60話 もう一人の勇者の来訪
そして翌朝。
現在、スキード・ワゴンがスキルで目標の森の中のオーガ・チャンピオンの位置を調べているので、勇者パーティーは待ちの状態だ。
ジャウギは手下どもとだべっており、クージーQとアムドウルはスキード・ワゴンの看護。
そして俺とエルフィリアは、ポルマレフとウサウサと共にいた。
ウサウサがスキード・ワゴンを運んで同行することになったため、彼女のために背負子を作ってやっていたのだ。
「背負子の具合はどうですウサウサさん。スキード・ワゴンさんはあまり重くないので、ウサウサさんなら大丈夫と思いますが」
「ああ、悪くないよ。行けそうだ。でも、どうせならスキードさんもアムドウルさんのアイテムボックスとやらで運んでいけばいいのにね」
なんでもアムドウルさんは膨大な荷物も小さな袋に収納できる『アイテムボックス』という便利なものを持っているらしいのだ。
彼らが荷物持ちを使わないのはそのためだ。
さすがは魔法関係のお偉いさんだね。
「おいおい、アイテムボックスに収納できるのは生命のない荷物だけだ。女にこんな役割を押し付けるのは悪いが、頼んだぜ」
いい機会なので、俺はポルマレフに長く疑問だったことを聞いてみることにした。
「しかし疑問なんですが。勇者の試練を管理している人は、どうやって試練がクリアしたことを知るんです? とくに見届け人のような者は来ていませんが」
「ああ、知らなかったのか。んじゃ、教えてやるかな」
と、ポルマレフはその仕組みを説明してくれた。
「ダンジョン攻略などは、あとでその見届け人が来て、ちゃんとダンジョンが潰されているかを確認に来る。そして今回のように、標的となる魔物を狩る、という課題の場合には、事前にその魔物にとある魔法をかけるんだよ」
「魔法? どのようなものです?」
「”生死判別確認”という魔法の刻印だ。それを打たれた魔物は、生きているか死んでいるかが遠く離れた王都でも瞬時に分かるようになるんだと」
「え? その魔法はどうやって魔物にかけるんです?」
「事前に勇者管理員がその魔物に刻印を打ちに来るんだ。腕利きの冒険者をやとってな」
「それじゃ今回のオーガも、その管理員がすでに見つけてるんですか? この森に入って?」
「ああそうだ。こんな場所の試練だろうと、目標は大抵浅い場所にいるもんなのさ。試練ってな、どれだけ長期の課題でも、探索に二週間は越えないよう定めてあるんだ。試練に時間をとられすぎて本命の魔王討伐が遅れちゃ本末転倒だしな」
なるほど。
前にポルマレフにどのくらいかかるか聞いたとき、『5日くらい』と答えられて正気を疑ったが、そういう仕組みだったのなら納得だ。
そのとき、背負子にエルフィリアを乗せて遊んでいたウサウサが言った。
「ポルマレフさん、馬車が来るようですよ。何か心当たりはあります?」
「いや? 物資の運搬はまだのはずだしな。しかしこんな場所に来るのは、おれ達の用以外ってことはないな。誰だろう?」
やがて問題の馬車が通り過ぎるのをみた。
そこそこ格式のある立派な貴族の馬車だ。
心なしか、この馬車には見覚えがあるような気がする。
「なんてこった。ありゃ【リヒテラーデ伯爵】んとこの馬車だ。ジャウギ殿下に陣中見舞いか? ちょいと行かなきゃならん」
「【リヒテラーデ伯爵】? それって……」
「ジャウギ殿下の競争相手の勇者がいる所さ。まったく面倒なこった」
そう行ってポルマレフは行ってしまった。
「まさかリヒテラーデ伯爵様がもう一つの勇者のいるところとはな。ちっとも知らなかったぜ」
「あれ? その伯爵、シーザは知ってるの?}
「ウチの領主様だよ。まったく奇縁なこった」
「リヒテラーデ伯爵……たしか元は侯爵で大きな勢力のあった貴族だそうです。しかし宮廷間の闘争に敗れ、伯爵に落とされ、辺境の領主にされたと聞きます。そうですか。その伯爵が領主……」
え? 何でウチの領主様のことを、元は兄貴だったエルフィリアが知らないの?
「ま、貴族様なんて面倒なだけだし? ウチらは近づかないようにしよっか」
「……いや、俺は見てくる。もしかしたら知り合いがいるかもしれない」
そう言って馬車の方に向かうと、エルフィリアとウサウサもついて来た。
「知り合いって? その貴族様のとこに知り合いが使用人でもしてんの?」
「そうじゃない。そいつのことを説明するには、俺の過去のことを話さなきゃならん」
小さいころ、俺の近所には幼馴染の女の子がいた。
近くで年の近い子供はその子だけだったこともあり、よく遊んだものだ。
やがて今のエルフィリアくらいの年になった頃。
スキルを授かるべくガチャ神殿に、互いの親に連れられ儀式を一緒に受けに行った。
俺の目標は冒険者として役立つスキル。
実は密かに大型魔物を倒せるような戦闘系スキルを願っていた。
その子の目標は結婚した時に役立つ家事系スキルだった。
だが、俺達の願いは逆にかなってしまった。
いや、かなってないか?
知っての通り、俺のスキルは【料理+】。
そしてその子は、戦闘スキルを得てしまったのだ。
それだけならよくあることだが、なんとランクはS級!
庶民が用いる幻霊石でS級が出るなど前代未聞のことだった。
その子はメチャクチャ強くなり、俺はおろか本職の大人ですらかなわないほどになった。
やがて噂を聞きつけた領主様は、なんと彼女を養女として引き取っていった。
もし領主様の目的が、彼女を勇者にすることだったとしたら―――
「間違いないでしょう。ジャウギは対抗馬の勇者を『平民勇者』と言ってました。平民がS級戦闘スキルを得て勇者として認定されるなどおかしなことだと思いましたが、そういったことなら納得です」
「え、ええと?エルフィリアは知らないの? 俺とよく遊んでいた彼女のことを」
兄のジョゼフは当然、俺の友達として彼女と面識があるはずなんだが。
それに領主様のことさえ知らなかったし。
「わたしは”以前”のことは、よほど関係の深いこと以外は記憶にとどめていないのです。(死んだ)以前のことですから」
ああ、何でもかんでもジョゼフだった頃のことを覚えているわけじゃないのか。
だったら、彼女のことなんて覚えているはずもないか。
「それで? その娘の名は何というのです?」
「【ワーグ】だ。貴族みたいな名前に変えられてなきゃいいけど」




