73話 お兄ちゃんといっしょ【エルフィリア視点】
現在、昼間ではあるが、砦跡内は光がまったく差さない暗闇だ。
なので、おれは自身で発光しながらシュウザと進む。
「ははは、光魔法というのは便利だな。妹も同じスキルを持っていたよ」
「まぁ、それはすごい偶然! さぞ可愛らしかったでしょうね」
「ああ。けど、いつまでもブラコンで困った奴だったぜ。『お兄さまのお嫁さんになる!』なんてバカなことを言っててな」
言ってねーよ。
記憶捏造すんな、シスコンが!
おまけに、なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
「妹の仇のためにも、このリッチはおれが必ずやる! 私怨につき合わせて悪いな」
その妹本人としては、つき合わされても文句言いにくい。
しかし『ノルデン領次期領主が自領を離れてこんな所で何やってんだ』とは言いたい。
今の時期は父の補佐をしたり、政務を一部代行したり、王族貴族と顔をつないだりと忙しいはずだ。
で、それとなく聞いてみると、最悪な答えが返ってきた。
「いまのおれはノルデン家のシュウザじゃねぇ。あてもなく彷徨う一掴みの雲。風の向くまま気の向くまま生きる雲のシュウザさ。もちろん何のしがらみも無いから、君と恋だってできる」
キメ顔で誰を口説いてるんだぁ‼
次期領主が雲になっちまったら、ノルデン領の領民はどうなるんだよ‼
アンタが次期領主やめちまったら、あとは戦闘バカ二人だぞ!
どっちも領主なんてムリムリの脳筋だ‼
「弟二人も、それぞれの道を探して家を出たそうだ。おれも負けちゃいられねぇ。全力でいまを楽しむことにするぜ!」
な、なんだってぇー!!
じゃあ今、ノルデン領の政務運営者はお父さま一人しかいないってのか⁉
このバカ兄は、なんでキメ顔でダメ人間競ってるんだぁ!!!
妹の苦悩も知らず、シュウザはじつに楽しそうにゾンビ、レイス、スケルトンどもを倒していく。
「ひょお、見た? さっきのおれ凄くね?」
ゾンビ、スケルトン十数体を一息で瞬殺。
たしかに凄い。
実戦を経験することによって、奴のスキル【武芸百般】は次第に洗練され開花していっているようだ。
しかし思うのだが、将来領主になる人間にこんな戦闘スキルが必要か?
むしろスキルのせいで、王族も貴族もちゃんと政治をやる人間が少なくなっていく気がするんだが。
「シュウザさま、待ってください。さっきの無茶であなたもケガを負っています。治癒をいたしますので、じっとしていてください」
「ああ、カスリ傷だ。急いでいる。ほっといてくれ」
パァァァァン
奴のムカつくイケメン顔を、怒りをこめて思いっきり張った。
「……痛いよ」
「不死者モンスターから受けた傷を甘く見てはいけません! その傷から魔素が侵食し、精神を奪われてしまうのですよ。強さにおぼれて戦いの基本をおろそかにするようでは、冒険者として素人です!」
「フッこのシュウザの頬を張る女なんてな、妹ぐらいかと思ったぜ。そんな女は君で二人目だ。君の顔を見せてくれないか?」
ヤベエ!
奴に治癒術をかけているので、かなり密着。
そのおれの瞳を、野郎はマジな目で見つめている‼
パァァァァン
「本当に手加減ねぇな。けっこう本気だぜ? 聖女様に噓は言わねえさ」
「それが不真面目だというのです! ここはすでに敵地。そのただ中で、パーティーの命をあずかる聖女を口説くとは何ごとです! あなたはクエストの基本も知らない素人です!」
「おおっと。そりゃ、ごもっともだ。たしかにこんな臭ぇ場所じゃ、キスしてもムードもねぇしな。んじゃ、続きはここを出てからだな」
「いいかげん手が痛くなってきたのでもう叩きませんが、お断りです。貴族の責任を捨て、領地を離れた風来坊にわたしが心ひかれるとお思いですか。あなたのような人間を貴族のクズというのです! 税金ドロボウの咎で処刑されておしまいなさい!」
いかん、これはおれにも刺さる。
「なら、おれと一緒にノルデン領に来ないか? 君となら妹を思い出にできる気がする」
『思い出』どころか嫁にする気か⁉
なんで罵詈雑言あびせてんのに、好感度が上がっていくんだよ!!!
◇ ◇
「いよっとお! どうだ、おれカッコイイか?」
その後も野郎は、おれに良い所見せつけるみたいにモンスターを撃破していく。
こんなデートみたいなクエストがあって良いのだろうか?
いや、良くはない!
モンスターは多く出るものの、殺傷力の低い雑魚ばかりだった。
なので助かってはいるが、本来なら……
うん? なぜだ?
どうしてこんな数ばかりの雑魚しかいないんだ?
まるで時間稼ぎのような……
「おおっとお、どうやらここがボス部屋みたいだぜ。ボスのリッチってな、あれか?」
シュウザの声で、何か浮かんだ思考が中断された。
ここは砦地下の最下層で、元は武器や糧食を備蓄する倉庫だったようだが、今は何もないただ広い部屋になっている。
そこの中央にポツンと椅子に座っている者が一人本を読んでいた。
顔を黒いフードを被っており、筋肉質の不死者。
「ええ。あれがアカラチア山で勇者パーティーを襲ったリッチです。名をカズスといいます」
「ふーん。勇者パーティーまるごと犠牲になったって聞いたが、あんまり強そうじゃねぇなあ」
おれ達が近づくと、奴はパタンと本を閉じ立ち上がった。
「来た……か。歓迎しよう。ネウディシの仇、晴らさせてもらう」
シュウザは油断なく剣を構えて戦闘態勢。
「へっ、仲間が退治されたのか? だが、こっちは妹が殺されてんだ。テメーをブッ殺して、妹の手向けにさせてもらう! リン、君は手を出すな」
「なにバカなこと言ってんですか。アイツは猛毒の瘴気を出すんです。わたしが浄化しながら戦わないと」
ガッキーン
シュウザの大きく振りかぶった斬撃を、カズスは持っていた大刀で受け止める。
シュウザは連撃で次撃を放とうとした。
が、中断し、危険を察知したかのように飛びのいた。
「……なんだ? 気配が他にもありやがる……それもあちこち?」
「後ろです! 避けて‼」
闇の中からもう一体のカズスが現れ、シュウザに斬りかかるのを見た。
シュウザはそれから飛びのいて逃れると、目を見開いておれを見た。
「リンの後ろもだ! 避けろ!」
反射的に大きく飛びのき、そこを見ると、そこにも新たなカズスが大刀を振り下ろしている姿があった。
「おいおい、標的のリッチってのは何匹もいるのかい? そんなの聞いてねぇぜ」
「違います。奴は影武者を何体も作っていたのです。この三体の中のどれかに本物が……えっ⁉」
その広い部屋から一人、また一人と、幾つものカズスが闇の中から出てきたのだ!
最終的に部屋は所狭しとカズスでいっぱいになってしまった。
「フハハハ私が本物だ。さぁ討ってみたまえ」
「いいや、本物は私だ。きさまの妹を殺したのは私だ」
「いいや私、私こそが本物!」
「ムフフ~ン、オラが本物ずら!」
「ぶっひひぃボクちゃんこそ本物! そこの聖女ちゃんとお人形遊びをたくらむ悪逆非道のリッチだもんねえ」
くっそう。
明らかなニセ者もまじっているのに、みんな同じ姿だから見分けがつかない!
どれが本物だ⁉




