64話 ジャウギ最後の賭け
魔方陣が淡く消え去ると、そこに鬼人の如き巨漢が顕現した。
だがその巨漢は何故か、両腕いっぱいに人間三人をかかえていた。
え? あの人たちって……
「ああっ、ジャウギ殿下!」
「まさか、あの無敵の殿下があんな姿に⁉」
「くそっ、何なんだあの鬼人は!」
いつの間にやら集ったジャウギの手下モヒカン三人が驚愕している通り。
抱えられているのはジャウギ、ポルマレフ、アムドウルの勇者パーティーの中核三人だった。
三人ともひどい火傷と剣による刺し傷で深く傷ついており、意識なくグッタリしている。
そして、その真上からは、リッチの生首の声が響く。
「フハハハ、私もアカラチア山での敗北で学んだ! いかな強力なガードがいようとも、万一の切り札は備えておくことをなぁ。それが、この【勇者ネウディシ】だ! フハハハハ、ウワーッハッハ……ぐぺッ!」
ポトン
リッチの生首は笑いながら巨漢の手前の地面に落ちた。
それを慌ててワーグが拾いあげる。
「受け止めんかネウディシ! このバカ者ォ!!」
「すまんカズス。こいつらを持っていたものでな」
ネウディシと呼ばれた巨漢は手をひろげ、「ドサリ」と三人を落とした。
「最初の予定通り、いちおう生かしてはあるがな。やりすぎてしまったかもしれん」
「もはやその予定は……いや計画そのものは崩れた。こうなれば全員の力押しで、転移の鍵である【メイジャの聖石】を奪いに行く」
くそっあの大男、スキード・ワゴンの言っていた魔人か。見るからに強い。
いやそれは、ジャウギ、ポルマレフ、アムドウルの三人をまとめて倒したことからも明らかだが。
ふと見ると、リヒテラーデ家筆頭騎士のヒュトロハイムが、一連の成り行きを見ながらオタオタうろたえていた。
「バ、バカなああ! ワーグ! なぜそいつらの側にいる⁉ おまえは我がリヒテラーデ家の勇者であろう‼」
「いいえ、私の主はこのカズス様とネウディシ様です」
「フハハ筆頭騎士殿よ、そういう訳だ。このワーグはこのカズスの手駒。きさまが気まぐれを起こし『ワーグを連れてここに陣中見舞いに行こう』などと考え出さねば、もう少し長生きできたのになぁ」
「な、なんだと! あの絶大な力を持つワーグが魔物の手下だっただと⁉ さ、最悪の事実だぁ!」
「フッフッフそうだ。きさまらにとっては最悪の成り行きだな。皆殺しだ! ここにいる全員を始末し、ここら一帯をネウディシに焼き払わせる。すべての証拠は残さんッ‼」
くそっ。やっぱり、そうなるのかよ!
ここにいる者で戦えそうなのは、俺とエルフィリア。
それにヒュトロハイムにジャウギの手下三人って所か。
戦力は圧倒的不利な上に、連携すらできそうにないな。
だが、もう一人。
そこに倒れていたジャウギがフラフラと立ち上がった。
見るからに重症ではあるが、口調だけはいつ通りに偉そうに、なんと三魔人の前に立ちふさがったのだ!
「やはり、きさまはオーガなどではないな。きさまらはいったい何者だ?」
「我らもある意味『勇者パーティー』だよ。もっとも目的は魔王を討伐するのではなく、魔王の力を奪うことだがな。その力ですべてを支配してやるのだハハハ」
それはもう、魔王そのものじゃないか!
「おのれェ……フザケおって! きさまらが人間の敵だというなら、このオレが全員始末してくれる! 勇者としてな!」
あれ? ジャウギが勇者みたいなこと言っている。
あんなボロボロの体で。
「おおーっ、さすがジャウギ殿下!」
「あなたこそ、まさに真の勇者!!」
と、手下からはヤンヤヤンヤ。
なんだか俺まで、ジャウギが真の勇者みたいに見えてきてしまった。
「フハハ、フラフラではないか王子勇者殿。そんなザマで我らと戦うつもりか?」
「まぁ笑ってやるな、カズスよ。こういう根性をみせる奴を、おれは嫌いではない。こやつだけは焼かずに剣で介錯してやろう。最期にあがきたいならあがけ」
ネウディシという魔人が腰から大剣を抜きジャウギにせまる。
だがジャウギは、そんな危機にも「ニヤリ」と嗤った。
「フッそれはどうかな……」
ジャウギは懐から拳大の何かを取り出し、地面にたたきつけた。
それは不気味に発光し、何かの前兆を思わせた。
それを見たカズスは、一瞬で表情が変わった。
「むう、あれは【超昂破壊魔石】⁉」
「よく知っているな、生首リッチ。王家の勇者たるオレには、他にはない切り札があったのだ! それがこの【超昂破壊魔石】だ! 発動後、約一分で爆発し、ここら一帯は消しズミとなるのだ!」
「ほう、自分もろともか。勇者の鑑だな」
「バカめ! 勇者は死なん。もう一つの切り札がこれだあ!」
ジャウギの体もまた発光しだした。
「これぞ王家専用の【護りのアミュレット】! 効果は約10分と短いが、あらゆる攻撃・衝撃から完全防御する! ウワッハハハ、バケモノども。きさまらが粉々に砕け散るザマを、ここでゆっくり見物してくれるわ!」
ええっ!! ひょっとして、それって、俺達もろとも?
「ジャウギ殿下ぁ! お、おれ達はどうなるんです!」
「ま……まさか、いっしょに木っ端微塵⁉」
「そんなバカな! 見捨てませんよね! ね?」
そうだ、ここにはジャウギの手下もいる。
何かしらの救済措置とか考えてあるんじゃ……
「ん~ああ、きさまらも死ね。勇者の大義の前に、たった三人程度の命が何だというのだ」
あ、やっぱ、いつも通りのジャウギだ。
さっき見た真の勇者の姿は幻だった。
「うっ、うわあああッ! 逃げろおおーっ」
「ちっきしょう、ドクズ勇者めええっ」
「とにかく遠くへ急げぇ!」
ジャウギの手下三人は全力でその場から逃げ出そうと駆けだした。
されどネウディシはそんな三人に手を向けると、ファイアボールを放った。
「あぎッ⁉」「ぼえッ⁉」「ぎゃばああッ‼」
三人が爆発した⁉
あんな軽く放ったファイアボールで、人間を爆散させるなんて!
なんて奴だよ!
それを見て、エルフィリアを抱えて逃げ出そうとした俺も足を止めた。
「シーザ、ポルマレフ達の側に寄りなさい。耐えられるか分かりませんが、最大の【障壁】を張って防御します」
それしかないか。
ついでにヒュトロハイムも連れてくるか。昔、あこがれていた騎士だし。
魔人三人はどうするのか見てみたが、この期に及んでも逃げ出そうともせず妙に落ち着いていた。
「フツ王子勇者よ。そういう切り札は、敵に気づかれずに発動させるものだ。他者を見下すその傲慢さが、切り札を台無しにしたな。ワーグ!」
ワーグはカズスの頭をネウディシに預けると、その【魔導破壊石】を軽く拾いあげた。
そして両腕から竜巻を発生させて「ゴオウッ」と遠くへ投げ飛ばした。
それはどこまでもどこまでも遠くへ飛んでいき……
遥か彼方で「ズウンッ」と小さな爆発音がした。
「と、いうわけだ。なぁ勇者王子、もう一度笑ってみるかね?」
「あ、ああ? そ、そんなバカな……」
「さて、せっかくの王家専用の【護りのアミュレット】だ。時間まで待つなどもったいない。それがどの程度のものか試してみようではないか、なぁネウディシ、ワーグよ」
カズスのその言葉に、ワーグがジャウギの前に進み出た。
「では私から。【竜砂嵐】!」
「うぎゃあああああッ!」
ギュオオオオオオッ
「これが……両腕を解放した竜人娘の力ですか。ふたつの小竜巻が絡み合いねじれ、威力を何倍にもしています」
二つの竜巻に高速回転で体をねじられるジャウギ。
その体は激しくたたきつけられ、地面に大穴を開けた。
されどその体はバラバラになることなく、無事であった。
「なるほど、たしかに大したものだな。【竜砂嵐】の直撃を受けて無事だ」
「では、次はおれだな。勇者王子、手加減抜きでいくぞ」
「はあああ……ッ!!」
今度はネウディシがカズスの頭をワーグに預け、ジャウギの前に進み出る。
「や……やめてくれ! た……たのむ。もう一度あんなのをくらったら、いかにアミュレットの加護といえど保たねえ! なっ、なっ!」
「【魔炎大剣灼熱柱】!!」
「ううわああああ!!」
ネウディシは容赦なくジャウギに大剣を振り下ろした。
その瞬間、二人は巨大な炎に包まれ。
炎は巨大な柱となって屹立した。
その炎はまわりの地面をマグマにして溶かすほどの高温であった。
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