04話 聖女様とダンス
さて、勇者パーティー最初の任務はとある辺境の小ダンジョン攻略。
ダンジョンは魔物を発生させるので、普段なら潰さずそのまま魔物の狩り場として利用する、といった使い方もする。
しかし魔王が生まれた今、魔物の大量発生の原因にもなったりするので、潰すことを命じられたのだ。
ダンジョンは一種の魔物で、ダンジョン深奥の核を壊さない限りいつまでも魔物を生み出し続けるので、つまり核を破壊するのが任務だ。
意気揚々とダンジョンにもぐる勇者パーティーの奴ら。
俺達はその間、食事と野営の準備だ。
さて、結果はどうだったかというと……
「フハハハハハ、みよ、我が勇者パーティーの実力を! この程度のダンジョンなど問題にならん! これが真の勇者となる者の実力だ!!」
勇者シェイン様ご満悦の通り。
実際、もの凄く早くクリアした。
ダンジョンに入ってから出てくるまでが一時間ちょっと。
小ダンジョンとはいえ、これは異常だ。
「エルフィリアよ。そなたの的確な助言の功績も大きい。オレへの愛を大きく感じた! 今宵は飲み明かし、オレらの将来を語り明かそうではないか!!」
「……え、ええ。お手柔らかに」
エルフィリア様、明らかに嫌そうな顔してるよ。
今宵はあの坊ちゃんの自慢話を夜通し聞かされるのだろうな。可哀想に。
大盛り上がりの勇者パーティーの野営より少し離れた場所。
俺達は【疾風の仕事屋】の仲間内だけで食事をとった。
その時に、勇者どもの荷物持ちでついて行ったメッシーナさんから、ダンジョン攻略の様子を聞いた。
「S級スキルやA級の魔法は凄かったぜ。ちょいと苦労するタイプの魔物でも、簡単に狩っていきやがった。こっちのダンジョンの注意なんかも良く聞いてくれて、信じられねぇくらいスムーズだったな」
「はぁ? スキルはともかく、あいつらがメッシーナさんのありがたい助言なんかを、素直に聞いたんですか?」
「おれの言葉なんか聞きゃしないさ。だから聖女様に代わりに言ってもらった」
ああ、納得。
この仕事。当初は不安だらけだったが、エルフィリア様が勇者どもの手綱を握ってくれれば、案外上手くいくかもな。
希望が見えてきた!
エルフィリア様を、魔王を倒した【英雄聖女】にするためにも、俺も頑張ろう!!
「……しかしな。あの聖女様…………」
「エルフィリア様が何か? あまりに世間知らずで困るとか?」
「逆だ。あまりに冒険者の基本が出来すぎている。おれの助言も、最初から知っていたんじゃあないか、と思うようなことが多々あった」
「ハァ?」
大貴族様の深窓の令嬢が、上等のドブさらいみたいな冒険者稼業の基本を知っている?
何を言っているんだ、メッシーナさんは。
みんなの「ポカン」とした顔に気まずくなったのか、メッシーナさんは大声をあげた。
「悪い! 忘れてくれ。とにかく、あの聖女様はこの仕事のキモだ。てめぇら、彼女とは良い関係を築けよ!」
「「「おうっ!!!!」
この指示に、誰も異論などあろうはずがない。
――「どのように築いて頂けるのです。やってみせていただけません?」
鈴が鳴るように美しい声のその主は。
「エ、エルフィリア様!!?」
いま話していたエルフィリア様が、面白そうな顔をしてそこにいた!
メッシーナさんはバツが悪そうに聞いた。
「どうしてここに? 勇者様のみなさまは?」
「皆、酔って寝てしまいました。ひとりぼっちになってしまったので、ここに入れてください」
「はぁ? まだ宵の口。酔い潰れるほどの時間じゃ………いや、まさかと思いますが、一服盛ったんじゃ………」
「皆、ダンジョン攻略で疲れて寝てしまいました。こっちに入れて下さい」
メッシーナさんもそれ以上何も言えず、エルフィリア様はオレ達の輪へ。
エルフィリア様はその容姿から浮世離れした方かと思いきや、思いのほか俺達と話が合った。
俺らの故郷での冒険者の仕事の話を楽しく聞いて、俺達もそれぞれの武勇伝を勇ましく語った。
俺はスキルでみんなの料理を作っていることを自慢すると、エルフィリア様は立ち上がってこう言った。
「シーザ、いらっしゃい。おいしい食事のお礼に、貴族のダンスを教えてさしあげます。みなさんは歌で伴奏をお願いします」
そう言って俺に手を伸ばすエルフィリア様。
え、えええええ!!!?
こんな美しい手を俺なんかが握っていいの!?
エルフィリア様の可憐な美貌に引き寄せられるように手を伸ばす俺。
みんなの歓声やらやっかみが、うるさいくらい響く。
「お、おいシーザ。さすがに、それはマズイ! 『ダンスは求婚の形』なんて言葉もあるくらいだぞ!」
「それはあくまで貴族間の社交の場での話です。余興では、みな自由に相手を変えて踊りますよ」
エルフィリア様にこう言われては、メッシーナさんも黙らざるを得ない。
「……わかりました。シーザ、行ってこい」
俺が立ち上がる前に、メッシーナさんは俺の耳に小声でささやいた。
「お前はジョゼフみたいなことにはなるなよ。あいつは本当に残念だった。スキルにさえ恵まれりゃ、伝説にすらなれる男だったんだ」
俺が小さい頃死んだ兄貴【ジョゼフ・ツェッペリ】か。
あんまり小さいころ死んだんで、どんな人かよく覚えてない。
聞くところ、そうとう腕が良い冒険者だったらしい。
だが無類の聖女好きで、聖女の水浴びのノゾキにチャレンジした。
未遂だったら鞭打ちですんだものを、なまじ腕が良かったせいで成功してしまった。
で、無礼打ちで最期を迎えた。
バカだと思う反面、そんな兄貴にシビれて憧れる俺がいる。
「どうしました? メッシーナに何を言われたのです、シーザ?」
月明かりの下、華奢な体を軽やかに回転させ、俺と踊るエルフィリア様。
憧れの顔が間近にあることも、かすかに触れる肢体も、すべて感動だ!
その微笑みだけで天国へ行ってしまいそうだ!!
「な、何でもありません! 死んだ兄貴のことを少し言われただけです!」
「あら、お兄さまがいらしたの? どんな方なのか、どんな最期でしたのか教えていただけません?」
―――ハイ! 無類の聖女好きで、聖女様が近くに来たときノゾキに行って無礼打ちにされました!
言えねーよ!!!
「い、いえ兄貴のことは……俺が小さい頃死んだんで、よく知りません!」
エルフィリア様はあえて追求せず、俺の反応を楽しむように微笑むだけだった。
(マルクゥゥゥゥ! 俺は大貴族の令嬢にして聖女様とダンスを踊ったぞぉぉぉ!! 帰ったら、死ぬほど自慢してやるからなぁぁぁぁ!!!)
結果として、帰ってもマルクにこのことを自慢などしなかった。
こんなことはちっぽけなくらい、聖女様がらみの件を持ち帰ったのだから。
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