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76話 勇者は似合わない

 「シーザぁ、戻れ! 遠距離で僕の【七星崩剣】で攻撃した方が安全で確実だ!」


 悪い、ジョイスロウ殿下。

 そればっかりは、たとえ王子殿下の命令だとしても聞けねぇよ。


 ワーグ、あの日から変わったのはお前だけじゃない。

 俺の方も変わっちまった。


 他に好きは女が出来ちまったんだ。

 それはまだ8歳の幼女だ。笑えるだろ?


 あの日、お前に抱いた想いは消えちまったけど。

 それでも、お前を抱きしめて叫んだ約束は生きている!

 

 ああ、後ろがうるさいな。わかってるよ。

 俺が一人突っ走っても、自殺と同じだってのは百も承知だ。


 ジョイスロウ殿下、ウサウサ、ポルマレフと連携して……

 いや、その他ここに残った警備の人達と協力すれば、安全に倒せるだろうよ。


 だけれど。


 それはワーグをただの魔物モンスターとして倒すことと同じだ。

 あの日、ワーグを守れず叫んだガキの頃の俺への裏切りだ。


 恐怖に負け、命を惜しみ、立ち止まったらワーグを救えない。

 だから俺は退かない!


 ザシャアッ


 「来たぜ、ワーグ。ここは俺たち二人っきりだ。久しぶりに話でもしようか」


 ワーグからわずか一歩半の距離。

 二度目はないであろう、この場所へ這ってたどり着いた。


 「シーザ……逃げて」


 「嫌だ。逃げたら、二度とここへは来れないだろうからな」


 ああ、いまにも泣き出しそうな顔だな。

 やっぱお前に勇者なんて似合わないよ。

 勇者の肩書は、俺がはぎ取ってやるさ


 ワーグは震えながらも、両腕を交差し俺に向ける。

 【竜砂嵐りゅうずなあらし】という技の構えだ。

 両腕から出た二つの竜巻が絡み合い、あらゆる物をねじ切る必殺技。


 「カズスの隷属の呪縛か。『誰であれ邪魔者は排除しろ』ってところか、命令は。待っていろ。いま、その呪縛から解き放ってやる」


 俺のシャボンは、あらゆる汚れを対象から剥離させる。

 それは、ワーグを縛る呪縛でさえも。


 しかし問題は、これから来る狂風をしのげるかだ。

 俺に向けられた両腕は、まさに竜のあぎと!


 「【竜砂嵐りゅうずなあらし】!」


 ゴオオウッ


 ワーグの両腕から破滅の竜巻が発生する。

 それは無茶苦茶にあらゆる方向に吹き荒れ、俺をねじり殺そうとする。


 「くうっ……シャボン・ガード!」


 こんな無茶苦茶な風の暴力をしのぐ方法なんて知らない。

 だから姿勢を低くし、シャボン・ガードで逸らすしかない。


 「ぐっ……シャボンが剝がされる……もたない……」


 どれだけ俺がシャボンを生み出しても。

 その度に吹き荒れる竜巻は、シャボンを剥がしてしまう。


 くそっ、この風が一瞬でもやんで、ワーグにシャボンを浴びせれば終わるのに!

 やがて俺に限界がきた。


 グシャアアッ


 「ああッ、シーザ!」

 「くそッ、だから言ったのに!」

 「シーザ、死ぬなあああっ‼」


 ついにシャボンの生成がかなわくなった瞬間。

 竜砂嵐の直撃をくらった。


 (ダメか……エルフィリア、みんな……バカやってすまない)


 血しぶきをあげ、宙を舞う俺。

 だがふと、不自然さに気がついた。


 あれほど荒れ狂っていた風がやんでいる。

 そして俺の下のワーグを見ると、青い顔をしている。


 そうかッ! ワーグもここで限界か‼

 ならば、この凪の時間だけが、最後の勝機‼


 「ワーグ! 俺の最後のシャボンだ。受け取れええええッ」


 もはやシャボンをつくる洗剤はない。

 ならば、ここに舞う赤い”しぶき”にスキルをこめるッ!


 「シャボン……ウオッシャァァァ!!!」


 限界を超えた本当に本当の最後。


 俺からあふれた血しぶきを全て赤いシャボンにして、ワーグの元へと送る。


 それはワーグを飾るように赤く輝きながら舞い浮かぶ。


 (きれいだ……)



 パンッ パパンッ パパパンッ


 ワーグに舞った赤のシャボンはすべて破裂した。


 そして見た。


 ワーグにかけられた黒い呪縛が霧散していくのを。


 (や、やった……カズス、ワーグは返してもらうぜ)


 ドサアッ


 「ぐウッ!」


 地面に叩きつけられ、痛みで動けない。

 いや、全身に血が足りてないのか。


 まるで最期みたいに、空をぼんやり見ているしかなかった。

 そんな俺に「スッ」と影が差した。


 「ワーグか。どうだ、気分は」


 「シーザ、ごめんなさい。私、私、あのリッチにさからえなくて……」


 「気にするな。もう一度こんな風に話せただけでも、その時間に意味はあった」


 ワーグの頼りなさそう顔は、昔よく見た彼女のものだ。

 ああ、俺は彼女のこの顔を見るために、こんなバカやったのかもな。

 

 「強くなったねシーザ。もう、私は誰にも止められないと思ったのに。ずっとあのリッチに従っていかなきゃならないと思っていたのに」


 ワーグは俺に手をかざして、でも恥ずかしそうにそれを引っ込めた。


 「どうした?」


 「私の手……こんなになっちゃった。これじゃもう、シーザの顔なんてさわれないね」


 ワーグは鋭い爪と鱗だらけの自分の手を悲しそうに見た。


 「なーに、ワーグはワーグだ。俺もいろんな伝手つてもできた。どうにか元の体に戻せないか頼んでみるさ」


 やがて外野がうるさくなってきた。


 「シーザ待ってろ! いま助ける!」

 「このバケモノ! シーザを放しなさい!」

 「うおおおおおっ、おれが相手だ! わが剣のサビにしてくれるわッ」


 やれやれ、もう終わったってのに、騒がしいことだ。

 ワーグが怯えてるじゃないか。


 俺は無理に起き上がって彼女を抱きしめた。

 この喧噪から守るため包み込むように。


 「シーザ……?」


 「大丈夫だ。ボロボロだけど、まだ守れるさ」


 「うん……」


 ワーグはそっと俺の背に手をあてた。


 いいさ。あまり、こうしてはいられないだろうけど。

 その時が来るまで、こうしていよう。


 わかれを惜しむかのように、俺達は強く抱き合った。



 

 第五章はこれで終わりです。

 次章はいよいよ最終章!

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― 新着の感想 ―
[一言] >次章はいよいよ最終章 終わりが近づいているようです。 果たして、シーザにとっての、ハッピーエンドになるかな?
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