06話 月明かり崖の下 聖女様とふたり
「【白矢よ、貫け】!!」
エルフィリア様が呪文を唱えた。
するとエルフィリア様のリュックから矢が飛び出し、岩肌に突き刺さった。
その矢にはロープがついており、それがエルフィリア様のリュックから伸びている。
「シーザ! ロープを取って!」
ハッと我にかえって、しがみつくように夢中でロープを握った。
ガリガリガリ
ぐああああっ痛い! 手が燃える!!
「足も岩につけるのです! それで少しでも落下をおさえて!」
見ると、すでにエルフィリア様は足を岩につけて滑りながら落ちている。
俺も必死に足を岩につけて、落下をおさえて止める!
「ハァハァハァ…………と、止まった……」
改めて下を見ると、すごい高さだ。
こんな所に落ちたら普通は助からない。
「休まないで! シーザ、すぐに降りなさい」
エルフィリア様はすでに俺から離れ、下でロープを伝って自分で下降している。
この聖女様。俺より冒険者適正、高くないか?
「ち、ちょっと待ってください! 息がきれて手が痛くて……少しだけ休ませてください」
「ダメです。上で引っかけてある矢は、わたしの魔法で強度を増してあります。ですが一分もあれば魔法はとけ、ただの脆い矢に戻るのですよ」
「な、なんだってええええっ⁉」
その意味がわかった俺は、猛然とロープを伝って崖をおりる!
やがて「ポキッ」と軽い音が上からした。
すると上からロープが落ちてきて、俺達も落ちる!
「うわあああああっ」
「もう、さほどの高さではありません! 頭だけは守りなさい!」
エルフィリア様の忠告で、頭を胸に近づけ手で覆ってガード。
ドガッ
地面に激突。
「うぐっ……」
どうにか無事のようだが、落ちた背中が痛くて起きることもしゃべることも出来ない。
そんな俺を見下ろすように、エルフィリア様は立ち上がった。
「言われた通り頭は守りましたね。そこだけは魔法で治しても、パーになってしまう可能性がありますから」
「エ……ルフィリア……様? あ……なたは……無事?」
「受け身です。落下時にもダメージを受けない落ち方があるのですよ。もっとも、ここは地面が固いから魔法の補正抜きで無傷は無理でしょうが。
【回復呪文】」
彼女のかけてくれた回復魔法のおかげで痛みは引いていく。
どうにか立ち上がれるまでに回復した。
エルフィリア様はと見ると、今度は黙々とロープを調べている。
月明かりに映えるその顔に見とれそうになるが、今はそれどころじゃない。
ここは人が足を踏み入れたことがないであろう未開の崖下。
近くにどんな魔物がいるか知れたもんじゃない。
「エルフィリア様。ロープなんて見てないで、これからのことを考えなきゃ!」
「ロープの確認は大切ですよ。これを使うときは命を預ける場面がほとんどですから」
またまたプロの冒険者みたいな貫禄のセリフ!
エルフィリア様を、別の意味で憧れてしまいそうだ!!
エルフィリア様は確認が終わると、それを脇に置いて厳しい口調で言った。
「シーザ。あなた、何故わたしが『飛べ』と言ったときに崖から飛ばなかったのです。おかげで唇の貞操まで捧げねばならなかったではありませんか」
ハッ! エルフィリア様の唇の初めてを、俺ごときが!?
「申し訳ありません!! 次からは『飛べ』と言われたなら、すぐさま崖から飛び降りて………いやいやいや! 貴女のために何でもしようとは思っていますが、さすがに命までは!」
「その命が危うかったのです。あの場を切り抜けたとしても、あのシェイン達が、この先あなたを生かしておくとお思いですか?」
そ、そうか!
だからエルフィリア様は俺と崖から落ちたのか!
ううっ、エルフィリア様。俺なんかのために、そこまでして……
いやいやいや! やっぱりおかしいよ!
貴族の深窓の令嬢が、何でそんな冷静で的確な分析とか出来るの?
崖から落ちて生きるほどの技術と自信なんて、どんな修羅場くぐったら身につくの?
この聖女様、やっぱり色々おかしい!
「それにしても……大きくなりましたね、シーザ」
なぜかエルフィリア様は、俺を感情のこもった目で見て、そんなことを言った。
「はっ? 失礼ですが、エルフィリア様とは、このクエストで会ったばかりですよね?」
大貴族の令嬢と、親の代から田舎冒険者の俺がどこかで会っているはずもなし。
こんな絶世の美女に会っていれば、忘れるわけがない。
「シーザ。あなたは死んだお兄さんのことを覚えていますか?」
エルフィリア様は俺の質問には答えず、唐突に聞いてきた。
「いえ、兄は小さい頃死んだのであんまり。やたら親や、先代のリーダーに怒鳴られていた記憶があるだけです」
「では、彼がガチャ神殿で授かったスキルについては? 何か聞いてますか?」
「聞いてますよ。Dランクのハズレだったってことは」
ガチャ神殿のスキルには、じつはCランクの下【Dランク】というものがある。
これもS、Aランク並にレアだが、逆にぜったい出てほしくないものだ。
『どんな効果があるのか、どんなときに使うのか?』
それがまったく分からないスキルである。
結果として使った金や幻霊石が無駄になってしまい、三つしか得られないスキルの一枠を潰してしまうのだ。
「スキルの名称は?」
「さぁ。なんか聞き慣れない単語だったんで、小さかった俺には覚えてられませんでしたね」
「では教えましょう。【ジョゼフ・ツェッペリ】の授かったスキルの名を」
は、はぁ?
俺すら知らない兄のスキルを、何でエルフィリア様が知っているの?
「【転生】といいます」
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