74話 お兄ちゃんに告白された【エルフィリア視点】
「ちいっ、こいつら雑魚じゃねぇな。全員が妙に手ごわい連中だぜ!」
さすがのシュウザも、この偽カズスの集団には苦戦させられている。
これまで戦った不死者とは一線を画すパワー!
そして口には獣の牙。これは……
「こいつらは吸血鬼! 吸血鬼は不死者の中でも、強靭な肉体と恐るべき特殊能力を持った破格の存在です。それがこれだけいるとなると、わたし達だけでは危険すぎます」
これまで雑魚ばかりだったせいで、緩んでいた。
もしかして、あれはここの布石か?
「浄化!」
「グオオオオオオッ!」
どうにか一体を消滅させられたものの、おれ的にはおかしい。
おれの浄化は十体はまとめて消し去るぐらいの力はあるはずなのに。
「この部屋には聖属性の作用を弱める結界があります! アカラチア山にも同じものがありました」
やはり、このボス戦に絞って戦力を配置していたのか。
シーザがいりゃ、まとめて倒せたのに。
ジャウギの手下みたいなことがやれる人材があいつしかいないんで、向こうに配置してしまった。
「聖者の盾、悪しき者を退け祈りと共にあれ。【ホーリーウォール】」
呪文を唱えると、白色の光が盾となっておれ達の周囲を包んだ。
「結界をつくりました。ヒュトロハイム様が来るまでここで待ちましょう」
「そりゃ助かる……って、大丈夫なのか? なんか押し破られそうなんだが」
「聖属性を弱める結界がありますからね。いつもより倍がんばらないと、まともに機能しないんですよ」
「そうか……んじゃ、君はそれで何とかしのいでくれ」
野郎はまるで手洗いにでも行くような気安さで、結界をまたごうとした。
「ちょっと! なに結界から出ていこうとしてんですか! この数に囲まれて勝ち目があると思っているんですか⁉」
「二人も守ってちゃ人数オーバーだろ。おれは何とかするさ。大事な嫁さんに無理させるわけにはいかないしな」
誰が嫁だ! なんか泥沼にはまりかけている。
こりゃもう正体を明かして本気であきらめさせるしかない!
「待ってください。わたしは……じつは……」
おれは顔を顔を覆っているローブを取り去った。
「なっ⁉ リン、君は……」
そうだ。お前の妹のエルフィリアだったんだ!
カアアアアアッ
と、その時だ。
眩い光が反対方向から差してきた。
そして、その光を浴びた吸血鬼は苦しみはじめた
「グオオオオオオッ太陽だあああッ」
「なんでこの地下に太陽があああッ」
この光は太陽の光?
そして、その光を発している大型のカラクリの向こうに、見慣れた人間たちがいた。
そしてその中心に立つ人物こそ……
「おのれらッ吸血鬼!このヒュトロハイムとリヒテラーデ家臣団が相手だッ‼」
「ヒュトロハイムさま⁉ いったいそれは?」
「フフフこれを運びながらの進軍にはちょいと手間がかかった。しかし、やはり効果はバツグンだったようだな」
まさかあれは、太陽の光を人工的に作り出すものなのか?
「くらえいッ、スキード・ワゴン財団からもたらされた新しい対不死者兵器! 太陽光線照射装置イイイイ‼」」
「「「ウッギャアアアアアアアア」」」
カラクリが強力な光を放出すると、吸血鬼どもは数体まとめて灰になった。
「ウワハッハッハ小僧、おとなしく見ておれいッ! ここからは我がリヒテラーデ家臣団の独壇場だ‼」
「ちっ、凄いのはスキード・ワゴン財団だろうが。うぬぼれ野郎が」
まるで地上の太陽がそのまま来たような光が、この地下世界に満ち溢れる。
そして吸血鬼どもはみな灰となった。
あとには、兄シュウザと気まずい空気が残る。
「あ、あのシュウザ様……いえ、お兄……」
「リン、正式に申し込もう。結婚してくれ!」
は、はああああああ?
「目元から、かなりの美人だとは思っていたが、ここまでとは思わなかったぜ。それに、どこか妹の面影がある感じで、おれの好みにピッタリだ!」
この野郎……その妹だと気がついてないのか?
まずい! ますます泥沼にはまっちまった!
「それにしても、スッキリしねぇな。これで妹の仇は討てたのか? カズスってリッチ、本当にこの中にいたのかよ」
たしかにそうだ。
いくらあの兵器が凄まじいからって、カズスが簡単にやられるとは思えないが。
と、その時だ。
いきなり吸血鬼の首の一つが「ゴロゴロゴロ」と勢いよく転がりだした。
それはまるで意思があるかのように、首元を下に置いて直立した。
「ちっ、くたばってねえ奴が残ってたか⁉」
「ふん、無駄なあがきよ。太陽光線照射装置!」
「待ちなさい、まだ撃たないで! 何かの手がかりになります!」
その吸血鬼の首は口を動かしてないのに、言葉が流れてきた。
『フフフ……私の用意した【拠点捜索型モンスター討伐】のクエスト、楽しんでいただけたかな?』
その声はカズス!
しかし、あの首はカズスではない。
おそらくあの首は、あらかじめ決められた声を再生するようカラクリをほどこされている。
ハッ! ということは、ここには最初からカズスはいない⁉
『さて。そろそろ気がついただろうが、私はここにはいない。諸君がここで遊んでいる間に、私は目的を果たしに出ているのだよ。小娘、なかなか頭のまわる奴ではあったが、私と頭脳を競うには、まだまだ経験が足りなかったな。ハハハ』
やられた!
奴ははじめから守りなんて考えてなかった!
目的を果たすための”攻め”に転じていたんだ!
『本当の私と出会うときは、私が新たな魔王となった時だ。それまで壮健でいたまえ。フフフ……フハハハハハ……フハッフワァーッハッハハハハハハハア』
グシャアッ
腹立ち紛れに首を思いっきり踏み潰した。
「はめられました。奴はすでにここにはなく、目的のメイジャの聖石を奪いに動いていたのです! メイジャの聖石のある場所を知っていますか、ヒュトロハイム様?」
「う……うむ。このサンモリッツ街の東側奥にある大聖堂だ。そこにある魔王にいる場所への転移魔方陣と共に厳重な警戒で納められている。……ハッ! そこの警備の人員を、ワーグを抑えるためにセレモニー警備にだいぶ使ってしまっている!」
「そういうことですか。警戒をこことセレモニー会場へ集中させ、本命のメイジャの聖石の警戒を弱める。その隙に……」
「し、しかし昼間だぞ! であるのに、リッチが襲撃などできるのか⁉」
「カズスならやります! 今すぐにそのカラクリを大聖堂へ向かわせてください‼」
やられた! やられた‼
くそっ。ここに突入する前に感じた嫌な感覚は、策士としての勘だったのか!
「シュウザさま、とにかく、わたし達だけで先行します。いいですね」
「はじめて、おれを頼ってくれたな。よおっし、張りきっちゃうぜ!」
と、奴はおれをお姫様だっこして駆けだした⁉
「ち、ちょっと! 何を⁉」
「愛の特急馬車さ。こっちの方が速い」
本当におれが走るより速かった。
くそっ。この無駄な馬鹿力、本当にたよりにしてるぜ、お兄ちゃん!




