86話 エルフィリア散華
エルフィリアを追うように、真っ逆さまに地上へ落下する俺。
だが、そのエルフィリアを追う者は俺一人ではなかった。
翼を持った彼女もまた、彼女に急速急接近している!
「ワーグ!」
思い出した。
そういや、アルゲンタビスから落ちたら受け止めてくれると言ってくれてたっけ。
ワーグはエルフィリアを捕まえると、瞬く間に俺の方にも接近して受けとめてくれた。
「エルフィリア様、ひどい傷……え、心臓が完全に破壊? どうして生きているんですか?」
「光の回復術で……生命維持を…行っています。でも…時間稼ぎに……すぎません」
つまり、もう一人……いや、複数人の回復術士に治療を受けないと、彼女を治すことはできないということだ。
急いで守城関へ降りるようワーグに言おうとするも、それを”奴”が見逃すはずがなかった。
「フン、どうやらワーグの支配を完全にそちらに移したようだな。ならば、まとめて殺してやろう!」
黒い翼を広げ、カズスは急速降下でこちらにせまる!
「あっ速い! 逃げきれないよシーザ!」
「くそっ、ワーグは俺達を支えるのに両腕は使えないし、俺が迎撃するしかないか!」
俺は周囲のシャボンを集めようとしたが、奴の背後にもう一羽のアルゲンタビスの接近を見た。
「そうか、この空には俺達の味方はまだいた!」
「【七星崩剣】!」
鋭い斬撃が飛び、カズスの突進を阻んだ。
「ジョイスロウ殿下! ポルマレフさん!」
もう一羽のアルゲンタビスに乗った彼らは、俺達をかばうようにカズスとの間に割って入った。
「ここはまかせろ! 君達は早くエルフィリアを下へ!」
「ちいっ、S級戦闘スキル持ちか! だが、この魔王カズスの敵ではない!」
カズスとアルゲンタビスの上のジョイスロウ殿下との激しい戦闘がはじまった。
その間に、ワーグはカズスと距離をとることが出来た。
「まだ安全地帯とは言えないけど、とりあえず余裕はできたよ。これからどこへ降りる?」
「エルフィリアは、かろうじて自分の術で命をつないでいる状態だ。他の回復術士がいる。守城関には腕のいい回復術士もいるはずだから……」
だがエルフィリアは弱々しくも、俺の言葉をさえぎった。
「ダメ……です。魔王カズス……奴を倒せるのは、今この時しかない……奴には……同じ手はもう……通用しない……」
そうだ。今回の奴は油断があったから、ここまで追い込むことができた。
だがもう二度と、太陽の元では俺達と戦うことはしないだろう。
そうなれば、圧倒的な闇の力で蹂躙されるしかない。
それでも……!
「だが奴より、今は君の方が優先だ。急いで下へ降りて手当てをしないと!」
「そうです! いまはご自分のことだけお考えください!」
エルフィリアはそっと俺の手を握った。
「シーザ……ガチャ神からもらった……魔王を倒す力……あなたに……託しま……す」
ドックン!!!
「うおおおおおおおっ!?」
エルフィリアから、膨大な光の力が流れてきた!
それは体の芯にまで染み渡り、その力で俺は引き裂かれそうになる。
「あががっ……エルフィリア……やめろ……こんなの耐えられねぇよ……」
「呼吸……です。怒りも、悲しみも飲み込んだ呼吸を……するのです。それが……力を使う方法です。そして……」
――チュッ
(え!?)
エルフィリアは俺にキスをした。
いままでにない、深い深い口づけだった。
頭の中が真っ白になる中、彼女はそっと唇を放した。
「これが…最後の…”女神の祝福”です。シーザ、ワーグ……元気で…いてください。いつまでも……」
「えっ? 何を……」
グイッ
エルフィリアは、自らワーグの腕を振り払った。
「やめろ……」
そして、そのまま落ちていく。
「待て! 行くな、エル……!」
彼女の姿は大地に引かれ、みるみる小さくなっていく。
その目は最後まで俺達をいつくしむように、優しく見つめていた。
「エルフィリアァァァァァァ!!!」
「エ、エルフィリア様……どうして?」
ワーグは茫然としたように、今はいない彼女に問いかける。
俺はその答えを理解してしまっている。
足手まといの自分がいては、カズスと戦えない。
だから彼女は自ら落ちたのだ。
俺達を行かせるためだけに……!
「ワーグ……」
「うん、エルフィリア様を追うんだね?」
「いや……追うべきはカズスだ。奴との決着をつける」
「…………いいの?」
「ああ」
今の俺は、彼女を悲しむことも魔王に怒りを覚えることもできない。
この力はそういうものだ。
少しでも感情を揺らがせば、エルフィリアからもらった膨大な光の魔力は暴発しそうになる。
どれだけ心が千切れそうになっても、呼吸を乱すわけにはいかない。
「俺は……ただ、伝えるためだけに戦う」
「え? 何を言ってるの?」
思い出せ。
俺自身はただの凡人。
でも、俺の兄貴は最高の天才冒険者ジョゼフ。
そして最強の聖女エルフィリアとなって、いつも俺の側にいた。
俺はそんな君に鍛えてもらったんだ。
エルフィリア、待っていてくれ!
「ワーグ、行け! カズスの元へ!」
「う、うん! 負けないでシーザ!」
のしかかる彼女を悲しむ心をふりはらい。
ただひとりの宿敵を追って、俺達は飛び向かった。




