70話 勇者ジャウギ殿下のパレエド
俺達の乗るヒキャク鳥車は最終試練の場となる【サンモリッツ街】へと到着した。
ヒキャク鳥車の周りに、幾人もの人が集まってきている。
御者のポルマレフはそれを見て「ヒュー」と口笛を吹いて俺達に言った。
「それじゃ【討伐】の方は、おれ達【陽動】が出たら目立たず出てくれ。【陽動】は逆にしっかり目立てよ」
俺達の目的は勇者ジャウギの最終試練出場。
しかし、これは表向き。勇者、死んでいるし。
本当の目的は、この最終試練の場に潜んで陰謀を巡らせている賢者リッチ【カズス】の抹殺だ。
そのために、最終試練の場に着いた俺達は二つのチームに分かれる。
一つはカズスを探して倒す【討伐チーム】。
これはエルフィリアとウサウサ、そしてヒュトロハイムがその家臣団を率いて行う。
「では、私はさっそく家臣団を指揮してリッチのカズスの捜索に出る。と言ってもアタリはついておる。ワーグはやたら郊外の砦跡に行くことが多い。そ奴が隠れるには絶好の場所よ」
「だったら、まずはレンジャーのアタシが見てくるよ。けど、そいつを倒す装備の調達はどうすんだい? 相手はAA級不死系魔物。専用の装備を持たずに挑むのは危険だよ。エル……じゃなくて、リンがいても」
「王都に向かったスキード・ワゴンさんが、途中の街でありったけ購入してこちらに送ってくれる手筈になっています。それが届くまでにヒュトロハイム様は家臣団の準備をお願いします。言うまでもありませんが、ワーグには気取られないよう」
あっちは良い感じに準備に動きだしているな。
俺たちもカズスを討つまで、しっかり役目を果たさないと。
もう一つのチームが、勇者ジャウギのパーティーとして人目を引きつける俺達【陽動チーム】だ。
陽動といっても、こちらも大きな激戦が予想される。
カズスの討伐が始まったのなら、当然ワーグはそこへ向かおうとするだろう。
それを命がけで阻止し、足止めするのも役目だ。
「それじゃ、出ますよ。準備はいいですか【ジャウギ殿下】?」
俺は仮面の殿下に言った。
「う、うむ。いつでもいい……ぞ」
まだ、ぎこちないなぁ。
まぁこの人に本物の振る舞いなんて無理なのは承知だけどさ。
この不気味なあの仮面を被ってジャウギを演じているお方。
それは拘束されて連れまわされていた【ジョイスロウ殿下】だ。
ジャウギが死んだので解き放つことが出来たついでに、ジャウギと体格が似ているので、奴の役をしてもらっているのだ。
「しょうがない。殿下には黙って歩いてもらうだけにしよう。その分、俺達で本物らしさを演出するぞ。準備はいいか、クージーQ?」
「いいわよ! ううっ、どうして聖女であるこの私がこんな格好を(泣)」
俺とクージーQが演じるのはジャウギの手下A、B。
そのために俺達は奴らみたいな極悪ファッションをキメている。
さすがに髪をモヒカンには出来ないが、髪をトサカにして、趣味の悪いジャケット、ズボンを身に着けている。
まるでチンピラカップルだ。
「まさか、僕がジャウギ兄さんになる日がくるとはな。『あんな王子にはならない』と、いつも心に誓っていたのに」
「いちおう、王子殿下の侍従役のハズよね? ちっともそう思えないのは何故かしら」
「『仕えているのがジャウギ殿下だから』としか言えないな。さぁ、心を悪党に染め上げて元気に行こう!」
「どうしてノリノリなのよ、あなたは」
大通りをノシノシ歩む偽ジャウギ殿下の前を、俺とクージーQは並んで歩いてつゆ払いをする。
大声を張り上げてジャウギ殿下の到来を喧伝するのだ。
「いいかぁ~! このお方の名はジャウギ殿下! 魔王討伐へ赴く真なる勇者ジャウギ殿下だぁぁ!!」
むっ、あそこに陰口たたく不届き者を発見!
「おい、きさま! あのお方の名を言ってみろおーッ!!」
「えーっ! ひえええっ、ジャ、ジャウギ殿下……」
「『真なる勇者』をつけんか、バカ者ォーッ!」
ベッチーーンッ
しかし、せっかく俺が断腸の思いで悪党を演じているのに、相棒の手下Bはイマイチ演じきれていない。
「は、恥ずかしい! たしかにあいつら、いつもこんな感じだったけど」
「これが役目だろ。いいからクージーQもやれ」
「わかったわよ。ほら、そこの子供! あのお方の名前を言ってみなさい!」
クージーQはそこらを歩いていた適当なガキにかましたのだが。
「うわぁーっ、おにいちゃーん!」
「いや、名を言いなさいって……さっきからさんざん、あのバカが叫んでいたでしょ」
人選ミスだ。
怯えて泣かれてしまった。
「ええい! ジャウギ殿下の名を知らぬ者など、子供であろうと情け無用!」
「本当にノリノリね。どうするつもりよ」
「ええっと……どうしよう?」
ビシャッ バシャッ
そんな戸惑っている俺達の上から水がふってきた。
「あら、雨かしら?」
「ちがう! 臭い! これは……ッ!!」
最高に嫌な予感で上を見上げると、屋根の上にやけにイケメンな酔っぱらった男がいた。
そしてイケメンにふさわしい形の良いチ〇コを出して、俺達にションベンをかけていたのだ!!
「ぎゃあああああッ見ちゃった!! いやそれより汚い! 臭い! シーザ、洗ってぇ!」
「【シャボン・ウォッシャー】!!」
この時ほど、このスキルに感謝したことは無い。
しかし、あの男正気か?
もし俺達が本物だったら、命はなかったぞ。
「へっへっ。勇者きどりのチンピラどもにかけちまったようだな」
……俺達、本物じゃないけど殺しちゃおうか?
「ああっ、あのお方は⁉」
「なんだあの酔っぱらい、知ってるのか?」
「社交界でいま一番イケメンな貴公子の【シュウザ様】よ! どうしてこんな所であのような振舞いを? ハッ、あのお方の大事な所、見ちゃったぁぁ!!」
「そうか、殺すべき男ということだな。よし、殺そう」
「やめなさい。彼はノルデン伯爵家の嫡男。つまりエルフィリアのお兄さんなのよ」
「ええっ!?」
それにしても、伯爵家跡取りがどうしてこんな自棄な振る舞いを?
妹がエルフィリアなだけに、何故か理由が分かってしまった気がする。
……まさかね。




