50話 男子立ち入り禁止の女の修羅場
修羅場になったエルフィリアとクージーQは、俺達から離れて二人っきりで何やら話こんでいる。
俺には聞こえないが、ウサウサはウサ耳をピンと立て、その会話を緊張した面持ちで聞いている。
「なぁウサウサ。リンは……いやエルフィリアは大丈夫なのか?」
「うん、まぁ上手くクージーちゃんをなだめているよ。こういった話術はさすがだね。ジャウギ相手にも、たくみに処刑をかわしていたし」
そういや、そうだったな。
あの悪の帝王みたいなジャウギすら手玉にとったエルフィリアが、女の子一人の詰問にどうこうなるわけないか。
「それより森の方からまた誰か来るよ。足音から人間………あ、ポルマレフさんだ」
人物特定までできるのか⁉
ウサ耳すげえっ!
やがて森の方から、本当にポルマレフさんが駆け足できた。
「お前ら、無事だったか。オークどもは……みんなやっつけちまったのか。わざわざ、おれが来るまでもなかったな」
ポルマレフさんはオークどもの死体を感心したように見た。
「ええ、どうにか撃退しました。もしかしてポルマレフさんだけが戻ってきたのは、助けにきてくれたんですか?」
「ああ、襲撃は上手くいったんだがな。ちょいと誘導に失敗しちまって、こっちの方向にオークの一団を逃がしちまった。で、おれだけ援護に戻ってきたわけだが、必要なかったみたいだな」
いい奴だな、この兄ちゃん。
これが騎士道ってやつかね?
「ところで聖女さんとリンちゃん、あっちの方で何やってんだ? 夜はかたまっていないと危険だぞ」
「あーその、女同士のいざこざがありましてね。しばらく二人っきりで話をさせているんですよ」
「なんだケンカか? しょうがねえな。よしっ、ここはポルマレフお兄さんが一言いって解決してさしあげよう」
いい奴すぎる!
「い、いえ女同士の話に男がからむと、ロクなことがないですよ。おとなしく待っていましょう」
「まーまーここはひとつ、おれにまかせなさぁい。大人の男ってやつを教えてさしあげよう」
ポルマレフは意気揚々とエルフィリア、クージーQの方へ行ってしまった。
「大丈夫かな?」
「……大丈夫じゃないみたい。ポルマレフ、リンちゃんにやりこめられてる」
やっぱりな。
大人の男も、エルフィリアから見ればアホな若造だ。
「うわっ、クージーちゃん、きっつ!」
な、何を言われたんだ?
ドドドドドドド
うわっポルマレフさん、すごい泣き顔で駆けてくる!
「うおおおん、あんまりだああああ!!」
ポルマレフさんはそのまま森の方へ駆け戻ってしまった。
やっぱり、女同士のいざこざに男が入るとロクなことがない。
俺も気をつけよう。
やがて二人は戻ってきた。
険悪、というほどでもないが、かなり微妙な雰囲気だ。
「話は終わったか。で、どういう結果になったんだ?」
「別に。ただ、エルフィリアの現状はしばらく黙っててあげるだけよ。そういう事情なら、実家にも貴族間にも秘密にしてほしい気持ちは分かるし」
うおおおおっすごい! 本当に説得しやがった!?
天才チート話術師だ!
『冒険者になりたい。だから死んだことにして家出しますから』なんて、こんなカタブツそうな娘にどうやって納得させたんだよお!!!
「ほ、本当にいいの?」
「ええ。エルフィリア、アンタにしてはひどい不覚をとったわね。パーティーの勇者を吸血鬼にされたうえ、自分はリッチの呪いでこんな子供にされちゃうなんてね。同情するわ」
はぁ? なんだそりゃ?
それに同情している割には、すごい良い顔してるぞ。
対するエルフィリアは、クージーQ)とは対照的な憂いの悲しげな顔。
「ええ。わたしは光の能力が強すぎて吸血鬼にできないため、こんな呪いをかけたのでしょう。この呪いだけでも解かないと、恥ずかしくて家に帰れません」
「ふふーん、そうよね。しょうがないから、そのリッチは私が倒して呪いを解いてあげるわ。いちおう友達だしね!」
え? 友達に格上げしたの? それにしても何なの、その作り話は?
……ハッ! そ、そうか。
その作った話で、あえて自分の弱さを演出したのか!
それによりクージーQの自尊心を上げると同時に同情をさそい!
結果、自分の秘密を守らせることに誘導したというわけか!
お見事です、エルフィリア様!!
◇ ◇ ◇
「ふうっ。どうにか巧みな嘘で、クージーQを黙らせることに成功しました」
俺と二人っきりになると、エルフィリアは深いため息をついた。
「あんな嘘をついて大丈夫なのか?」
「クージーQなら大丈夫でしょう。あの娘、いい子ですから」
「そんないい子を騙すってのも……なぁ。エルフィリアのこと、友達って言ってたし」
「こんな嘘でもなきゃ友達になんてなってくれません。あの子、わたしへの劣等感で一緒にいるのがつらかったようですから」
同じ職業の聖女ゆえに、エルフィリアの凄さが眩しすぎたのか。
俺でいえば、あの世界トップ冒険者のスキード・ワゴンと友達になるようなものか?
たしかに気おくれして、友達なんて難しそうだな。
「人間関係は嘘がなきゃまわらないことが多いです。悲しいですね」
「俺は人間関係で嘘なんかついたことないぞ。そりゃエルフィリアが特別だからだろう。ジョイスロウ殿下のときだって……」
と、ふいにジョイスロウ殿下のことを思い出してしまった。
「なぁエルフィリア。話は変わるが、ジャウギの件こっちから仕掛けていいか?」
この一言でエルフィリアの顔が真剣なものに変わる。
「危険ですよ。ジャウギのS級戦闘スキルもですが、スキード・ワゴンの一派はジャウギの護衛も頼まれています。言うまでもありませんが、三人ともそれぞれの分野でトップクラスの実力者です」
「分かっている。けどな、このままじゃジョイスロウ殿下が保たない」
「……たしかに。ジャウギの出方を待っている余裕はないかもしれませんね」
その後、俺達は無言で殿下のいるヒキャク鳥車の荷台を見つめた。




