていけ。人間だった頃を思い出してな。きさまの親友ネウディシへのせめてもの手向けだ」
「な…に……なぜ、きさまが……ネウディシの……」
「奴の最期を看取ったのは俺だ。そしてその最期の言葉が『人間として生きろ』だった。だから、きさまにも人間だった頃を思い出させて終わらせようと思った」
奴のあの言葉は夢だったのかもしれない。
だけど、妙に心に残っている。
もしかしたら、俺は奴に救われていたのかもしれない。
ならば復讐に猛り狂うより、こうして静かに太陽で葬ろう。
「フッ……小僧。名を…教えろ……」
「シーザ・ツェッペリ。きさまを倒した勇者の名だ」
俺の名が届いたのかは分からない。
奴の頭は太陽で完全に崩れ、消え去ったのだから。




