78話 蹂躙する魔王
ガタゴト ガタゴト
ヒキャク鳥車のはげしい振動で、俺は目をさました。
目の前にはクージーQ。御者席にはポルマレフ。
そうか、俺はあのあとブッ倒れちまったのか。しかし……
「なぁクージーQ。どうなったんだ。なぜ俺たちはヒキャク鳥車に乗っている? どこへ向かっているんだ」
「シーザ、気が付いたの。あれを見なさい」
クージーQの言う通り車の外に目をやる。
そこには何台もの馬車が連なり、このヒキャク鳥車に続いて走っている。
それははるか後方まで続いており、終わりが見えないほどだ。
「なんだよ、あの馬車の群れは。戦争でもおこったのか?」
「私たちが追っていたリッチの件の結果よ。討伐隊は見事失敗。カズスの呼び寄せた魔王が現れて、サンモリッツ街は壊滅。街の住民はみな避難している最中よ」
失敗⁉ しかも魔王がこんな王国のド真ん中に現れただって⁉
「エ、エルフィリアはどうなった!!」
「無事よ。でも彼女の正体がジョイスロウ殿下やお兄様のシュウザ様にバレてね。いま彼らといっしょの馬車にいるわ」
ああ、彼女の生存を隠すのも、いろいろ限界だったもんな。
エルフィリア、この先どうなることやら。
それにもう一人心配な人間がいることに気がついた。
「ワーグは? あれからどうなったんだ?」
「後ろよ。彼女、いろいろ面倒だから、私たちといち早く街を脱出させることになったの」
彼女の言葉で後ろを見て、はじめて彼女に気が付いた。
彼女はかつてのジョイスロウ殿下のように、鎖でつながれて身動きとれないようにされていた。
「ワーグ! どうして?」
「鎖をとっちゃダメよ。彼女は罪人。サンモリッツ街を暗黒の瘴気の底へ堕としたカズスの手下だったんだから」
「しかし……それはカズスに呪術で隷属させられたからであって……」
「そんなことは関係ないわ。魔王を呼び寄せ街を壊滅させたカズスへの恐怖は、街にいた人全ての共通認識。このまま無罪放免とはいかないのは分かるでしょ」
「も、もしかして、ワーグは街から逃げた人たちの怒りの矛先を向けるのに使われるのか⁉」
魔王に蹂躙された人々への慰撫のため、人身御供としての処刑。
そんな嫌な予感が頭をよぎった。
「ワーグを私たちと一緒にいち早く逃がすことを提案したのはエルフィリアよ。どうやら彼女には何か考えがあるみたい。あとで彼女に会ったなら、どうするのか聞いてみなさい」
◇ ◇ ◇
やがて平原の地平線に夕日がかかるころに、小高い丘にキャンプを作った。
そこで俺はエルフィリアと再会した。
だが彼女より先に、あまりに変貌したサンモリッツ街に目を奪われてしまった。
そこは膨大な瘴気でおおわれ、暗黒の塊のようになっていた。
そこからは絶え間なく暗黒の瘴気が噴き出し、夜を生み出しているようだった。
そしてそこにそびえ立つ巨大な子供!
奴は「アーーッ アーーッ」と不気味な鳴き声をあげていた。
「あれが魔王……とうとう人間の住む領域に出現しちまったのか!」
「あれ、出現した時は大聖堂とほぼ同じくらいの赤ん坊だったんですよ。成長してるんです。近いうちに大人になって、あらゆる場所を蹂躙しに動くでしょうね」
「くそっ、人間はあれから逃げ回るしかないのか?」
「それも難しいでしょうね。あそこからは、魔物となった人間がカズスの手下となって人間を襲ってきます。そして各地の魔物も狂暴化して、やはり地方の人々を襲います。まさに真の魔王の誕生です」
これから始まる暗黒の時代に、暗澹たる気持ちになった。
だがその問題はともかく、ワーグのことは聞いておかねばならない。
「なぁエルフィリア。ワーグをいち早く俺たちと脱出させてたよな。それって、もしかして国王に差し出して、その……」
もしかして人身御供にするためにそうしたんじゃないのか。
そんな懸念があったのだが。
「ワーグを処刑になんかさせませんよ。わたしは彼女の助命のため、スキード・ワゴンの弟子になって彼の力を借りることにしました」
「そう……か。良かった、感謝するよエルフィリア」
「勘違いしては困ります。わたしがワーグを助けるのは、魔王カズスに対抗するためです。彼女の特殊能力とカズスの元にいた経験は、これからの戦いに必要だと感じたのです」
「うっ、そうだな。サンモリッツ街があんな有様になった以上、甘いことは言ってられない。ワーグには頑張ってもらおう」
それは、彼女自身を守ることにもなる。
彼女がめざましい働きをすれば、処刑なんかできなくなるはずだ。
「しかし……こんな災害を起こす奴、本当に何とか出来るものなのか?」
「しなければならないんです。カズスの現在の魔物ランクはAA級。しかしスキード・ワゴンの見解では、魔王となったカズスの魔物ランクはSSS級に相当すると言ってました」
「なんだそりゃ。そんなエスが三つも並ぶランクなんて、はじめて聞いたぜ」
「概念として、いちおう設定はされていたんですよ。『これは絶対に出現させてはならない』っていう意識をあたえるためのものだったのですが」
「S級が『討伐不可能。近郊に住む周辺住民の避難』だったよな。それの上っていうのは?」
「SS級が『国家崩壊の危機となるモンスター』。そしてSSS級は……」
ゴクリ
「『人類滅亡を引き起こしうるモンスター』です」
―――!!!!!?
「カズスの頭脳と魔王の力。それが合わさったいま、人類生存圏すべてを暗黒大陸のような魔物の領域に変えることも不可能ではありません。魔王の力を完全に自分のものにしたら、まずは王都へ攻め上ってくるでしょう」
―――人類の終わり。
そんな予感を抱きつつ。
俺たちはそびえ立つ魔王と禍々しい暗黒の塊へと変貌した街を、暗くなり見えなくなるまで見続けた。




