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63話 魔人顕現

 リッチの暗殺へ向かうその前。

 料理係の役割として、体調を崩しているスキード・ワゴンに消化の良いシチューを作って持っていった。

 スキード・ワゴンは荷台の近くの片隅で目をつむりながら微動だにせず座っていた。


 「スキード・ワゴンさん、食事をお持ちしました」


 「うむ、わしの前に置け。いま目が離せん」


 「視ているのですか? 勇者パーティーの光景を」


 「そうじゃ。昼ごろ、問題のオーガをとらえて戦闘に入った。それ以来ずっとな」


 スキード・ワゴンのS級探索スキル【遠見神眼】。

 視線だけを遠くに飛ばし、その光景を見るスキルだ。


 「それで倒せたんですか? 勇者パーティーの方々は、試練を突破しましたか?」


 「できておったら、視ることを続けておらん。いまだそのオーガと戦っておるよ。昼から続けてな」


 「ええっ⁉」


 「いや、やはりあれはオーガなどではないのう。オーガが使う得物はこん棒じゃが、奴は大剣を使っておる。それでパーティー全員の攻撃を捌いておるわ。見事なものじゃ」


 「え? ジャウギ……殿下の【勇者羅漢撃】もですか?」


 「うむ。ジャウギ殿下の羅漢撃も、ポルマレフの【銀冠戦車陣】も、アムドウルの【炎熱魔法】も、すべて大剣一本で捌いておる。同時にな」


 「え、えええっ⁉ そんなバカな!」


 オーガが剣術を使うなんて話は聞いたことがない。

 それが、そんな神業みたいな剣術を駆使し、あの三人を同時に相手をして今まで戦っているだなんて!


 「おまけに炎熱系の魔法まで使っておる。炎熱魔法はアムドウルも得意じゃが、それを圧倒した火力じゃ。【灼熱】と言うほどのな」


 「えーえええええええーーっ⁉」


 あの人って、たしか王国最高の魔法師とかだったよな?

 それを圧倒するって、どんだけだよ!


 「オーガが魔法を使うなんて、聞いたことがありません! そいつはいったい何なんですか⁉」


 「だから、あれはオーガなどではないんじゃ。管理員が、こんな特異な奴を試練の標的に選ぶわけもないしのう。あれは【魔人】とでも呼ぶべき存在じゃな。アムドウル、もはや撤退せい。この試練、やはり何かおかしい」


 「あ、あの! ウサウサとクージーQキューはどうなっていますか? 二人は無事ですか⁉」


 「ああ、嬢ちゃん二人なら心配はない。アムドウルが早々に離脱させておるわい」


 そうか。ナイスだ、ブ男だけど紳士なおっさん。

 できるなら、アンタもポルマレフも無事に逃げてくれ。

 しかし試練がヤバイことになっても、俺にはやらなきゃならないことがある。

 いまはワーグをあのリッチから解放することが、俺の大事だ。


 

 さて、本命のリッチ暗殺。

 リヒテラーデ伯爵家のキャンプしている場所へシチューを入れた大鍋をもっていった。

 どうにか、ワーグの持つ黒い箱に近づく方法を考えて行ったのだが。

 そんな考えは、まったくの無駄だったね。


 (ワーグよ! あやつ、強い浄化の気配がある! 奴を私に近づけてはならぬ!)


 「カアアアアアアッ!」


 やはり不死者アンデッドなだけあって、浄化の気配には敏感。

 強すぎる浄化の気配を持つ得物のせいで、あっという間に俺の狙いはバレてしまい、ワーグが襲いかかってきた。


 「ワーグ! またしてもか! ええい、やめろやめんかああ!」


 いや、ヒュトロハイム様。アンタの命令はワーグは聞かないんだよ。

 コイツの本当の主人は片手に持っている黒い箱の中だ。


 ワーグの爪は縦横無尽にふり回され俺に迫る。

 されど俺はそれを冷静に観て、避けて避けまくる。


 「パワーはすごくても技術は未熟だな。技の間隔が長いぞ、ワーグ」


 ジャウギの怒涛のような拳と比べると、やはり見劣りしてしまう。

 片手でリッチの首の入っている箱を持っているせいで、片手だけの攻撃だし。

 だが、この爪攻撃は見切れても、俺は容易には踏み込まない。

 ワーグにはまだ恐るべき技があるのだから。


 さて、そろそろ始めるか。

 俺は渡された得物【穢払い浄化包丁】を抜き、構えをとった。


 それに反応し、ワーグは大事をとって距離をとる。

 そして俺に向けて腕を伸ばした。

 来る! あの、腕から竜巻を発生させる必殺技だ!

 だけど俺の構えは、その態勢をとらせることが目的だ。


 トンッ


 「ア?」


 (な、なにっ⁉)


 瞬間、俺の影から這い出し、その腕に飛び乗った小柄な影があった。


 「ごきげんようワーグさん。それに、リッチのカズスさんでしたわね」


 そう。元々俺ごときがワーグの守りを抜けて、リッチのいる箱に手が届くなんて思っちゃいない。

 この強い浄化の力をこめた刃も、俺自身も、すべてはこの第二の刃を隠すための小道具だ。

 その刃の名はエルフィリア!

 彼女は、ずっと俺の側の死角で潜み続けていたのだ。


 「そして、さようなら。白き光に導かれ、死者のあるべき所へ向かいなさい。【浄化】!」


 エルフィリアの組んだ印から白い光があふれる。

 それはワーグが守りにはいる隙を与えず、黒い箱へ……


 (おのれ小娘! だが、まだだ!)


 「え? きゃあ!」


 ズウウン……


 白光が放たれる寸前、黒い箱は爆発し、あたりに強い瘴気をまきちらした。

 くそっ。アカラチア山での戦いで使ったアレを、箱にも仕掛けていたのか!


 「来い、ネウディシよ! もはや遊びの時間は終わりだ!」


 上空からの叫びに見上げると、あのリッチの生首が空を舞っているのが見えた。

 そして生首が叫ぶと同時、その真下の地面に大きな魔方陣が現れた。


 「いけない! あれは召喚術。何者かを召喚しています!」


 エルフィリアの叫びに、俺はとてつもないヤバイ予感に襲われた。

 その予感は最悪の形をもって、もたらされた。

 スキード・ワゴンの語っていた、あの、勇者パーティーをたった一体で圧倒した謎の【灼熱の魔人】。

 それがいま、この場に顕現したのだ!


 


 

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