77話 大聖堂に待つリッチ【エルフィリア視点】
メイジャの聖石のおさめられている大聖堂。
そこに到着したおれとシュウザが見たものは、屍生人にされた職員や警備隊の者たちだった。
「ちッ、よくもまぁ不死者が昼間っから誰にもさとられず、街の施設ひとつを制圧したもんだぜ。こんなリッチがいたら、おちおち寝てもいられねぇや」
「彼は史上でもまれなAAランクをつけられたリッチです。その恐るべきは、リッチの特殊能力より頭脳。人間をはるかに超えた頭脳が、最優先殲滅対象として認定されたのです」
だが、そこの守りは秘匿性を優先していただけあって、脆いものであった。
聖属性を弱める結界も張っておらず、易々突破していく。
さらにセレモニー会場に行っていた警備隊本隊、ヒュトロハイムの家臣団なども合流して、たちまち大聖堂は制圧した。
ついにおれとシュウザは、は大聖堂の奥、儀式の間にただ一人居る”やつ”を発見した。
不遜にも祭壇の上に座り、まるで見下すようにおれ達を見るリッチ。
「カズス! 今度こそは本物ですね。そして以前より変わった様子がない所を見ると、どうやら間に合ったようですね」
「小娘か……いや、エルフィリアといったな。早い。私の策に気づきここに来るのは、儀式の終わった後だと思ったが」
「エルフィリア⁉」
「あ、いえシュウザ様。いまはカズスを倒すことを優先なさってください。諸々は、あとで話しましょう」
ああ、もう! シュウザの前ではじめて名前を呼ぶなよ。
最後まで、嫌な攻撃をしてくる野郎だぜ。
シュウザは「そうだな」と言うと、油断なく剣をカズスに向ける。
「おまえがカズスか。魔王の力を手にいれ、王家への復讐を企み、この世を支配せんとする元賢者のリッチ。許されぬ大罪人とはいえ、感心するぜ」
「フッフフ相棒を変えたか? 前の小僧より見栄えは良いな。私と策を競うきさまも、”女”という生き物だということか」
リッチのくせに、人間関係かき回す煽りするんじゃねーッ!
またしてもシュウザがヤバイ視線向けてんじゃねーかッ!
ともかく一戦はじめようとした時だ。
「まてまて待てーーいッ。そ奴はわが家の怨敵! ワーグの一件の汚名を返上するためにも、我らで討たねばならァァァァん」
と、ドヤドヤと入ってきた一団がいた。
ヒュトロハイムとリヒテラーデ家家臣団だ。
「よーし、みんなコイツをかこめッ! 怨敵カズスは、我がリヒテラーデ家家臣団の太陽光線照射装置がトドメをさすゥゥゥゥーッ」
「おいッ! またしても出番奪いやがってええっ!」
「いえ、ヒュトロハイム様に任せましょう。この展開で、高濃度の瘴気を浴びせられて重体になった人を知っています。遠距離からトドメをさす方が安全です」
「チッ……」
カズスは十重二十重に包囲され、ヒュトロハイムは不死者殲滅兵器を向ける。
「くらえィィィィィィ、カァァァァズスゥゥゥゥ! きさまにトドメをさせるなんて! スカッとするぜーッ‼」
カズスは「まぁ待て」と片手を上げ、静かに言った。
「決着の前に少し話でもしないか? 私は今、そんな気分だ」
「フン、最期のあがきかァ? いいとも。せいぜい1,2分長く生きるために全力で口を動かすんだなァ」
なんだ、策か?
しかしこの状況で、おれ達から逃げられるとは思えないが。
「感謝しよう。では、ひとつ面白いものを見せよう。これだ」
カズスが懐から出し掲げたそれ。
それは握りこぶし大の光る石だった。
「まさか、それはッ! メイジャの聖石かッ!?」
「そうだ。この石の中に、暗黒大陸で生誕する魔王の居場所の座標がすべて記されている。これによって、転移装置は過たずそこへ送るのだ」
「フン……すでに手に入れていたか。しかし残念だったな。聖石がその情報を示すのは、”勇者の紋章”を持った者のみ! それだけを手にした所で、宝の持ち腐れよォ!」
「”勇者の紋章”……これか?」
カズスはもう片方の手を上げ、腕を見せた。
すると、そこにあったのだ。
紛う事なき”勇者の紋章”が!
「あ、ああッ! バ、バカなァァァッ⁉ なぜきさまの腕に勇者の紋章がァァァッ!!」
「フッフフ…もちろんワーグから移しとったのだよ。でなければ、ワーグを囮になどするものか」
まずいッ!
このカズスの落ち着きよう、まさか奴はすでに?
「クッ……ならば、もはや猶予は不要! きさまのような危険な存在を一秒とて許すわけにはいかんッ。太陽光線発射装置を放ていッ‼」
「フフフフフ……ハハハハハハハ……」
カズスのまわりに黒い高濃度の瘴気がが噴き出す。
それが太陽光からカズスを守っている。
「無駄なあがきよ! そのうす汚い靄ごときさまを消滅させてくれるわ!」
「わたしも手伝います、【浄化】!」
猛烈に嫌な予感につき動かされ、おれも太陽光線に合わせて浄化を放った。
この装置の太陽光におれの浄化が加われば、どれだけ高濃度の瘴気であろうと、一瞬で消滅するッ。
…………するはずだった。
「バ、バカな、おかしいぞ! なぜ瘴気が晴れん⁉ こんなことはありえん!」
カズスから噴き出す瘴気は消えるどころかますます広まり、聖堂を覆いつくさんばかりに拡大していく。
どうにか瘴気の侵食から免れているのは、おれ達の周りだけという状況になってしまった。
「カズス……あなた、まさかすでに魔王の力を⁉」
「バカなぁ! 早すぎる! すでに暗黒大陸の奥地へ行き、魔王の力を手に入れることは完了したというのかァァァァ⁉」
「私がどれほどの時間、魔王の研究を続けてきたと思っている? そうだ、私はすでに魔王の住まう暗黒大陸の奥地へと行ってきた。そしてそこへ通廊をつないでいる。ここは無限の瘴気が流れ込んでいる状態よ。そしてッ」
奴の足元に、巨大な魔方陣があらわれた。
それはあまりに禍々しく、自然に嫌な汗が流れた。
「私の研究成果を観覧する栄誉を与えよう。お代は君達の生命でけっこうだ。暗黒の主、混沌の秩序をもたらすために来たれ! 【魔王召喚】‼」
「「「な、なにィィィィィィ!!!?」」」
「全員逃げやがれッ 全力疾走ォォォ!!!」
シュウザはおれを抱えて逃げ出した。
ナイス判断だ。とっさに百点満点の答えを出すとは、さすがお兄ちゃん。
奴の腕に乗っかりながら、光の防御結界を張る。
しかし、やはりおれの周囲数名の身しか守れず、残りは次々と暗黒の瘴気に呑まれてゆく。
背中からはカズスの勝利宣言が響く。
「フハハハハハハ残念だ。逃げることが出来るだけの光の力があったのか。この素晴らしき暗黒は、闇の住人たる私に無限の力をあたえてくれる。いずれは君達のいる場所へも挨拶に行こう」
シュウザの背中ごしに、おれが見たもの。
それは大聖堂を潰すほどに巨大な暗黒の瘴気で出来た、胎児であった。
「とくにエルフィリア。貴様だけは『けじめ』だ。貴様の策でネウディシは死んだ。けっして逃がさぬから、待っているがいい!」
ああ、待っているよ。
それまでにテメーを「ギャフン」と言わせるスペシャルな策を考えてやる。
「くそっ、野郎はあの魔王のおひざ元でやりたい放題ってわけか。とんでもねぇ事を考える野郎だぜ」
「いえ、カズスは”あれ”と一体化するつもりです。そして、わたし達はそれを妨げる術を持ちません」
「い…いかァんッ! ああ、大変なことに! 絶対まずい! やつは無敵になった! 世界すべてを侵食するほどに膨大な暗黒! 誰も倒せないッ」
器用だな、ヒュトロハイム。
全力疾走しながら、よくそれだけしゃべれるものだ。
「究極なる暗黒の支配者・魔王カズスの誕生だッーーっ」
さわぐな。
いま奴を倒すアルティメットな策を考えてるんだから、静かにしてくれ。




