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61話  竜人勇者ワーグ

 「じつに、じつに喜ばしいことですなぁジャウギ殿下。どうやら最終試練へ間に合いそうで、このヒュトロハイム、安心いたしましたぞ」


 俺達が馬車の到着した場所に着くと、そこには立派な騎士の身なりをした男が、ジャウギの前で大げさな身振りで話しているのを見た。

 金髪を短く切りそろえ、騎士らしい精悍な顔つき。

 もう年は40近いはずだが、鍛えた若者のような強靭な肉体をしている。

 俺はあの男を知っている。

 リヒテラーデ伯爵の名代みょうだいとしてたびたび村に通達しに来る、リヒテラーデ家筆頭騎士【ヒュトロハイム】だ。

 こんな未開の地で彼を見るのは変な気分だ。

 上機嫌な彼に対し、話しかけられているジャウギは不機嫌そうだ。


 「フン残念だったな、負けカス伯爵の犬。時間切れでオレの失格を狙っていたのだろうが、そうはいかん。最終試練では、きさま自慢の勇者をブチ殺してやるから楽しみに待っていろ」


 「いやいやぁ、時間切れで勝利を拾おうなどとんでもない! むしろ我々があまりに! あまりに速く試練を突破してしまったので、王家の勇者様が間に合わなくなるのを心配していたのですよ! このまま我が勇者が一人勝ちしてしまっては、リヒテラーデ家の勇名を貴族諸兄の皆さま方に披露できなくなってしまいますからなぁハハハ」


 「……ほう。デカくでたな。このオレをかませ犬にするつもりか?}


 「フッ、ジャウギ殿下。あなたの【暴虐】の異名は轟いております。しかァし! 我がリヒテラーデ伯爵家の勇者育成術は世界一ィィィィ! 勝てる者などォありはしませェェェん!」


 相変わらず妙なテンションで話すお方だ。

 王族相手にもあの調子だとはおそれいった。


 「きさま……そこのバケモノ小娘がオレより強いと言うつもりか? ためしてやろうか」


 バケモノ小娘?

 俺はやっと主張強すぎる二人より少し離れて佇む彼女を発見した。


 「あ、あれがワーグ? あの姿はいったい……」


 ワーグの体は全身が鱗のようなものが生えていた。

 頭部には角のようなものが生えており、手先には鋭い爪。

 背中には竜の翼のようなものまである。

 そして何故か大きめの黒い小箱を大切そうに持っていた。


 「ブワァーッハッハア! あれこそワーグの比類なき武勇のあかし! 彼女は真正のドラゴンを倒し! その力を取り込んだのです! そして歴代最高の勇者となったのだァーーッ」


 ド、ドラゴンを倒した!?

 あれって軍隊が出動して、やっとどうなるかって魔物モンスターだろ?

 個人の勇者がどうにかできるものでもないはずなのに。


 「それをあのワーグが……」


 「たしかにシーザの幼馴染にしちゃ剣呑すぎだね。で、どうすんの?」


 「とにかくワーグと話してみる。お茶でも持っていこう」


 そんなわけで高級茶を三人分用意し、彼女の元へと行ってみた。

 さて。ワーグは俺を覚えているかどうか。

 彼女の後ろから近づき、話してみる。


 「勇者ワーグ様、お茶をお持ちいたしました」


 が、彼女に話しかけたのに、火のような反応を返したのはヒュトロハイムだった。


 「バカ者ォォ! 小僧、ワーグの後ろに立つんじゃあない!!」


 ――え?


 「カアアアア!!」


 瞬間、俺の顔面にワーグの鋭い手刀が飛んできた。

 すんでの所でかわす。地面に落ちた茶器が音をたてて砕ける。

 

 ―――なんだ、このパワーは!?


 もし受けたら砕ける、それほどの人間離れした膂力りょりょくだ。

 さらに連続して火のような攻撃が繰り出される!

 くっ、スキルなしでは危険か?


 「ワーグ、やめろ、止まれ!」


 ヒュトロハイムの叫びにもワーグは止まらない。

 鋭い爪をふりまわしメチャクチャ速く攻撃をしてくる。


 それに対し、俺もシャボン・バリアーを展開。

 本身の腕だけでなく拳圧、風圧までも計算しながらすべて流していく。


 「な……なんだ、あの小僧。ワーグの腕をあそこまで避けるのか?」


 「フン、さっそくオレの新たな拳に対し対策してきたか。オレのおかげで命拾いしたな、シーザ」


 悔しいがジャウギの言う通り。

 ハデに吹っ飛ばされたジャウギのあの拳を見ていなければ、このパワーの手刀を流せなかっただろう。

 それに何故か、彼女は黒い箱を大切そうに片手で持ったまま攻撃している。 

 おかげで片手のみの攻撃なので、余裕でいなせてかわせているのだ。


 ――ゾワッ


 一瞬、ものすごい悪寒がした。

 反射的にシャボンをワーグの顔に浴びせた。


 「…………シーザ?」


 なっ! ワーグが俺の名を呼んだ?

 昔のままのあの声で!


 「ワーグ? そうだ、俺だ! シーザだ!」



 ボッガアアアアン


 ――か、風が爆発した⁉


 彼女のとまどった様子とはうらはらに、容赦なく攻撃はきた。

 ワーグの腕からものすごい竜巻が生まれ、それに吹き飛ばされてしまったのだ。


 (ばかな! ワーグの意識が一瞬目を覚ましただと? シーザめ、やはり厄介な賢者か)


 ――?!!


 吹き飛ばされる瞬間、ワーグの持つ黒い箱がしゃべったような気がした。


 バフッ


 「また助けられたな。いつもすまない、エルフィリア」


 またしてもエルフィリアが後ろにいて、先日のように光の幕で俺を受けとめてくれたのだ。


 「仕方ありませんね。止まらないのなら、力で止めるしかありません。シーザ、二人でいきますよ」


 「あ、ああ。ワーグ、待っていろよ」


 だが、また黒い箱から声が聞こえた。


 (ワーグよ、退け。あの小娘、かなりの光術使いのようだ。このまま二人を相手どるのは不利だ)


 「シーザ……」


 またしても俺の名を呼び、ワーグは背を向けてヒュトロハイムの元へ戻った。


 「バカ者ぉ! ワーグ、なぜ私の命令をきかん! 『止まれ』と言っただろう!」


 「申し訳ありませんヒュトロハイム様。また耳がバカになっていたようです」


 エルフィリアはそれを冷ややかに見ていた。


 「『バカ者』は自分ですね。あの名代、竜人娘が自分の指揮下にあると思っています。彼のことは何となく覚えていますが……十年以上たっても、自信が過ぎて見えなくなってしまう性格はなおりませんでしたか」


 「どういうことだ? 彼女の主人が別にいるような言い方だが」


 「あの黒い箱ですよ。試練のクリアが人間離れした速さで疑ってはいましたが。あの勇者を狙っていたリッチ、向こうの勇者に手を出していたのです」


 あの【カズス】という賢者のリッチか?

 たしか首だけになっていたが、まさかあの黒い箱の中に奴が!?


 「ですが、こんな場所にノコノコ来たのが運の尽きです。どうやらアークライトの懸念けねん、この場で晴らせそうですね」



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― 新着の感想 ―
[一言] >こんな場所にノコノコ来たのが運の尽きです いや物語的にそう簡単には、やられんな。
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