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83話 魔王軍襲来

 守城関。

 それは王都に続く山間さんかん隘路あいろに建てられた巨大な門であり壁である。 

 そしてそれを支える山の一方の山間部には、【アルゲンタビス】という偵察用巨鳥の鳥舎がある。

 じつはエルフィリアがスキード・ワゴンと政治的にいろいろしてきたのは、この【アルゲンタビス】を借りるためだったのだ。


 「こいつが本番でエルフィリアと坊主を乗せる鳥だ。しかしコイツは本来一人乗り。操鳥師としておれも乗るから、二人半乗ることになっちまう。よっぽど風に恵まれなきゃ飛べやしないぜ」


 シュウザは自分の倍ほどもあるアルゲンタビスを撫でながら言った。

 よく馴れている様子から、操鳥師の腕があるというのは本当らしい。


 「大丈夫です。そのためのワーグです。風の心配はしなくても大丈夫と言っておきましょう」


 つまりワーグでアルゲンタビスの下から風を送ってもらい、それで飛翔するというわけだ。


 「なぁワーグ。飛ぶのにお前に下から煽ってもらわなきゃならないんだが大丈夫か? 少し怖いんだが」


 「大丈夫。落ちたら、ちゃんと受け止めてあげるから。でも飛んでどうするかは、聞いちゃいけないんだよね?」


 「悪い。いちおう機密扱いになっている。もちろん、おまえのことは信用してるが」


 「わかってる。空にいる間はまかせて。ぜったい守ってみせるから」


 彼女にとっては忌まわしい竜人の体も、この場合には頼もしい。

 カズス、ワーグをもてあそんでこの体にしたこと、後悔させてやるぜ!

 



 やがて深夜。

 にわかに守城関のふもとが騒がしくなってきた。

 魔物たちの唸り声とともに、激しい戦闘音も聞こえてくる。


 「はじまったな」


 「第一関門は夜明けまで魔王をここで足止めすること。それは守将殿と兵士のみなさんに任せるしかないが、どうかな」


 「たとえこの関門が破壊されようと、夜明けまでは絶対に動いてはなりません。太陽が昇ってなければ、魔王はどうしようもありませんから」


 「つまり、時間までは隠れているってことだな。気分は良くないし、何とかもたせてくれれば良いけど」


 やがて様子を見に行かせたウサウサが戻ってきた。


 「思ったよりよく防衛してくれているよ。魔物どもは片っ端から撃ち落されていて、壁を登れていないし。この分なら何とかなりそうじゃない?」


 「ウサウサ、甘いですよ。魔王カズスはまだ攻撃してきていません」


 「え? だって戦っていたよ?」


 「それは先走った魔物が本能で攻撃しているだけです。つまり、ただのにぎやかし。本番は魔王が来てからです」


 「そっか。じゃあ、もうすぐ始まるよ。ヤバイ音が近づいてきた」


 ズン……ズン……ズシン……ズシィン……


 最初は気のせいかと思うくらいのい微かな振動。

 やがてはっきりと感じ取れるくらいの揺れとなっていき。

 ”それ”が姿を現す頃には、「ズシン」「ズシン」とたしかな音となっていた。


 「来やがった! 魔王だ‼」


 それは山と比肩するほどの巨大な黒い人影。

 その禍々しい巨人は長い髪を無造作にたらして、魔物の王にふさわしい威容で姿を現した。

 そしてその顔は、やはりカズスであった。


 「魔王と融合したのが一目でわかる姿だね。それにしても、あのフードの下は長髪だったんだね」


 「で、どうする。あの巨体で守城関を殴りつけたら、ひとたまりもないぞ」


 「殴る必要もありません。奴からは巨大な魔力の波動を感じます。おそらく極大魔法を放って一発でしょう」


 「人間の攻撃なんて、矢も槍も魔法も通用しないだろうしな。いきなり終わったか?」


 時間前にできることは何もない。

 たとえカズスが守城関を破壊して通り過ぎようと、俺たちはじっと耐えるしかない。

 くそっ、気分の良くないクエストになってきたぜ。 


 ――「人間どもよ、聞け!!!」


 カズスの声が雷鳴のごとく響いた。

 何だ、何を言うつもりだ?


 「この魔王カズスは、これよりすべての人間領域に侵攻を開始する。全領域にだ! ただの一カケラも人間の住む場所は残さん!」


 くそっ。アイツも元は人間だったはずなのに、よくそこまで人間に対して冷酷になれるもんだぜ。


 「だが、いまこの場にいる人間は幸福だ。君たちには降伏する道をあたえてやろう。そしてその者には不死の肉体と能力を与え、栄えある魔王軍の同志として迎えてやろうではないか」


 魔王軍加入の誘いだと⁉

 くそっ、舐めやがって。


 「こちらを動揺させるつもりか? 魔王のくせに降伏勧告とはな」


 「多分、本気で降伏者を出したいのだと思いますよ。奴らの魔物軍団には、理論的に考えることのできる指揮官が圧倒的に不足しています。それをここで補うつもりでしょう」 


 「ふん、だが魔物の仲間になって人間の敵になろう兵など、ここには一人もいない! みな栄光ある王国の兵士だ」


 「守将殿には、敢然と拒絶の意思を示して士気を上げてもらおうぜ! 離反者を出さないためにもな!」


 王族のジョイスロウ殿下と、王国を代表する武人ポルマレフは鼻息が荒い。

 しかし、その対応はあっているのか?

 あの魔王、拒絶した途端に一発で守城関を粉砕するぞ。


 「……いえ、それをしたらカズスが、守城関を破壊しに動いてしまいます。それよりはこの勧告を利用してやりましょう」


 「利用? どのように」


 「守将殿には返答はさせず、城内を適当にざわつかせて迷っている風を装わせるのです。まずは太陽が良い位置に昇るまで時間を稼ぐことが第一関門。奴らを待たせてやりましょう」


 ウサウサに守将殿へエルフィリアの策を伝えに行ってもらった。

 程なくして守城関からざわめきの声が響いてきた。

 やがて魔物群の侵攻も止まり、カズスも大地に座って成り行きを見守っている。

 よし、この状況を時間まで続けることが出来れば勝ちだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] こういった、駆け引きの展開もいいねぇ。
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