51話 その頃のラスボス【カズス視点】
私はリッチのカズス。
そしてここは勇者の最終試練の場にほど近い村の砦跡の地下。
今現在、我々はそこを拠点に、作戦の実行を待っている状態だ。
わが手駒とした勇者ワーグの能力はすさまじく、瞬く間に第四試練まで突破し、神速の速さでこの最終試練の場まで来た。
だがここに来て、魔王討伐に赴く勇者を決める、最後の試練が止まってしまった。
「ネウディシ、勇者の試練はいったいどうなっている。最終試練に進んだ時点で止まっているぞ」
私は長年の相棒、巨漢の魔人ネウディシに苛立ち紛れに聞いた。
首だけの状態では人間のフリをして状況を探りに行くこともできず、ネウディシに情報のすべてをまかせているのだ。
ネウディシは私の前で石像のように身動きひとつせず答えた。
「やむをえまい。最終試練はそこまで進んだ勇者同士による対決。他の勇者が揃うまでは、はじめられん」
「他の勇者か。シェインは死亡したから、あともう一人。たしか王族の勇者とやらであったな。そやつは現在どうしている」
「第三試練を通過した時点だそうだ。いちおう言っておくが、勇者王子が遅いのではない。ワーグの強さと移動速度が異常なのだ。カズス、なかなかの魔人を生んだな」
そんな世辞に答える気もないほど、私はいら立っていた。
「ちっ、まだそんなものか。ここまできたなら、さっさと決めてしまいたいというのに!」
「まぁそう急くな。ルールには『最初に勇者が最終試練の場に到着した一か月以内に他の勇者がたどり着けなかった場合、そいつは失格』というものがある。ゆえに全力で試練を突破し、間もなく来るであろうよ」
「フム。百年も前ゆえ、細かいルールまでは忘れてしまっていたが……そんなものもあったな」
しばらく私はそのルールについて考えていたが、決断を下した。
「よし、ならば都合がよい。その勇者王子には第四試練で脱落してもらおう」
「なに? 勇者王子をみじめに敗北させ屈辱を味合わせる、という遊びは見なくていいのか?」
「くだらん。たしかに目的の過程で、そんな余興を見るのも一興と思った。しかし、このカズスの目的はあくまでも『魔王の力』! そのために省ける手間があるなら迷いはしない」
「まぁカズスはそういう奴であったな。ならばその勇者王子、殺るか?」
「殺るな。王族を殺すリスクは立派な”手間”だ。ただ、そいつが第四試練を突破できなければ、それでよい」
まったく、こいつは本当にリスク回避というものを知らん。
人間だった頃から無敵で、どんな場面も力業で何とかしてきたせいだ。
「その勇者王子、そやつの第四試練の内容は何だ」
「とある鬼人の森に住まう【オーガ・チャンピオン】を倒すことだそうだ。人間の勇者にしては少しばかり難易度が高い課題。短時間でこなさねばならんことも考えれば、失敗する可能性も高いが?」
「だから失敗を願っておとなしく待つか? くだらん。このカズスは、そやつが確実に脱落してもらう手をうつ」
「であろうな。して、その手とは?」
「ネウディシよ。お前がその第四試練の場に行け。そして標的のオーガになりすまし、勇者どもの相手をしてやるのだ。これで絶対に試練はクリアできまい」
「なるほど、それは面白そうだ。では、おれは遊びでない本物の試練となってやろう。勇者王子に楽しんでもらうとするか。フハハハハ」
「できるなら殺すな。さっきも言った通り、王族を殺すといろいろ面倒だ。あくまで穏便に、ワーグが魔王討伐の勇者に選ばれればそれでよい」
「フフフ、まぁ努力はするが確約はできんな。このネウディシ、お前と違ってやることは楽しむ性分なのでな」
ネウディシはゆっくり立ち上がると、「ズン、ズン」と足音を響かせ出陣した。




