46話 試練の旅路へ出発
後に聞いた話だと、このクージーQという娘は、エルフィリアが聖女になるための学校に行ってた頃の同期だそうだ。
成績優秀で、ともに勇者パーティー加入の推薦をうけたらしい。
もっともエルフィリアは在学中ずっと大人の姿で通しており、今の幼女の姿は見せていないそうだ。
さて、そのクージーQ。
いきなり自分の名前を呼んだエルフィリアを見つめている。
「たしかに私のことを知っているみたいね。でも………」
「まだ信じきれませんか。ではクージーQの秘密をもうひとつ。そのふくよかなお胸は、スキル【育児】によってふくらんだもの」
「なっ⁉ そんなことまで‼」
「そして! そのために、たゆんたゆんなそのお胸には、【母乳】がいっぱいなのです!」
「な、なんだってぇーーーッ!!!」×2
俺とウサウサは思わずシンクロして叫んだ。
なんという神スキルなんだ【育児】とは!
そのために、こんな女の子に奇跡のような巨乳(母乳つき)をさずけるとは!
「男だらけの中で、毎日あふれ出る母乳の始末はたいへんだったでしょう。やっぱり出た母乳は捨てているのですか? 魔法学院でしてたように」
「う、うるさいうるさい! もういい! わかったから、それ以上しゃべるな!!」
ゴクリ………
毎日”母乳”が出ているのか。あの巨乳から。
ハッ!
俺はどうして、いま喉がなったんだ?
まさか『飲みたい』とか変態なことを考えてしまったんじゃ………
いやいやいやいや、まさかそんな変態的なことを!
まさか、ねぇ?
「なんてもったいないこと! 聖女ちゃん、これから聖女ちゃんが出すミルクはぜんぶアタシが飲んであげるから!!」
うわぁシビレるそのセリフ!
くそっ。ウサウサの漢らしさが眩しいぜ。
◇ ◇ ◇
「うぇ~~ん。聖女ちゃんに嫌われたぁ。どうしてえ?」
ウサウサは頬にでかい赤い手形をつけながら、俺とジョイスロウ殿下を運んでいる。
「セクハラばっかしたからじゃないか? いちおう女なんだから、女の嫌がることぐらい分かれよ」
なんなんだろうね、ウサウサといるこの感覚。
性別は女なはずなのに、性欲ヤベエ悪友といる気分だよ。
それにしても、だいぶ遅れてしまった。
ジャウギの奴、怒っているだろうな。
俺達、殺されなきゃいいけど。
「遅いわぁ!!」
ドゴォッ
「ぐげええええ!!!」×2
戻った早々、俺とウサウサはジャウギにぶん殴られた。
しかしその一撃は重く、息すらできないほどだ。
え? 肋骨折れてる?
口から血が? もしかして内臓もヤバい?
「こ、これはまずいです! 回復術!」
慌ててエルフィリアは俺に回復術をかけた。
腹立ちまぎれのたった一発で回復術が必要なほどの一撃⁉
本当に殺されかけた⁉
なんなんだこの暴虐王子は!
いくら何でも、手加減なさすぎだぞ!
「相変わらず容赦ないわね。それにしても、あなたも回復術を使えるの?」
クージーQはウサウサに術をかけながらエルフィリアに聞いた。
驚きもせず、手慣れた感じで作業するみたいに術をかけてる彼女が怖いよ。
「え、ええ。運よく光魔法のスキルを授かりましたわ」
「そう。それならこれから楽になるわね。あの殿下、本当に手加減ってものを知らないから。ジャウギ殿下に殴られて回復術が遅れたら命取りになるから、あなた達も気をつけなさい」
なんで戦闘に関係のない日常生活で、そんな注意が必要になるんだ⁉
どうやらこの”勇者の試練”の旅、俺達にとっても試練の旅路になるようだ。
その場にはスキード・ワゴンのじいさんもいたが、殺されかけた俺達を心配するでもなくいつも通り飄々としていた。
「まったく、遅かったのう。ほれ、軽く御者を紹介してやるわい。おい、二人ともちょっとこっちに来い」
スキードに呼ばれ、ヒキャク鳥車から二人の人間が降りてきた。
一人はスキードほどではないが、かなり高齢のおっさん。
浅黒い顔をしているが知性的な気品があり、体格は太目だが鍛えたしまったからだをしている。
もう一人は銀髪の体格の良い兄ちゃん。
腰にさした剣がよく馴染んでいる所から、本職は剣士だろう。
「まずはこっちのブ男の方は高位魔法師のムハメド・アムドウル師じゃ」
「ひどい紹介ですなスキードさん。本職からはなれ、ジャウギ殿下のお供をすることになりました。試練の間よろしく、みなさん」
「え? アムドウル師……まさか王国魔法学院の学長の?」
え? エルフィリアが知っている人で、何か大物っぽい?
「おお、お嬢ちゃんよく知っておるの。他にも宮廷魔法師副総長という肩書もあるの」
「そ、そんな大物を御者にするだなんて……」
「昔わしと冒険者パーティーを組んだ縁での。アムドウルはジャウギ殿下とわしの乗るヒキャク鳥車の。そしてこ奴がお前さん方の乗る車の御者じゃ。荒っぽい走りをするから覚悟しておくようにな」
スキードはもう一人の銀髪の若い方を紹介した。
筋骨隆々とした偉丈夫で、武人の気配と気品から騎士であろうことがうかがえる。
「よろしーく。ジャウギ殿下のゴロツキっぽい配下を乗せなきゃなんないとおもったら、かわいらしいお嬢様たちじゃないの。こりゃ道中楽しみだぜ」
性格はそれっぽくないようだ。
「え? 彼、もしかして【ミエール・ポルマレフ】……ですか? 王国最強十剣士にかぞえられる?」
またしてもエルフィリアが知っているようだ。
どうやらこの兄ちゃんも上の世界の有名人らしい。
やっぱりこのスキードじいさん、とんでもないお人だよ。
人脈がハンパじゃない。
「ほほう、ポルマレフも知っておるか。やはりお嬢さん、どこぞの貴族令嬢じゃな。なぜに家名を名乗らんのじゃ?」
「い、いえわたしは貴族令嬢などではなく……ゴニョゴニョ」
いや、見ただけで名前が出てきちゃったんだから言い逃れできないよ。
まいったね。こりゃエルフィリアの正体がバレるのも時間の問題のようだ。
「おい、さっさと行くぞ。それとも足手まといを殺さなきゃ、はじめられないか?」
ヤベエ! ジャウギの奴、本気で怒りはじめた。
ヤツの『殺す』は本気だから命がけだ。
「いえ、ここからは急ぎでいきますゆえ、短慮はお控えくださいジャウギ殿下。ああ、お嬢ちゃんたち。ジョイスロウ殿下はそちらに乗せていくから、しっかり守るんじゃぞ」
それは良かった。
ジャウギと同じ車なんかに乗せられたら、次の試練に着くまでにジョイスロウ殿下は生きていないだろうからな。
しかし俺は男なのに、女が多いせいで『お嬢ちゃんたち』でくくられるのは困りものだ。
俺達がヒキャク鳥車に乗り込むと、「ハイヨーッ」と最強剣士兄ちゃんの威勢のいい掛け声とともに出発した。




