67話 魔人消滅
不死者は、体内の器官を使わず魔力によってのみ生命を保ち、体を動かすことも筋肉ではなく魔力を使って行う。
スケルトンが筋肉など無いのに動くのはそのせいだ。
だが自ら不死者になった者の中には、生前の器官や筋肉を使用し活動する者もいる。
吸血鬼などがそれで、定期的に血液などを取り込まなければならないかわりに、魔力と筋肉の相乗効果で恐ろしい身体能力を発揮したりする。
あの【カズス】というリッチの作る不死者は、生前の器官を最大限に発揮させることに長けているようだ。
このネウディシの肉体もカズスがいろいろ施しており、不死者でありながら、生前の勇者のスキル、剣技ををそのまま使えるようになっている。
そして不死者でありながら、奴のスキルの膨大な”炎”に耐えられる体。
その秘密は、生前の『闘気の凝縮』を『魔力の凝縮』に変えることよって、熱も光も通さない肉体になっているためなのだ。
そこでネウディシの攻略は、それを崩すことからはじまった。
『闘気の凝縮』は、へその下の下腹部によって行う。
なのでそこを深く切り裂き、筋肉をズタズタにして『凝縮』をできないようにした。
結果、奴の熱の耐性は大きく損なわれ、自らの炎で焼かれることになってしまったのだ。
「あなたはシーザと戦ったとき、最初は侮り、次に自分の剣の腕を試す遊び相手にしました。ですが、シーザは初手からあなたに”戦”を仕掛けました。そしてその後、あなたの剣を回避しながら、あなたの魔術剥離のシャボンをたっぷり浴びせたのです」」
最初に奴が俺を侮ったのは、エルフィリアの作戦でそう仕向けたからだけどね。
「……戦か。たしかに人間だった頃は、おのれより強い者と戦う術を考えたものであったな。おれとカズスらを分断した手際。侮るべき相手ではなかったということか」
「元勇者ネウディシ、介錯いたしましょう。さまよえる不死者よ。闇の呪縛より解き放ち、いまその魂を清め、眠りに導かん。ホーリー……」
「なめるなぁ!!!」
豪剣一閃。
凄まじ大剣の薙ぎ払いから、エルフィリアは退がった。
「まだやる気ですか。もう、勝負はついているというのに」
「当然だ。たしかにおれは消滅を免れんだろう。だがこうなった以上、きさまらも死の忘却につきあってもらう。おれの最期の挑戦、受けろ!」
奴はボロボロと崩れていく体で、ふたたび大剣を構えなおした。
その姿に、生前の勇者の姿を見た気がした。
「わが友カズスと愛剣ブラトガイダルの名にかけ……シーザとエルフィリア。きさまらを抹殺する!!」
またしても奴からヤバい熱波が発せられる。
「また炎の柱になるつもりです。さっき同様にスキルを展開し続け耐えるしかありません。今度は奴が消滅するまで!」
「くそっ、まさか二度もやることになるとは。だが、コツはつかんだ。今度はもっと長くいけるぜ!」
「魔炎大剣灼熱柱!!!」
再び巨大な衝撃が俺達を襲う。
されどまた、黄金のシャボンでガードをする。だが……
「なッ! 黄金のシャボンを切り裂く⁉」
「自分の崩壊も構わない剣撃を打ち込んでいるのです! シャボンの密度を上げて!」
こ……これが命を捨てて挑んでくる者⁉
『さっき同様に』なんて甘い考えで守りきれるものじゃなかった。
こちらも決死でシャボンをつくり続けるまで!!
「うッ⁉ まずいッ!」
一瞬、視線をあたりに巡らしたとき、熱で燃えかかった森を見た。
もし、このまま大火事になってしまえば、ポルマレフ達はまる焼けだ!
俺はシャボンを身を護る使い方から、奴の全身を包み込む使い方に変えた。
「何をしているのですシーザ!」
「ヒュトロハイムらの方にまで熱がいっているんだ! とくに動けないポルマレフ、アムドウルがヤバい! こうなりゃ”守り”ではなく、”攻め”で奴を倒しにいく!」
「しかし……いえ、ヤツの体の崩壊を促進させるなら、いけるかも? こうなれば、わたしの制御できない法力までも使います! シーザ、がんばってください」
背中から、さらに膨大な法力が流れ込む。
その力で作った黄金シャボンの威力は凄まじく、逆に奴を押し返すほどだ。
だけどまずい! 今度は別の脅威が来た!
”たとえ”じゃなく、本当に天国へ行ってしまうような感覚がする!
「神の領域に踏み入れてはなりません! 行けば戻れなくなってしまいます。人間の世界に踏みとどまって!」
君の法力が、無理やり俺を天国へ押し込むんだよ!
ネウディシの崩壊は加速度的に速まっている。
あと十数秒で消滅するだろう。
されど、その”十数秒”が長い!
俺の意識も消滅しちまうよ!!
「くっ、くそおおお! ちきしょおおお!!!」
俺は叫びながら、必死で意識をこの世につなぎとめる。
「俺は……生きる! 生きて生き抜くんだあぁぁッ!!!」
(……生きる……そうか、おれは死人だったな……)
「え?」
最期の挑戦も終わり、ネウディシは完全に消滅した。
なのに、たしかに奴の声が聞こえた。
そんな疑問だけが、最後に考えられたすべてだった。
オレの意識は急速に薄れていき、白い世界へと消えていった――




