58話 第四試練前の不穏
ヒキャク鳥車が止まったとたん、クージーQが血相を変えて飛び降りてきた。
そして真っすぐエルフィリアに向かうと、その手を引っ張った。
「ちょっと! あんたも手伝いなさい! スキードさんが危ないのよ!」
予想していたとはいえ、この言葉にポルマレフも血相を変えた。
「な、何だと!? 回復はできるのか?」
「全力を尽くします! ですが、回復しても試練に挑むのは無理だと見ます!」
そのままクージーQはエルフィリアを引っ張ってヒキャク鳥車に飛び込むように戻った。
そして入れ違いにジャウギとアムドウルが出てきた。
「あれ? 何だジャウギのあの仮面は」
何故かジャウギは顔全体を覆う奇妙な仮面をかぶっていた。
しかし奴は俺達にかまうでもなくどこかへ行ってしまったので、放っておくことにした。
ポルマレフはジャウギに礼をとる手間が省けたのを幸い、さっそくアムドウルに事の状況を聞きに行った。
「やはりスキードさんは危ないのか? 命の方は大丈夫か?」
「とりあえず今すぐ、というわけではないがな。しかし寿命だ。先は長くない」
「試練の方はどうする? スキード・ワゴンさんが行けないんじゃ、時間内にこの試練を突破するのは不可能だ」
「ウム……だがジャウギ殿下にどう説明する。ともかくスキード・ワゴンさんと話せるようになったら、善後策を話し合おう」
彼らも大変だろうが、このパーティーの実質的リーダーのスキード・ワゴンが倒れたなら、俺達も身の振り方を考えなきゃならない。
「どうするウサウサ。いちおう俺達の雇い主はスキード・ワゴンということになっているが」
「アムドウルって人から、これまでの報酬をもらって帰るしかないんじゃない? ジャウギの奴が仕切りだしたら、パーティーは全滅必至だし」
もしスキード・ワゴンが倒れたなら、ジョイスロウ殿下を助けてエルフィリアと逃げるか。
しかし馬が必要だが、それはどこから調達する?
こんな場所に都合よくそんなものあるわけ…………え?
「パカラッパカラッ」と馬が駆けてくる音がする気がする。
「ウサウサ、馬の蹄の音がする気がするが、聞こえるか?」
「聞こえるよ。数は三騎。誰か騎馬できているみたいだ。ちょっと見てくる」
ウサウサが行くとほぼ同時、問題のスキード・ワゴンがエルフィリアとクージーQを伴って出てきた。
歩けるくらいなら、とりあえず命の心配はないな。
「塩梅はどうですスキード・ワゴンさん。こうなっては我々は仕事をキャンセルをし、ジャウギ殿下には試練を諦めていただく方向で話を進めようと思いますが」
「いや、そうはいかん。この仕事はどうしても為さねばならんのじゃ。王族次兄のトウキ殿下に大きな恩があるんじゃよ。これが最後の関門じゃし、何としてもやるぞい!」
まったく『年寄りの冷や水』ってやつだね。
元気なおじいちゃんをなだめるよう、アムドウルとクージーQは彼の散歩について行った。
俺はスキード・ワゴンの言葉に、聞き捨てならないことがあったので、ポルマレフに聞いてみた。
「最後ってどういうことです。まだ最終試練と、それに続く魔王討伐の本番が残っているはずですが?」
「ああ。ジャウギ殿下にとってはそうだが、おれ達にとっては最後なのさ。契約では、手を貸すのは最終試練へ出場させることまでだからな」
ポルマレフの話はこうだ。
王室は、ジョイスロウ殿下が出奔した時点で、今回の王族勇者による魔王討伐への選出はとっくにあきらめている。
だが、そんな決定も簡単にできないのが”王族”というこの国トップの立場。
王族代表の勇者が最終試練に到達すらできず脱落してしまえば、その力を疑問視され、その体制が大きくゆらぐことになってしまう。
そのために性格や行いに大きな難をかかえるジャウギを臨時に勇者にたて、最終試練までは到達させるようスキード・ワゴンに依頼したそうだ。
「本来、スキード・ワゴンさんやアムドウル師みたいな破格の力を持った奴は、この試練に参加させないことが不文律だったんだよ。だが今回は特例で最終試練出場までは力を貸す」
「しかし、ジャウギ殿下はその先の魔王討伐本番まで行くつもりのようですが? そのためにジョイスロウ殿下を連れまわしているんでしょうし」
「ああ、そこから先を目指すのはジャウギ殿下の自由だ。ただ、おれ達は参加しないってだけでな」
まいったね。
となると、ますます俺達も逃亡の準備をしなきゃなくなる。
エルフィリアと相談するか。
と、そこへこの場に残ったエルフィリアがこちらにやって来た。
俺より早くポルマレフが飛び出して質問した。
「お嬢ちゃん、スキード・ワゴンさんはどうなんだ。試練には行けるのか? 本人は行くつもりのようだが」
「試練に行くことはできます。ですがスキード・ワゴンさんは、もうお年です。人間本来が持っている回復力もそうとう落ちています。試練の厳しさを考えると、最悪この試練で命を落としてもおかしくありません」
「やはり、か。仕方ない。ジャウギ殿下に話して、今回の試練にはスキードさん抜きで行くことを納得してもらうしかねぇな。時間に間に合わんかもしれんが」
――「クックック納得するわけがなかろう」
「あっ、ジャウギ殿下!?」
そこにジャウギの糞野郎がいきなり現れた。。
先の勝負以来、俺とは会おうとしなかったので、久しぶりの対面だ。
そしてどこから湧いたのか、後ろに三人の新たなモヒカンもいる。
ああ、もしかして、さっきの騎馬の音はこいつらか。
そしてジャウギ自身は、先ほど同様に奇妙なフルフェイスの仮面をかぶって顔を覆っている。
「王家との契約は絶対だ。たとえ試練で野垂れ死のうと、スキードの奴には役に立ってもらう」
やっぱ最低だ、コイツ。
「…………そうですか。ではスキードさんの介護要員および護衛としてサポートメンバーから誰か連れていくことをお許し願います」
「フン、許す。だが契約通り必ずオレを最終試練まで行かせろ」
そして手下に向き直る。
「お前ら、最終試練ではその腕みせてみろ。オレにこんな苦労をさせた平民勇者をブチ殺せ!」
「こっちはオーガ退治にも参加したかったんですがねぇ。まぁジジイの介護までついてくるんじゃ、今回は見送った方がよろしいですな。ジャウギ殿下、ご武運願ってますぜ」
なるほど。こいつら、スキード・ワゴン一派が離脱したあとの交代要員というわけか。
俺が見た感じ、こいつら相当強い。
しかしジャウギの手下になったら、モヒカンにしなきゃならない決まりなのかね?
「フッフッフ。この仮面、気になるようだな。中が見たいか?」
ポルマレフの視線で察したジャウギは、自分の仮面をコツコツたたいて言った。
「ご賢察、お見事です。見せないまでも、その理由を教えていただけますでしょうか?」
「いや、見せてやろう。それで理由もわかるはずだ」
ジャウギはその仮面に手をかけ、外そうとする。
いや、待て! これは俺が見ていいものか?
仮にも王族の秘密ってやつで、平民が触れていいものじゃないんじゃないか?
「あ、あの、俺達ははずしましょうか? 高貴なお方の素顔なんて見れる立場じゃありませんし」
ジャウギを”高貴な方”とかいうのは抵抗あるな。
血筋だけは最高なはずなんだが。
『暗黒街のボス』ってのがピッタリだ。
「いや、お前も見ろシーザ。とくと見るがいい」
ジャウギはその仮面を取りさった。
三章までのジャウギは仮面なんか被ってなくて、素顔だったんですよ。
とくに描写とかなかったでしょ?
仮面かぶった姿で想像してた人なんていないと思いますが、念のため。




