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72話 お兄ちゃん来たる【エルフィリア視点】

 サンモリッツ街郊外砦跡前 


 ウサウサは街の郊外にあるこの砦跡にカズスがいることを突きとめ、ヒュトロハイム率いる家臣団はそこを包囲中。

 そこにスキード・ワゴンが財団の者と対不死者アンデッドの装備を運んで合流した。 

 いやまさか体調不良でリタイアしたはずのスキード・ワゴン爺さんが、また来るとは思わなかった。


 「お元気ですね。対不死者アンデッド装備を届けていただけるだけでよろしかったですのに、本人までここにいらっしゃるなんて」


 「わしに冷や水をかけた不死者アンデッドの最期は見届けたいからの。それにお前さんと話がしたくての」


 「まぁ、何かしら」


 「お前さんは『リン』という名前だそうじゃが、坊主やウサ耳嬢ちゃんは『エルフィリア』と呼ぶの。それはノルデン伯爵家の令嬢。このカズスに関わって死んだ聖女の名じゃな」 


 「『エルフィリア』という名前は優雅で素敵ですからね。憧れが過ぎて、遊びでそう呼ばせています」


 「ハハハまぁえわい。この質問も遊び、本題はこっちじゃ。嬢ちゃん、わしの弟子にならんか?」


 絶句した。

 マジか、この爺さん。


 「……………なるほど。コキ使う若い者が欲しいと」


 「ま、否定はせん。しかし、わしの80年におよぶ冒険者人生で会得した神髄。それを嬢ちゃんとあの坊主に学ばせてやろう言うんじゃよ」


 「さて。あなたに教わることがあるかは疑問ですね」


 「ほう、わしの実績では不服かの」


 「世界一とも言われる冒険者スキード・ワゴン。たしかにその実績に並ぶ冒険者などいませんでしょう。しかしそれは、あなたのスキル【遠見神眼】あってのものです」


 「そうじゃのう。それがどうかしたか」


 そこが問題なんだよ。

 仮にも”世界一”を名乗るなら気付け。


 「あなたはそのスキルのおかげで、どのような難所も最善の安全な道を見つけて突破することができました。しかしそのスキルを持たない者に、その真似はできません。危険を突破しなければならない局面は必ずあります」


 「うむうむ。ご苦労さまじゃ」


 イラッ


 「要するに最善で安全な道しか歩めない冒険者なんて者は、二流でしかないのですよ。おじいちゃん、あなたの経験は参考にはなりません」


 スキード・ワゴンは「ハハハハ」と笑い出した。

 ケンカを売る言葉だと思ったが、何か面白かったか?


 「嬢ちゃん、あんたの言う通りじゃ。たしかに、わしのクエスト経験は誰の参考にもならん。しかし、わしが嬢ちゃんらに教えられることは他にもあるぞ」


 「まぁ、何でしょうか」


 「王族、貴族といった上流社会の方々との付き合い方じゃ。そういった方々との交渉の仕方は、嬢ちゃんらのこれからに必要になると思うがの」


 おれの立場をだいたい予測したか、じいさん。

 ガチャ神の呪いか、おれはどうやっても淑女の話し方や優雅な仕草をやめることが出来ない。

 そのせいで、おれが貴族の子女だってのがバレバレだしな。


 「たしかに魅力的なご提案ですわね。では、返事はリッチ退治が終わる頃にさせていただきますわ。あなたのそれが、学ぶ価値があるか熟考させていただきます」


 「必要じゃと思うがのう。まぁええわい。ウサ耳嬢ちゃんが来たようじゃぞ」


 「さて。セレモニーが始まる時間になりましたが、シーザ達はワーグの足止めに成功したでしょうか」


 正午になると、最終試練出場の勇者が紹介されるセレモニーが始まる。

 これには当然ワーグも出場しなければならない。

 そこでこちらも偽ジャウギを立て、そのパーティーを装ったシーザ達で彼女を足止めするのが計画だ。

 しかしカズスが危うくなった今、ワーグがおとなしくしてるとは思えない。

 彼女を引き留めることに成功したか否かで、こちらの出方も変わる。


 「ワーグはセレモニー会場でおとなしくしてるよ。動く様子はないみたい」


 「…………え?」


 ウサウサの報告は、いささか意外だった。

 カズスの奴、こちらの狙いはもう気づいているだろうに、最大戦力のワーグを動かさないつもりか?

 妙に背中がチリチリした嫌な予感がする。


 「突入かの?」


 「……そうですね。万一の予備兵力は残し、砦に突入しましょう。ヒュトロハイム様に作戦開始の合図を送ります」


 と、その時だ。

 スキード・ワゴン財団の白いローブを着た聖女が慌てて報告にきた。


 「た、大変です! 砦に侵入しようとする不審者が現れました!」


 「なんですって! 何者ですか?」


 まさか、カズスの手の者?

 ワーグ以外にも伏兵がいたのか?


 「名を【シュウザ】と名乗っております。その……その者は、貴族のご子息かと思われ、とても気品ある容貌をしております。『ここのリッチは妹の仇だ。おれがやらせてもらう』と言ってまして……」


 「シ、シュウザですって⁉」


 そりゃノルデン家のおれの兄だよ‼

 どうして、こんな所に嫡男のアイツがいるんだよ!

 それに、どこでリッチのこと嗅ぎつけやがった‼


 「まったく、おかしな奴が沸いたのう。仕方ない。ヒュトロハイム殿の手を煩わせるわけにもいかんし、わしがい追い払ってやるかの」


 「いえ! 彼は【武芸百般】というスキルを持っていて、おそろしい達人です。下手に手を出せば、兵を減らしてしまうでしょう。彼はわたしにまかせてください」


 「うん? そやつ、嬢ちゃんの知り合いかの」


 「ええ。あいつがワガママ言ったら、ぜったい引き下がりません。それに放置していたら女性が危険です。わたしが出ないと」


 おれは聖女さんに飛びかかった。


 「ちょっと、あなた。あなたのローブを貸しなさい!」


 「はぁ?」


 おれは無理やり彼女のローブをはぎ取り、魔導具アーティファクトの指輪を出した。

 まさか、またあの姿になることになるとは。



 ◇ ◇ ◇


 大人の姿になり白ローブで顔を入念に隠して、砦へ突入前のヒュトロハイムの所へ来てみた。

 すると、やはりあのイケメン兄が彼と喧々諤々がなり合っていた。

 周囲には彼の家臣団の者が五人倒れている。

 無謀にも兄を力尽くでおさえようとしたのか。


 「おいおい、まだやるってのか? これじゃ突入前に全滅しちまうなぁ。ま、そのリッチはおれがちゃんとブッチめてやるから、おっさん共はおとなしく待ってな」


 「ええい、もはや遠慮はせぬ! きさまはカズスの手先とみなし、本気で排除する!」


 まったく、あのバカ兄が。

 奴をおさえるだけの余裕はないし、邪魔にならないよう参加させるしかない。

 おれは両者の間に入り、まずヒュトロハイムをなだめた。


 「ヒュトロハイム様。スキード・ワゴン様より、シュウザ様も戦闘に参加させよと申しつかりました。彼にはわたしが付きますので、どうかお納めください」


 何とかやりとりを重ね、彼とは別方面で動くことで話をまとめた。

 そしてシュウザを砦の別方面の入り口に誘導した。


 「シュウザさま、相手は危険な不死者アンデッド、この対魔装備を身につけてください」


 彼に浄化の力の付与した剣を渡し、ローブを身につけさせた。


 「気がきくねぇ。聖女さん、アンタの名は?」


 「リン、と申します。不肖このわたしもシュウザ様に付き従い、ご助力いたします」


 「そりゃありがたい。しかし、あのおっさんに先を越されるわけにはいかなくてな。女のアンタにゃきついペースでいくが、大丈夫か?」


 「わたしのことはご心配なく。たとえはぐれても、自力で切り抜ける実力はあると自負しております」


 「いいねぇ。リン、君が気に入った! あとでデートとしゃれこもう」


 妹を誘うな!

 ともかく、おれは兄のシュウザと砦跡へ突入した。


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