62話 長い夜の始まり
「フン、まあまあやるな。では次は、オレをかませ犬呼ばわりしたツケ、払ってもらおうか」
ジャウギはゆらり立ち上がる。
相変わらず痛いくらいの殺気がみなぎっている。
だが、ヒュトロハイムはワーグの前でさえぎった。
「おおっとおお! この勇者ワーグ・リヒテラーデは、すでに最終試練を決めておーるのですよ! このワーグに挑戦したくば、まずは殿下がワーグと同じ位置に立つのが筋ではありませんかな? 殿下が真の勇者であられるならば、ですがぁ!」
「クッ……おいジジイはまだかかるのか⁉ さっさと第四試練をかたづけて、こいつらをブチ殺す最終試練へ行くぞ!」
「スキード・ワゴンさんは体調を崩していながらスキルを使っているのです。時間がかかるのも仕方ない……あ、スキード・ワゴンさん!」
ポルマレフの言葉にそちらの方へ目をやると、たしかにスキード・ワゴンがアムドウルとクージーQを伴って出てきた。
「標的の位置はすでに把握しておる。あの位置から森に入り、直線距離で半日ほどの開けた場所におるわい」
「はぁ? いくら何でも近すぎるだろ、じいさん」
「スキード・ワゴンさん。それは本当に標的のオーガで間違いないのですか?」
ポルマレフとアムドウルの疑問にも、それだけは自信ありげにスキード・ワゴンは言った。
「時間をとってしまったのは確認のためじゃ。たしかに奴に管理員のつけた刻印はある。しかし妙なことに鬼人の王でありながら、まわりに他のオーガがおらん。それに、あれはオーガとは違う気配の気がする」
スキードの答えで、とたんにジャウギは上機嫌になった。
「フッ…そうかそうか、なら今日一日でカタがつくな。では、さっさと殺しに行くとするか」
「ウム……しかし、どうにも嫌な予感がいたします。ジャウギ殿下、今日は一日、奴を探ることに費やすべきだと思いますが」
「くだらん!!!」
ジャウギは爆発したようにスキードの提案を一蹴した。
「年寄りの慎重論なぞゴブリンにでも喰わせておくがいいわ! 老いぼれ、きさまの仕事はここまでだ! 今から第四試練に出る! 今日中にかたずけてくれるわ!」
意見が割れたスキード・ワゴンとジャウギ。
ポルマレフとアムドウルはとまどっていたが、その答えを出した。
「しゃーねぇな。アムドウル、行くか」
「やむを得ませんな。王家との契約がある以上、ジャウギ殿下に従うほかないでしょう。スキードさんは待っていてください。無論、慎重なクエストを心掛けますよ」
「……そうか。ではアムドウル、撤退の判断はお主がくだせ。ジャウギ殿下、もしアムドウルが撤退を判断したなら、必ず従いますよう。王太子殿下より預けられたワシの権限はいまだ有効ですぞ」
「……チッ、ああ従ってやる。この老害が!」
いや、アンタも老人じゃないけど、十分害だから。
そこにクージーQは進み出て、ジャウギに言った。
「ジャウギ殿下、今回こそは私も参加させていただきます。足手まといとみなされたなら、置いてくださってもかまいません」
「きさま如きにかまっている暇も惜しい。ついてきたくば、勝手にするがいい」
クージーQは『やった』という顔をして俺の所へ来た。
「ふふん、今度こそ聖女の役目をはたしてみせるわ。あの脱落幼女聖女に、魔王討伐にのぞむ聖女の力を見せてさしあげるわ。赤ちゃんは自分だって思い知りなさいフフフ」
「そうだな。君のおっぱいで養育してあげてくれ」
「この痴漢がぁ!」
ボコオッ
「イテテッちょっと下品たったな。まぁ、だからわざと殴られてやったんだが」
「まったくエルフィリアったら。私の活躍がまぶしいからって『引きこもり』だなんてね。パーティーが帰ったら、ちゃんと出迎えるよう言っときなさいよ」
エルフィリアがこの場にいないのは、リッチ退治のための準備を何やらしてるせいだ。
それはともかく、クエスト前にこんな風に浮かれる奴は危ない。
エルフィリアが彼女を見たら、やっぱり赤ちゃんだと思うだろうな。
俺はちょっと心配になって、いちおう手をうっておくことにした。
「ウサウサ、スキード・ワゴンが行かなくても、パーティーについて行ってくれ。クージーQを気にかけてほしい」
と、ウサウサに頼んでいると、そこにポルマレフも来た。
「同行はおれも頼もうと思ってたんだ。ウサウサ。さっきの話と違うが、いちおうアンタもついて来てくれ。そのオーガの様子を探るのに役立ってほしい」
「なんかモテモテだねアタシ。ああ、いいよ。世界一冒険者のじいさんがビビるオーガってのにちょっと興味がわいたしね」
そんなわけで、ジャウギ勇者パーティーは出発した。
順調にいくなら、明日が帰還予定。
パーティーの様子は今もスキード・ワゴンがスキルで追っているはずだ。
そしてエルフィリアは、ワーグの側にはべる賢者リッチを倒す準備をしている。
「…………メシ、作るか」
俺はといえば、それしかやることはないんだよな。
人間、どんな時でも食うことは大事だしな。
やがて日が落ち宵の口になる頃。
夕食を作っていた俺の元にエルフィリアがやってきた。
「シーザ、準備ができました。仕掛けますよ」
「夜にやるのか? 相手がリッチだけに、昼間仕掛けた方が確実じゃないか?」
「ですが、明日ではジャウギ達が帰ってくるので、事態がどう転ぶか予想つきにくくなってしまうのです。大丈夫、夜であろうと不死者はわたしが天敵です。問題なのはあの竜人娘だけです。はい」
エルフィリアは一本の長包丁を差し出した。
俺がメディスン街で買ってきたうちの一本だ。
だがそれは白光で輝き、清浄な香気があふれていた。
その刀身を見ていると、思わず神に祈りたくなる衝動に駆られる。
「わたしが浄化の力を込めた【穢払い浄化包丁】です。これを突き刺せば、いかな不死者も昇天間違いなしです」
「これで俺にあの箱を刺せ、というわけか。ワーグの守りをかいくぐって」
「無理でしょうね」
「はっ?」
「相手はあの賢者リッチに強化された勇者。その守りを、シーザに突破できるなら苦労はありません」
だよな。
Ⅾ級冒険者におくれをとる勇者なら、勇者の称号は何だって話になるし。
「なら、俺はこれで何をするんだ?」
「暗殺のセオリーですが、守りをかためた相手に最初の得物でカタがつくことは稀です。ひそませた第二の刃をもって暗殺を成し遂げます」
暗殺にも通じている聖女様って何なんだろうね。
「これは第二の刃を隠す小道具ってわけか。じゃあ『第二の刃』ってのは?」
「ふふっ。いつも見ているではありませんか」
エルフィリアは意味ありげに笑った。
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