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40話 地獄へのパレエド

 「奇妙な感覚だ。地面がこんなに近い。砂や石がこんなにハッキリ見える」


 体は地面に埋められ身動きひとつとれない。

 頭に何をされようとされるがまま、か。

 まるで食材だな。

 そういえば俺がさばいてきた食材の中には生きているものもあったが、こんな気分だったのかな。


 「助けてくれ助けてぇ~~!!」


 俺の後ろの奴ら、さっきから「助けて」としか言ってないな。

 まったくうるさくてたまらないが、気持ちは分かる。

 死ぬ直前になると、妙に命が大事に思えてくるんだよな。

 俺はシェインに崖から突き落とされたとき、そして奴が吸血鬼になっておそってきたときに経験済み。

 この気持ちに負けないで命をさらして勝機をつかむのが一流の冒険者だ。

 これを教えてくれたんだから、奴は良い先生だったよ。


 「うおっしゃあ! 今度こそ頭が完全に砕けるよう踏み潰せよ。また失敗したら、ジャウギ殿下は本気で怒るからな」


 ザッカルとかいう野郎が大声で馬に気合をいれている。

 やはりダイサック同様、俺の頭を潰すように言われているか。

 予定通りだ。

 せいぜい張り切って飛んでくれ。



 「第3遊戯はじめぇ!」


 ドドドドドドドドォッ


 「うおおおおおっ! 行くぜえ」

 「ヒャッハーッ! つぶせつぶせーっ」


 号令とともに騎馬の大群は一斉に駆け走ってくる。


 「ひいいいいいいいっ。来ないでえええええ!!!」

 「やめてぇええええ!! 助けてえええ!!」

 「いやだいやだぁあああああ!!!」


 まるで山崩れの正面に立っている気分だ。

 後ろからうるさいくらいの悲鳴が響く。

 まったく、この声だけで地獄へひっぱられそうだ。

 されど俺はもう、この程度の修羅場は経験済み。

 スキルに集中しろ!


 目標はダイサックの頭を踏み潰したときにジャンプした蹴り上げた跡。

 あそこまでの大地一帯を徹底的にピカピカにする!


 「ふうおうううううう! 【シャボン・ウォッシャー】!!!」


 口にふくんだ石鹸をシャボンにし、一気に噴き出した。

 女神の祝福スキル・ブーストで大きく強化された【洗濯++ダブルプラス】は、たちまち大地の汚れを取り去り、そこはピカピカになった。


 やがて騎馬の大群がせまり来る。

 「ドドドドドドドドド」という巨大な音とともに、崩落にも似た馬の脚が近づいてくる。


 「来い! 俺の頭を潰してみろ! ダイサックのように!」


 「ハイヨォーッ飛べえええっ!!」


 寸分たがわずあの場所で、ザッカルの馬は跳躍する。

 だが、そこはすでに死地だ!

 きさま達は地獄へ行進パレードしに来たのだ!!



 ズルッ


 「うおぉぉぉ!?」

 「はぎゃっ!?}

 「おあああ!? どうした!?」


 騎馬隊の馬は俺がシャボンで洗った大地にかかると一斉にバランスを崩した。

 スキルの幾度かの実験でわかったことがある。

 俺の【洗濯++ダブルプラス】に女神の祝福スキル・ブーストをかけると、あらゆるものがなめらかになりすぎてしまうのだ。

 物はすべって掴むこともできなくなり、地面ば立っていることもできなくなるほどにツルツルになる。

 つまりその能力ちからで洗浄した場所に騎馬で突進など、地獄への行進に等しい。


 ズザザアザザザザッ

 ドゴオオオオンッ

 グシャアアアアアッ


 馬の前列は一斉に転倒し、前列がくずれた場所に後列はいきおいそのままに飛び込んだ!


 「うぎゃあああああっ!!!」

 「痛ええええええ!」

 「あべしいいいいっ!」


 前列の奴らは踏み潰され、後列のやつらは足をとられまた転倒する。

 ものすごい玉突き衝突に、先ほどとは逆に向こうが阿鼻叫喚の悲鳴がきこえる。

 だが、奴らの悲劇はまだ終わりじゃない。


 ザッカルの馬は足をすべらせバランスを崩しながらもジャンプしたのだ。

 だが姿勢は大きくくずれ、ほぼ真上へと高く高くとんでしまっている。


 「うわあああっ! や、やめろおおっ! 落ちるなああああ!!!」


 ほぼ仰向けになって空中にとんだザッカルの馬。

 その背に乗るザッカルは、いまは馬の真下の状態。


 「うああああザッカル! 来るなあああ!」

 「どけっ! くそっ絡まって抜けられねええ!!」


 悪党ども悲鳴が響くその真上に、ザッカルの馬は―――



 ズウウウウウウウウウンンンツッッ!!!!!!!!



 最大級の音を響かせ落下した。

 「バキバキバキイッッ」と、枯れ木のように骨がへし折れる音が鳴り響く。

 しばらく苦しそうなうめき声が倒れる馬の山の中から聞こえてきたが、やがてやんだ。


 観客も埋められた遊戯の生け贄たちも、あまりの出来事に言葉を発する者は誰もいない。

 あたりは「シーン」と静まり返っている。



 「楽しい遊戯だったな。満足できたか?」


 そんな俺の言葉に答える者も、誰もいない。



 

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