49話 真夜中の襲撃
それは、その日の夜ふけのことだった。
夜の見張りをしている俺のもとに慌てたウサウサがやって来た。
「シーザ、森の方から複数の足音が駆け寄ってきてる。足音の重さから、たぶんオークの一団だ!」
「マジか? 見張りやってる俺より早く気づくとか、見張りの意味ねーな。しかしオークがここにやってくるとか。まさかジャウギたち、やられちまったんじゃねーだろうな」
「やってくるのは5匹前後。襲撃にしちゃ少ないね。多分、ジャウギの襲撃から逃げてきたオークの落ち武者ってところじゃないかな?」
「つまり偶然こっちに逃げてきたってわけか。襲撃目的でないとはいえ、俺達を見て黙って逃げていくとは考えづらい。うらみはらすために俺達を殺しにかかるだろうな。命からがら逃げてきて可哀そうだが、先手必勝で迎撃するしかないな」
「そうだね。とにかくリンちゃんとクージーちゃんを起こしてくる。一応おこすけど、二人とも荷台から出ないよう言っておくよ」
「いや、リンには来てもらってくれ。あいつは回復しかできない聖女じゃない。S級スキル持ちだからな」
くわえて天才冒険者の知識持ちだ。
こういった、ふいの襲撃の備え方も知っているはずだ。
◇ ◇ ◇
やがてオークどもが森を抜けてきた。
そしてこちらをめがけて近づいてくる。
「いきなさい、二人とも!」
エルフィリアはその言葉と共に魔法の強い光をオークにあてた。
オークどもは眩しくて足を止めたと同時に、俺達にとっては位置がはっきり見える絶好の状態だ。
俺とウサウサは荷台の上から弓で矢を射かける。
ウサウサはレンジャーなだけあって、俺の倍のスピードで連射だ。
すごいね。
「ちっ、やっぱオークは生命力高い。殺しきる前に、たどり着く奴らが出ちまうよ」
森から出てきたオークは6匹。
そのうち半数の三匹は倒すことができたが、残り三匹は頑丈で殺しきることは難しく、荷台に迫っている。
「問題ありません。シーザ、特訓の成果を見せなさい」
「わかった。ウサウサ、弓を止めてくれ」
俺は短剣を抜いて突進してくるオークの前に出た。
「ちょっ⁉ オークと近接戦やるつもりかい⁉ それに得物もそんなに短いのじゃ!」
「大丈夫です。あれがシーザの戦闘スタイルですから。信頼して見ていましょう」
ふいの襲撃で仲間を殺され、さらに手傷を負ったオーク。
無防備に出てきた俺を見ると、今夜すべての恨みとばかりに三匹全員が殺気をみなぎらせ、こん棒やら大剣やらを振りかぶって俺に殺到してきた。
「ブンッ」と最初のこん棒が俺の頭に振り下ろされる。
シュルンッ
されどそのこん棒は、俺の頭を滑って地面をたたく。
俺は勢いあまって態勢の崩れたオークに、カウンターでショートソードの刃を入れ、筋肉の筋の沿ってきれいに切り裂く。
そいつは内臓をブチ撒けながら死んだ。
二匹目は横なぎの大剣を打ち込んできた。
こういった攻撃に退がるのは悪手と習っっている俺は、あえて前に出て腕の部分から攻撃を受け、さらに自分からも飛んで奴の死角へと回り込む。
そこから先ほどと同じように首筋に刃を入れ、同じように解体をする。
残った最後の三匹目は、メチャクチャに大剣を振り回して俺に打ちかかってきた。
もっとも逃げ腰で、大して速くはない。
怖いなら逃げれば追わないのに、本能の攻撃性で悪手を選んだな。
俺はその攻撃を「シュルン」「シュルン」とすべて体を滑らせていなす。
これは俺のスキル【洗濯++】の力で、全身を薄くシャボンで覆う【シャボン・バリアー】を張っているのだ。
【シャボン・バリアー】は全身の摩擦をほぼ零にするため、俺の体に当てられる物理攻撃は芯に当てない限り滑って流れてしまうのだ。
最後のオークも軽く解体し、これで真夜中の事件も片付いた。
駆け寄ってきたウサウサは信じられないものを見るように俺が殺ったオークを見た。
「すごいねシーザ。オークを相手に近接戦で完勝しちまうなんて。アンタってこんなに強かったんだ」
「いや。強くなったのは、この五日ばかりのことさ。俺はジャウギに食事持っていったりその他雑用とかもやっているだろ」
「え? ああ、そうだね。それやってくれて助かっているよ。やっぱよく殴られるんだろ?」
「ああ、しょっちゅうだ。それも手加減なんかしねーんだから。S級戦闘スキル持ちが手加減抜きで殴っってくるから、防御を磨かなきゃ生きてられねーのさ」
「え? もしかしてジャウギの世話を自分がやるって言ったのはそのため?」
「正確にはリンが出した課題だ。ジャウギは今は試練で俺達どころじゃないが、いずれは俺達を殺しにかかる。それに備えて、多少無茶でも強くなっておかないとな」
ウサウサは後ろにいるエルフィリアをマジマジ見た。
「リンちゃん、シーザを鍛えてるの? やっぱジャウギをチョンする目的で?」
「それは状況次第。どちらにしろシーザは強くする予定でした。強くなれば冒険の幅が広がりますから」
つまり将来の冒険の相棒にするため、俺を鍛えているのだ。
俺も、エルフィリアとともにA級冒険者目指す!
「けど、まだまだだな。どうにか物理攻撃を半分くらいは殺せるようになったが、相手がS級戦闘スキル持ちのパワーじゃ、その残り半分でも命取りだ。もっと精度を高めて完全に無効化できるようにならねーと」
「わかっているじゃないですか。さすが基礎はできてるだけあって、理解が早いです」
「よせよ。こんなの普通だって」
「そんなことはありません。たとえば、シーザに比べればクージーQは赤ちゃんでしたね。それはそれで可愛くはありましたが」
「ちょっと! マズッ!」
いきなりウサウサはエルフィリアの口を押さえた。
反射的にあたりを見回すと、やはりいた。
戦闘の様子を見にきていたのか、クージーQが荷台に隠れるようにそこにいたのだ。
「あ……あわわ、しまった」
くそっ。クージーQに気づいているなら、言ってくれよウサウサ!
クージーQはものも言わずズカズカとエルフィリアに近寄ると、ウサウサの手を払いのけてその顔をじっと見た。
「やっぱり! あなたを見ていると、やけにアイツのことが思い出されてたのよ!」
「い、いや……これはですね、その……」
「あなた、エルフィリアね! なんでこんなチビっ子になってんのよ!!」




