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44話 さらばメディスン街

 街を出るにあたって冒険に必要なものをエルフィリア、ウサウサと買い出しに行くことになった。

 俺のスキルに必要な石鹸や洗剤がメインだが、その他の細々したものも買ってゆく。

 道中、ウサウサがふいに言った。


 「あーあのさ、これから一緒に旅することになるんだし? いつまでも知らないフリしてんのも何だから言うけどさ。リンちゃんって、本当の名前は『エルフィリア』っていうんだよね? そんで、お貴族様のご令嬢で、前に壊滅した勇者パーティーの聖女様なんだよね?」


 「なにいっ⁉ 何でそれを‼」


 「知っていたのですかウサウサさん!」


 「リッチ退治の終わりのとき、シーザと交代で見張りしたことがあったろ? あのときのふたりの会話で、だいたいの事情を知ちゃったんだよ」


 「ええっ⁉ ウサウサが寝ていた所とはけっこう離れていたのに! もしかして隠れてた?」


 「そんなことしないよ。でもアタシのウサ耳、あの程度の距離なら問題なく会話なんて拾えちゃうんだよ」


 ウサ耳を侮っていた!

 

 「あ、あの……黙っててくださいね?」


 「別に言いふらしたりなんかしないよ。でもさ。貴族のお嬢様ってことはアタシが言うまでもなく、もう広まっちゃったんじゃないかな?」


 「ええっ⁉ わたし、貴族っぽいこと、何かやっちゃいましたか⁉」


 「ほら。あの極悪の権化みたいなジャウギに、命の危険もかえりみず堂々と物を言ったろ? あの姿って、すごいカッコよくて毅然としてて、みんなどこの貴族令嬢だろうって話してたもん」


 「えええっ⁉ ただ普通に話しただけですよ!」


 「それが、おかしい! 王族勇者のジャウギに『弟に負けた二番手勇者が、勝負に負けてヒスをおこして喚いている』なんて、普通に言えちゃう庶民いるわけないっしょ。この街の最高貴族様のオークランド子爵だって、なぶられ放題だってのに」


 「いえ、あれは『そんなこと言っている者なんて誰もいない』という会話の流れで……」


 「いやいやぁ。あれは完全にジャウギをコケにしてたよ。誰にもできないことを平然とやってのけるエルフィリア様! そこにシビれるあこがれるぅ!」


 ウサウサの目は熱くハートが宿っている。

 どうやら完全にエルフィリアにハマってしまったみたいだ。


 「まいりましたね。『貴族っぽい幼女がいた』なんて噂が流れたら、実家は間違いなくわたしを疑います。昔から【デキスギ幼女】として知られていましたから」


 「やっぱり貴族のお嬢様だったんだね。でも『実家に知られたくない』ってことは、もしかして家出? 貴族やめちゃうの?」


 「そうです。このシーザと愛が生まれてしまいましたので」


 ”兄弟愛”な。


 「ええっ‼? ふたりの関係が何だったのか疑問だったけど【熱愛逃避行】だったの⁉ シーザってば幼女殺し⁉ リンちゃんの実家に知られれば殺されるよ!」


 そうなんだよ。

 俺はただの田舎の勤労な冒険者だったのに、何でこんな重い宿命を背負わされてしまったんだ。


 「まぁシーザがわたしの実家からあらゆる拷問をうけて処刑されるであろうことはともかく。目立たず早く街から出た方が良いですね。わたし達がいなくなれば、皆もさっさと忘れるでしょう」


 それを”ともかく”とか、どうでも良いことにするな!


 「どうかなぁ。あの暴虐な勇者一派にかまして凄い噂になっていたし。この街の英雄譚として伝えられるんじゃないかなぁ」


 やめてくれ。俺の寿命が縮む!

 しかし俺の真摯な願いも、繁華街についた途端に破られた。


 ――「おおっ! あんた、もしかして勇者の手下を全滅させたあの男⁉」

 ――「そっちの美少女は、あの極悪王子にカマしたあの子‼」

――「どこの貴族のお姫様⁉ あの凛々しい立ち振る舞い、さぞ名のあるご令嬢なのでしょう!」


  ヤベエ! 俺たちのまわりに人だかりが出来やがった!

 英雄譚ってのは誰しも大好きだからな。

 俺だって好きだし、自分も英雄なれたら良いなって思ってたけど、今は最悪!


 ――「最後にはスキードさんが締めてくれたとはいえ、アンタらの活躍もすごかったよ!」

 ――「ぜひぜひ、あの時の心境をくわしく! 街の伝記として残しておきたくて!」


 やめてくれ!

 こっちには家出中の聖女がいて噂がひろまるとヤバイんだって!


 「あーもう、買い物どころじゃないね。買い出しはアタシがやっておくから、そっちはよろしくやっておきなよ」


 「待てウサウサ! 頼むからこの連中も何とかしてくれ!」


 「無理。あのジャウギの下でやってかなきゃなんないんだから、遅刻とかできないっしょ」


 さっさとウサウサは買い出しに行ってしまった。

 くそっ。状況判断も的確で、本当に優秀なレンジャーだよ。



 ――「庶民の方々、道をお開けなさい」


 と、突然高そうな使用人服を着た一団がやってきくると、俺達に群がっていた人は俺達から離れた。

 そしてそのリーダー格っぽい男がシズシズとエルフィリアの前にくると、かしこまって高そうな服を捧げ送った。

 

 「【駆ける疾風】のリンさんですね。これは、とある高貴なお方からの贈り物です」


 「え?あの……このメイド服なのに、やたら良い生地を使ってフリルも多い謎の衣装はいったい?」


 ああ、誰からのプレゼントかわかった。


 「とある高貴なお方のお気持ちです。魔術付与もふんだんに使われており、旅での御身を守っていただけるでしょう。どうか勇者の試練の終わった暁には、また街へ寄ってほしいとのことです」


 メイド服になんて贅沢なモンつけてんだよ!

 エルフィリア、どうやらあのロリコン子爵のハートまでつかんでしまったらしいな。


 「は、はぁ。オークランド子爵にはよろしくお伝えください」


 「さて、どなたからのモノかは存じません。くれぐれもその名は口外いたせぬよう」


 いや、なに下手なごまかししてんのよ、執事さん。

 バレバレだって。

 さっき【庶民の方々】なんて言っちゃってるし。

 オークランド子爵の使用人の一団が去ると、俺達は歓呼の声と拍手につつまれ、さらに狂騒は高まった。

 どうして、こうなった?


 俺達は街の伝説となってメディスン街を出ることになってしまった。

 エルフィリアのこと、隠しきれるかなぁ。




 


 これにて第二章は終わりです。

 第三章では第二のヒロインを出す予定です。

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