52話 ただいま特訓中
「本当にいいの? 特訓とはいえヤバイことするよね」
現在俺は目隠しをして開けた場所に立っている。
そして俺をウサウサが弓を構えて向けている状況だ。
ウサウサは最後の確認を隣で見ているエルフィリアに聞く。
「いちおう急所は外すけど、連射じゃ完全じゃないよ。上手くいかなかったらけっこうなケガもするし」
「危険だから良いのです。シーザも覚悟はできています。どんなケガだろうと、わたしが全力で治しますからやっちゃってください」
エルフィリア曰く。
これ以上【シャボン・バリアー】の精度を高めるには、本物の危険をくぐらねばならないそうだ。
しかしこんなヤバい特訓も、エルフィリアとなら『楽しい』と思えてしまうから女の魔力恐るべしだ。
「シーザ、死なないでね!」
ヒュンッヒュンッヒュンッ
その言葉とともに、矢が放たれる風切音が聞こえた。
と同時にウサウサが駆け出し、俺の周りを駆け回ることで四方八方から矢が飛んでくる。
【シャボン・バリアー】展開!
八方からくる矢をスキルで滑らせ流す。
決して直撃で受けないよう、できる限り矢の威力が流れるよう、体を微妙にズラして動く。
やがてウサウサが矢を全て放ったあと、俺は無傷で立っていた。
「すごい……本当にぜんぶ受け流した」
「たしかにカスリ傷ひとつありませんね。いちおう合格です」
俺の全身を調べたエルフィリアは、それでも不安そうだった。
「ですが、これでジャウギに対することができるかどうか。ジャウギのS級戦闘スキルは、ウサウサさんの矢より速く鋭いでしょうから」
「無数の飛矢を受けて無傷程度じゃ不安か。しかし俺はやるぜ」
目隠しをはずしながら俺は言った。
ここまできて、ためらうつもりはない。
ジャウギが帰ってきたらケリをつけてやる。
「面白いことをやっておるようじゃの」
ふいに横合いから、じじいの声がした。
その声をした方を見ると、スキード・ワゴン、ポルマレフ、アムドウルのオーク討伐に出てた三人がいた。
ポルマレフは先んじて帰っていたが、本隊の方も戻ってきたらしい。
「戻りましたか。ジャウギ殿下は?」
「ジョイスロウ殿下の所じゃ。第三試練を無事に突破できたことを報告するそうじゃ」
「……そうですか」
「やはり」という思いとともに、暗澹たる気持ちになる。
ジョイスロウ殿下は最初の日いらい、ジャウギに拷問を受け続けているのだ。
『勇者の責務を放棄し脱走した罪を罰する』という名目なので、スキード・ワゴンにも止めることが出来ないらしい。
「それより、どうじゃ。坊主の特訓、ポルマレフにも協力させてみるか?」
この提案に指名されたポルマレフの方が驚いていた。
「え? おいおい、じいさん。そりゃシャレにならんぜ。おれの剣でさっきの真似をやるってのか?」
「決めるのは坊主じゃ。どうじゃ、やるか?」
隣のエルフィリアは少し考えていたが、俺に言った。
「そうですね。ポルマレフさんの剣を受けれるなら本番に行けるでしょう。お受けなさい」
「お願いします、ポルマレフさん」
俺はふたたび目隠しをしてポルマレフの前に立った。
「どうなっても知らんぜ、おれは」
ポルマレフから「シャリン」と剣を抜く音が聞こえた。
この威圧、緊張。弓を構えたウサウサ以上だ。
王国最強剣士の風格ってやつか。
「……いくぜ。【銀冠戦車陣】!」
その声とともに無数の剣撃が襲ってきた。
「くっ!」
初撃から傷を負った。
スピード、威力があまりに想定外だったためだ。
されど怯まず軌道修正し、シャボン・バリアーを構築し直す。
一撃……二撃……三撃……
やがて終了。
エルフィリアが俺の負った傷を回復しながら言った。
「初撃以外はカスリ傷以上のものはありませんね。ですが本番なら最初ので死んでましたよ」
「それにポルマレフさんも本気じゃなかったみたいだしな。受けていて何となくわかったよ」
「おいおい、『本気』ってことはお前さんを『殺す気』ってことだぜ? つまりシーザは俺が本気にならなきゃいけない相手ってことだ。自信もっていいぜ」
王国最強剣士にそう言われて悪い気はしない。
それに『初撃に想定外のものが来ると致命傷』ということも分かった。
ポルマレフさんに協力してもらって良かった。
「たいしたスキルを身につけたのう。して、それを何に使う?」
分かっているだろうに、スキードのじいさんがわざわざ聞いてきた。
「ジョイスロウ殿下を助けるために。ジャウギ殿下のお楽しみは、いい加減やめさせたいんだよ」
「王族間のことに平民の坊主が入る気か? どんな結果になろうと、ワリを食うのはお前さんじゃぞ。やめておくのが賢い生き方じゃ」
「スキード・ワゴン。あんた、そろそろ『冒険者』の肩書きを降ろしたらどうだ。冒険者が賢い生き方なんて求めたら、冒険に出れやしない」
「権力者の内輪もめに入るような冒険など、冒険者の領分ではないからの。権力者とは臆病なもの。自分を脅かす冒険者など出たら、全力で潰しにかかるわい」
たしかに、それは俺の好みの冒険でもないけどな。
「ジョイスロウ殿下は俺のパーティー【駆ける疾風】のメンバーだ。仲間を見捨てちゃ、リーダーはやってられないさ」
もう無駄話をしている暇はないだろう。
本隊が帰ってきたってことは、ジャウギはジョイスロウ殿下の元へ行っているはずだ。
俺はその場から背を向け、ジョイスロウ殿下が繋がれている荷台に向かう。
エルフィリアも俺につづく。
そんな俺達の背に、浅黒い顔の大魔法師アムドウルが忠告を放った。
「君達がジャウギ殿下を害するような真似をするなら、我々は役目として君達を討たねばならない。それは承知か?」
「その心配はいらない。俺達はジャウギ殿下に刃向かうような真似はしないさ」
「……そうか。教育にたずさわる者として、ジャウギ殿下の暴をいさめられないのは私の不徳だ。君達に頼んでいいか?」
つまり、どうしようもない不良王子をどうにもできなかったってことか。
王国最高学府の学長に、田舎冒険者の俺がこう頼まれて悪い気はしない。
学校なんて村の子供たちを集めてやる『学議所』しか経験ないもんな。
「いいですよ。俺が思いっきり教育してさしあげましょう」
たしかに、 あいつには教えなきゃならないことが多すぎる。
ジャウギ、自分を『無敵』だと思っているんだろう?
王族に生まれS級戦闘スキルを手に入れ、人の命までもゲームで潰してやりたい放題だ。
だがな。
『無敵』なんて言葉は覆されるためにあるんだぜ。
今、それを教えてやる。




