48話 思い出のエルフィリア
ジャウギたちがクエストに行った後のキャンプを守るのが、サポートメンバーの俺達の仕事。
俺のもっぱらの仕事は、やっぱりスキルを活かした料理と洗濯係。
冒険には向かないスキルだと思ったが、サポートとしては優秀なスキルだ。
さて。そんな俺はいま、今晩の食事のため火にくべた大鍋を見ている最中だ。
そこにクージーQがふらりとやって来た。
「どうした。ハラが減って待ちきれないなら、干した肉があるぜ」
「ううん、そうじゃないの。ちょっと聞きたいことがあってね」
「なんだ?」
「あなた、シェイン様の勇者パーティーのサポートだったんだってね」
「ああ、そうだ。いまと同じく料理係していたよ」
「そう。じゃ、そこの聖女エルフィリアを知っているかしら?」
―――!!
「エ、エルフィリア………様のことか? もちろん知っている。きれいな方だったよ」
その姿が幻術で、じつは幼女だということも知っている。
というか、彼女も君と同じヒキャク鳥車に乗ってここに来ているのだが。
あ、そのエルフィリアがいつの間にか離れた所で見ている。
「彼女、死んだんですってね。本当なの?」
「………ああ。崖から落ちてな。残念なことだ」
その崖からは俺も落ちたのだがな。
ともかく『エルフィリアは崖から落ちて死んだ』ということにしているので、あえて嘘をつく。
「そっか。あんなに何でもできる奴でも、あっけなく死んじゃうんだね」
「友達だったのか? その……エルフィリア様と」
「ちがうわ。いい奴だったけど。私に冒険のこといろいろ教えてくれたし、いっしょに聖女選抜受けたりしたけど、それでも友達なんかじゃない」
それで友達じゃないのか?
この娘の友達認定はどれだけ高いんだ。
その当のエルフィリアは、『友達じゃない発言』にちょっと傷ついた顔をしているぞ。
「友達でいいんじゃないか? 君の顔、どう見ても大事な人を亡くしたそれだぜ」
「そんな顔してない。大事な人なんて亡くしていない」
むかっ。
何なのだ、この娘は。
ますますエルフィリアが泣きそうな顔しちゃってるだろうが!
「私ね、エルフィリアのこと嫌いだった。魔法師の名門『Qの家系の者』として小さいころから努力してきた私より、魔法の力も冒険の腕もみんな上だったんだもの」
そりゃエルフィリアの能力は、女の子の努力なんか紙屑同然なインチキだからな。
神様から強力なS級魔法を授かるよう仕向けられて。
前世の天才冒険者の記憶を持ったまま生まれて。
「二人で聖女選抜をうけて通って、勇者パーティーの聖女に選ばれたわ。百年ぶりの魔王討伐出征の選抜だっただけに、優秀な人が多くて大変だった」
「それでもあの扱いか。君も勇者に恵まれないな」
「本当にそうね。もともとの私の勇者はサザンクロス家のシェイン様だった。それからジョイスロウ殿下に変わって、さらにあのジャウギ殿下」
「ぐはっ!」
この娘の歩んできた不幸の道のりを想像することができてしまった!!
エルフィリアをめぐり悲劇をつむいだ男たちの影で、わりを食って不幸になった女の子もいたのか。
なるほど。
エルフィリアが妙にこの娘の前で気まずい顔をしているのはそのせいか。
「本当にひどい女だったわ。男好きで、シェイン様とかジョイスロウ殿下とか複数の殿方といつも楽しそうにしていた」
そりゃ中身は兄貴だからな。
女の世界は息がつまって、男どもの中に居たかったんだろう。
「それで君は? そんなエルフィリア様とどういった関係だったんだ。ただ聖女の同期ってだけじゃないだろ。わざわざ俺に彼女のことを聞きにきたってことは」
「わかんない。エルフィリア、なぜか私のこと『嫁にしたい聖女』とかいって気に入ったみたいなの。それで冒険のことをよく教えてくれたわ」
女になっても『聖女嫁』を夢見ているのか。
やっぱり胸につられたんだろうな。
「……でも」
ふと、彼女は目を遠くへやった。
やはりその顔は、いまは亡き(ということになっている)エルフィリアを偲んでいるように見える。
「いつもちょっと寂しそうだった。どうしてかしらね。あんなに何でもできて、殿方から何人も愛されていたのに」
そりゃ殿方より君に愛されたかったからだろう。
友達のつもりでいる男どもに、じつは愛されていたってのもストレスだったろうし。
クージーQはいきなり大きな声で叫んだ。
「ぶざまねエルフィリア! あなたは死んで脱落したけど、私は”勇者の試練”に勝ち抜いて魔王も倒すからね!」
あっちはメディスン街の方角だ。
本当にエルフィリアがいる方角は、ちょうど真逆なんだけどね。
もっとも、ちゃんと届いているけど。
「くやしかったら戻ってきなさいよ……」
小さな声でつぶやいた最後の言葉は、少しだけ涙声だった。




