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54話 地獄の勇者羅漢撃!

 メディスン街出る前に書かなきゃいけないエピソードがあったよ。

 しょうがないから今回の前半に入れちゃえ。

 それはメディスン街で勇者の試練の旅に出る直前のことだ。

 俺とエルフィリアは目をつけられたジャウギの対策を話しあった。


 「こうなってはもう、ジャウギを暗殺する考えは捨てねばなりませんね。世界最高冒険者のスキード・ワゴンの目をくぐり抜けて成功するとは思えません」


 「しかし逃げるわけにもいかないよな。ジョイスロウ殿下がつかまっているし。おとなしく奴の下っ端をやるしかないか」 


 「それも悪手。ジャウギは最後にはシーザを殺すつもりです。おそらくわたしも」


 「そ、それじゃ、どうしたら……何か手はあるんだな。そういう顔をしている」


 「わかりますか。さすが我が弟」


 もうエルフィリアの知能には一目置いている。

 こんな風に話題をふる時には、たいてい答えが出ている。


 「これは裏社会の知恵なのですが、邪魔な人間の対処法は第一に暗殺。ですが標的を殺した場合、もっと事態が悪化する場合や暗殺不可能な場合が多々あります。そんな時はどうすると思います?」


 「わからん! 謎かけやってる場合じゃないし、早く教えてくれ」


 「少しは考える頭を持ちなさい。そういった場合、標的の大事なものを壊すのです。殺害、誘拐などですね。すると標的は大きく無力化します」


 「それをジャウギにあてはめると……大事なものって何だ? 勇者の地位とか王族の身分? そんなもの、どうしようもないんじゃないか?」


 「わたしの考えでは、それはさほどの物ではありませんね。失くしたところで、裏社会でのし上がっていくことでしょう。そして立場を変えてもシーザは狙います」


 「……納得だ。しかしアイツに大事なものなんてあるのか? とにかく破壊だけを好んでいるような奴だが」


 「その破壊の元となる暴力。自分の力に絶対のプライドを持っているように見えます。それをくじけば、奴の心に大きなダメージを与えられるでしょう」


 「それって奴の”S級戦闘スキル”だろう? それをどうするんだ?」


 「わたしの考えでは、それはシーザのスキルで対処可能です。というわけで、物理防御の【シャボン・バリアー】の精度を高める特訓をしましょう」



 ◇ ◇ ◇


 というわけで旅に出て以来、【シャボン・バリアー】強化の特訓をしてきた。

 いよいよ本番だ。


 ジャウギの二発目が「ブウン」とうなりを上げ、俺の顔面にとんできた…………あれ?

 拳は「ピタリ」俺の顔面の前で止まった。

 ジャウギは俺の顔をのぞきこむように見ている。


 「どうしました? ここで止める殿下ではないでしょうに」


 「フフッ……フハハハハ! 瞳におびえの色がない。雑魚ざこが成長して、なかなかのエモノになったようだな」


 「さすがはジャウギ殿下。人間狩りが豊富なだけあって、エモノを見る目は肥えていらっしゃる」


 「フッフッフおだてようと容赦せんぞ。オレはそういうおべんちゃらを言う奴が一番嫌いなのでな」


 皮肉だよ!

 『人間狩りが豊富』のどこがおべんちゃらだ!!


 「来い、シーザ」


 ジャウギは「クイッ」と首を外へ向けると歩き出した。

 そういえば初めて奴に名を呼ばれたな。

 さっきまで拷問を受けていたジョイスロウ殿下が心配そうに俺を見ている。


 「シーザ……君はこんなことをして……」


 「俺は大丈夫です。待っててください、殿下の無念は俺は晴らします」


 やっとこの言葉が言えた。実践できるかどうかはともかく。

 奴に続いて外に出る。

 途中のエルフィリアとクージーQキューは、それぞれの思いをした顔をしていた。


 「あ、アンタ、こんなことして本当に命はないわよ」


 「死ぬつもりはないさ。ま、待ってな」


 「危ういようでしたら、わたしも加勢します。策は崩れますが、あなたの命が第一です」


 「エルフィリアに出番はまわさないさ。俺のスキルだけでケリをつけてやる」


 俺の【シャボン・バリアー】で奴の攻撃をすべて防ぎ、奴の暴力のプライドを砕くのが策の骨子だからな。

 二人に「ジョイスロウ殿下を頼む」と言って奴の後を追った。


 


 奴の後をついていき、来たのは奇しくも先ほど特訓をしていた場所。

 まぁ、この辺りで一番近い開けた場所はここだというだけだろうが。


 「フッまさか自分からオレに挑みに来るとはな。きさまが取る行動は一に逃亡、二に暗殺。そのくらいだと思っていた。その場合、きさまの妹で遊ぶことになるがな」


 やっぱ最低だコイツ。


 「挑んでませんよ。俺はただジャウギ殿下を諌めに来ただけです」


 「フフッ……フハハハハ! いつまでもとぼけた奴だ。ためしてやる」


 ビュンビュンッビュオッブウンッ


 もの凄いパワーとスピードで無数の拳と脚が襲う。

 されどそれをすべてスキルで受け流し、俺は傷ひとつ負わない。


 「フハハハ、面白い、面白いなぁ。下民だというのにオレを楽しませてくれる!」


 やがて奴は一旦攻撃をとめ、距離をとった。

 いよいよ本番か。


 「フッ、たいしたスキルを身につけ自信満々だな。それをブチ壊すのも面白い。おのれに勇者の真髄を見せてやるわ! ほおおおお!!」


 来る! 奴のS級戦闘スキルだ!!

 事前情報では、武器を使わない拳撃の技だと聞いている。


 「【勇者羅漢撃ゆうしゃらかんげき】! さぁこれをさっきのようにすり抜けさせてみろぉ~!!」


 ジャウギは独特の武術の動きで腕を振り回す。

 これが奴のS級戦闘スキルか。速いな。

 しかしポルマレフの剣と同程度、捌けない速さではない。

 ただ初撃だけは丁寧に捌く。


 ブウゥンッ


 襲い来る拳を胸のシャボン・バリアーで受けて滑らす…………


 「なにっ⁉」


 奴の拳を受けた部分のシャボンが霧散した⁉

 二撃三撃と続けてくる拳を別の部分で受けるも、その部分のシャボンは霧散してしまう!

 ヤバイ! このままではジリ貧だ!!


 「ほほう、大したものだな。スキルを発動したオレの拳にふれたものは、何もかも破壊されるというのに。もっとも同じ部分には二度受けることは出来ないと見た。答えはあっているか?」


 ハイ、大正解です。


 「そうか正解か。では終わりにするとしようか。シーザ、下民でありながらよくオレをムカつかせ楽しませてくれた。礼を言うぞ」


 「顔色で答えを読むな! く、くそおっ!」


 「フッフッフ王族への敬意を忘れているぞ。そぉら王族からの下賜かしだ。ありがたく頂戴しろ下民!」


 無数の拳が俺に放たれた。


 「う、うわああああ!!!」


 その無限とも思える拳を見ながら俺は…………夢を見た。


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