39話 伝説の老冒険者
アークライトに次の遊戯の進行を遅らせるよう頼み、俺とエルフィリアは少し離れた裏路地へといった。
「あの男が『よくできた弟』にあれほど憎しみを抱く理由。それはジョイスロウ殿下以外ないでしょう」
「いったい何があったんだろうな」
「わたしも知りませんが、理由はアタリがつきます。あのジャウギもS級戦闘スキルをもっているそうですが、勇者に選ばれたのは弟のジョイスロウ殿下の方。この意味を考えれば簡単でしょう」
「なるほどな。勇者を選ぶ儀式みたいなのが行われて、それでジャウギはジョイスロウ殿下に敗れた、というわけか」
「わたしはこの点を徹底的について、奴を誘導します。シーザにやってもらいたいことは……」
彼女は、そこでジャウギと手下を倒すための作戦を告げる。
もう作戦なんて考えついたんだから、本当に天才だよ。
「…………というのが作戦です。頼みましたよ、シーザ」
「ゾツとしない作戦だな。タイミングをまちがえば……死ぬな」
「吸血鬼シェインとの戦いを見て、できると確信しています。あなたは、あの最悪の魔物を前にしても委縮せず、自分の最大をぶつけることが出来ました」
「ああ、わかったよ。俺もあの糞勇者は許せない。まずは手下をあの世に送ってやる!」
「…………黙って!」
緊張したエルフィリアの声で、反射的に周囲を警戒する。
エルフィリアの視線の先を見ると、いつの間にやら旅姿の老人がいた。
その老人の顔には治癒術で治していないのか、深いキズ跡があった。
距離はそこそこあるし……まさか聞かれてないよな?
「おじいさん、こんな所でどうしました? 表の勇者の遊戯から逃げてきたんですか」
「いや、わしは旅の者でな。いまこの街に来たばかりで、なぜ騒がしいのか分からんのじゃよ。お二人さん、どうか教えてはくれんかの」
「はい? いま街は封鎖されているはずですが。どうやって……」
「はい、お教えいたしましょう。じつは……」
なぜかエルフィリアは俺に疑問を問わせることを遮って、状況を伝える。
エルフィリアが説明している間に俺はこの老人を観察したが、奇妙な感覚をおぼえた。
『俺はこの老人を知っている。いや! この強いまなざしと顔のキズを知っている』
見知らぬ爺さんにそんな既視感を覚えたのだ。
やがて話し終えたエルフィリアは、お爺さんに貴族の会釈をする。
「では、お気をつけて。わたし達は行きますから」
「ジャウギ殿下を殺しにかの」
――――!!?
「…………わたしからも質問よろしいでしょうか?」
「わしの質問に答えておらんがの。ま、よかろう。何じゃ」
「あなたは伝説の冒険者【スキード・ワゴン】ですか?」
「ええええっ!?」
伝説の冒険者【スキード・ワゴン】。
【Sランク冒険者】というのはランクとしては存在しないが、『スキード・ワゴンこそ世界ただ一人のSランク冒険者』と誰にも言われている男だ。
その活動は二世代にもおよび、数多のモンスターを狩り未知の素材を獲得し、無数の功績を残した世界最高の冒険者。
幾人もの吟遊詩人によって数多の物語が紡がれ、冒険者なら知らぬ者はいない伝説の男!
そうか。俺がさっき既視感なんて感じたのは、幾たびも聞いた物語の人だったからだ。
【顔のキズ】なんてスキード・ワゴンの代名詞みたいなものだからな。
「ほっ、もうわしの名までたどり着きよったか。お嬢ちゃん、幼いのにやるの」
「いいえ、わたしにしては遅すぎるくらいでした。ただ者でないことは分かりましたが、まさか昔からよくきいた物語の人がここにいるとは思いませんでした」
スキードは目をいっそうするどくさせてエルフィリアを見た。
「お嬢ちゃん何者じゃ? 幼く見えるが、見た目通りの年齢ではないの」
「それを話すほど親しくはありませんでしょう。それで? それを知ったスキードさんはどうします」
「そうじゃの。この件、わしにまかせてはくれんかの。長い冒険者生活のおかげで、少しは王族にも物申すことができるようになったでな。ま、どうにかまるく収めてやろうかの」
ええっ!?
せっかく反撃の気持ちが高まってきたところだったのに。
しかし、あの【スキード・ワゴン】にこう言われては、あきらめるしか……
「お断りします」
くはっ!? さすが中身が兄貴のエルフィリア!!
「もう『丸く収める』なんてことで、すます気はありせん。あの者には”しかるべき報い”がくだるべきです」
「王族殺しは大罪じゃぞ。おまえさん方、処刑を覚悟するつもりか?」
ゾクリ
【王族殺しは大罪】と聞いて、背中に冷や水をかけられたような気になった。
しかし、エルフィリアは涼しい顔で答える。
「ジャウギ殿下の行っている遊戯は、死ぬことも想定のもの。でしたらそれはジャウギ殿下自身とその手下にもあてはまるでしょう? 遊戯の上での死なら、誰も文句は言えません」
「危うい火遊びじゃな。お前さんらの遊びで、街は焼けて灰になるかもしれんぞ」
「火をつけたのはあいつらです。わたし達はただ、火が巡る方向を変えるだけです」
◇ ◇ ◇
遊戯の行われている表通りに戻ってみると、そこは阿鼻叫喚だった。
「オラオラッ、いつまで次の生け贄を決めるのに手間取ってやがんだ! こうなりゃおれたちが決めてやる。オラそこの! 来い!」
どうやら見物している人間を適当に参加させることにしたようだ。
連中は遊戯を見ている人間の所に行って、手あたり次第捕まえている。
「シーザ、急いでください。この街を救うのは伝説なんかじゃありません。わたし達です」
そう言ってエルフィリアは俺の額にキスをし、”女神の祝福をかけた。
木っ端冒険者の俺が、伝説の冒険者の救いの手をふり払って王族と戦うことになるとはね。
でもエルフィリアと戦うなら、死ぬのも怖くない。
「逃げたっていいんだぞぉ。ただし! 遊戯に参加する人間が誰もいなくなった場合、街は即刻焼き払ってやるからなぁ。ハハハ」
そんな声から幾人もの人達が逃げてくる。
「この分じゃ、おそらく今回が最後の遊戯だな。このあと連中は街を焼き払いにかかる、か」
俺は連中につかまって穴に埋められかけている者のうち、俺と年の近そうな男の元へ向かった。
「おおーい待ってくれ! そいつは俺の兄貴なんだ。兄貴に代わって俺が遊戯に参加する」
連中につかまって喚いていた男はキョトンとした顔で俺を見る。
「はぁ? い、いやアンタ誰……」
「不出来な兄貴をもつとしょうがねぇなぁー! ゴミカス兄貴に代わって、優秀すぎる弟が遊戯に代わりに出てやるぜ!」
男の声をかき消すように大声を張り上げると、ジャウギの怒りの声がとんできた。
「おい! そいつを代わりにを埋めてやれ! 自分の死に様がよく見えるよう先頭にな!」
「へ、ヘイ! オラ、出しゃばりな弟さんよ。お望み通り兄貴の代わりに埋まりな!」
本当に分かりやすいくらいコンプレックスの塊のような奴だな。
埋められる直前、俺は隠し持っていた石けんを口に入れた。
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