42話 老冒険者は告げる
老人でありながら妙に存在感のあるその男は、ジャウギに臆せずその前に出てきた。
「楽しく遊んでいられるようで何よりですな。しかし勇者の使命は、いかがなされたのですかな?」
「ん~なんだ老いぼれ。きさまもオレに文句があるのか?」
爺さんはジャウギの突き刺さるような威圧にも臆せず平然として告げた。
「わが名は冒険者【スキード・ワゴン】。現在はラボウ王太子殿下の依頼を受け、その代理人として動いております。わが言葉はラボウ王太子殿下の言葉としてお受け取りくださりますよう」
―――(あのお方が【スキード・ワゴン】? 伝説の冒険者の?)
―――(どうしてここに? 現役は引退して冒険者財団の総帥になったんじゃないのか?)
―――(もしかして街を救いに来てくれたのかしら)
【スキード・ワゴン】の名前が出たことで、場の雰囲気が変わった。
しかし本当にこの爺さん、何しに来たんだ。
「……チッ、兄者の使いか。たしかに、この場での遊びは過ぎたようだ。しかし、放って行くこともできん用事が出来てな。今日一日だけ待て」
「ジャウギ殿下。”勇者の試練”のこのルールはご承知ですかな。『最終試練の場に勇者が最初に到着した日より三十日以内。その期間内に他の勇者が最終試練の場に到着できなかった場合、その勇者は力が劣るものとみなし、勇者の地位は剥奪される』というものですが」
マズイな。そんなルールがあったのか。
実は俺達がジャウギを殺そうとているのは、意趣返しのためだけではない。
ジャウギを亡き者にして、ジョイスロウ殿下を再び勇者に戻すためでもあったのだ。
しかしそのルールだと、今からジョイスロウ殿下を勇者に戻しても、間に合わなくなる可能性の方が高い。
「それがどうした。サザンクロス卿の勇者はすでに亡く、残るは平民出のカス勇者のみ。奴では第二試練あたりで終わりであろうよ。もはやオレが真の勇者となることは確定しておるわ。フハハハハ」
「ハハハハハハ。殿下は楽しい夢を見ておられるようですな。ですが現実世界はきびしいものです。特に夢見がちな者に対しては、ですな」
「なんだ老いぼれ。何が言いたい。まさかカス勇者が最終試練まで到達したとでもいうつもりか? んん?」
「左様。リヒテラーデ卿ご令嬢の勇者は、すでに第4試練を突破いたしました。今頃は最終試練の場に到着なさっているでしょう」
「な、なんだと!!?」
―――なんだってーーっ!!!
「バッ、バカな! そんなハズはない! 奴があの試練を突破することは不可能のはずだ!」
「事実です。ジャウギ殿下はまだ第二試練までしか成しておりませぬ。すなわち三十日以内に第三第四の試練を突破し、最終試練の場へ行くことができなければ、ジャウギ殿下は勇者失格」
「~~~~くくっ、すぐに出る!」
「まぁ落ち着きなされ。今からでは、ジャウギ殿下のみでは最終試練まで行くことは不可能。それゆえ、わが【スキード・ワゴン冒険財団】は、王太子殿下からの依頼をうけジャウギ殿下をお助けに参りました。必ずや間に合わせてみせましょう」
「………よかろう。やってみせろ」
ジャウギも、もう俺達どころじゃなくなったな。
どうやらこの件は、完全に俺達の手から離れてしまったようだ。
だが、ジャウギは俺とエルフィリアをギラリと睨んで言った。
「おい、お前たちも来い」
「ええっ? な、なぜです?」
「貴様たちのせいで手駒が足りなくなった。その代わりを務めろ。それに先ほどの一件、消えてなくなったわけではないぞ。試練を突破したのち、借シを返させてもらう」
そう言ってジャウギは行ってしまった。
下僕命令をくだされて残された俺とエルフィリアは、途方にくれる。
「エルフィリア。事態は急変してしまったし、これからどうしようか?」
「ジョイスロウ殿下を勇者に戻す計画は完全に終わりましたね。であるなら、身柄だけでも取り戻しましょう。幸いわたし達はジャウギに気に入られ、旅について行けることになりました」
旅の最中にジョイスロウ殿下を取り戻すのか。
しかし『気に入られた』って、死神に好かれたようなもんじゃないか?
茫然とする俺とはうらはらに、街のみんなはスキード・ワゴンの爺さんを称えて盛り上がっている。
とくにオークランド子爵はスキードの手をとって感謝を述べている。
「いやあ、ありがとうスキード・ワゴン殿! あなたのお陰で街は救われた! まさに伝説の冒険者の業です!」
「あ、いやわしは王太子殿下からの仕事と与えられた権限を振りかざしただけのこと。冒険者としては何ひとつ成してはおりません。それより子爵閣下、すぐに勇者を旅立たせたいと思います。旅のための物資の供給をお願いできますでしょうか」
「おお! すぐ手配させましょう。どうか国王陛下ならびに王太子殿下には、冒険者がやった不始末もよしなにお願いいたします」
「いえ、先ぶれもなしに馬で突進などしてきては、盗賊と勘違いするのもやむを得ますまい。子爵閣下の判断は無理らしからぬ事。街を守る者としての子爵閣下の判断は間違っておりませぬ。王室の方々にはよく言っておきましょう」
「なんという人格者! あなたこそ、まさに真の【勇者】! わが愛しきメイド隊に歓迎の晩餐をさせましょう!」
このロリコン子爵め!
こんな爺さんに、ロリメイドに何をさせるつもりだ?
考えるだけでおぞましいことではあるまいな。
「いえ、すぐ出立いたしますのでけっこう。過分な歓迎は辞退させていただきましょう」
と、そのときもう一人、見知った人物が爺さんの前に出てきた。
「師匠。ありがとうございます。アークライトです」
「おお、アークライトか。この街で冒険者をやっておったか」
師匠? アークライトはスキードの弟子だったのか。
「ええ。ですが今は引退を考えているところです。先日のクエストで不覚をとり、長期の療養を余儀なくされているもので」
「フム? 何があったのじゃ」
「そのことでお耳に入れたいことがあります。前勇者パーティーの【賢者カズス】がこの”勇者の試練”に何やら関わっているようなのです」




