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35話 ウサウサのお願い

 それから一週間後。俺達は変わらず宿にいた。

 アークライトがジョイスロウ殿下の件を王都に伝えたので、今はその返信待ちだ。

 そんな俺達の元へウサウサが訪ねてきた。


 「おーいシーザ、リンちゃわ~ん……何してんの?」


 あー見られちゃったよ。

 俺らは今、宿の裏手で『聖女復活』の茶番劇の練習中。

 俺が『奇跡だ! 神の恩寵で聖女様が復活なされた!』とか涙流しながらセリフ言っている最中に、ウサウサが来てしまったのだ。

 いくらエルフィリアのためだからって、俺もよくやるよ。


 「シーザ、冒険者やめて劇団にでも入るの? あ、劇団じゃ食っていけないから、冒険者やってんのかな?」


 「何でもない。さっき見たことは忘れろ」


 「こんにちわ、ウサウサさん」


 エルフィリアを見たとたん、ウサウサの長い兎耳がピョコピョコ動いた。


 「リンちゅわ~ん、会いたかったよー。じつは困っていて、二人に助けてもらいにきたんだよ~」


 「リンに抱きつくな。それより困ったことって何だ。【緑の大樹】は解散するって聞いたが、それにからんだことか?」


 「それ、それなんだけどね。知っての通り、【緑の大樹】は街の顔役のパーティーだったんだよ。それが無くなっちゃったから、ギルドは早急にその穴を埋めなきゃならないんだよね」


 「そうだな。ここにいても、街の人達が不安がっているのが分かるよ」


 「またゾンビの襲来みたいなことがあったら、どうしようかって話してましたしね」


 「そこで元【緑の大樹】レンジャーのアタシ。ギルドから強く加入を勧められてるパーティーがあるんだけどさ。入りたくないんだよね。リーダーがパワハラ野郎だし」


 「そんなところにギルドが加入を勧めているのか。どういった理由で勧められてんだ?」

  

 「あそこのリーダー、【霊槍】っていうすごい戦闘スキルをもってて強いんだけどさ。でもそいつ、『戦えない者はパーティーに不要』とか言って、斥候やら付与師やらを追放しまくったんだってさ。そのせいで標的は見つけられない、戦いは長く続けられないで、クエスト達成率は低い低い」


 「なるほど。そこにスゴ腕レンジャーのウサウサが入れば、【緑の大樹】に代わる強パーティーになれると。そうギルドは踏んだわけか」


 「迷惑な話だよね。でも、ただ断るんじゃギルドの顔がたたない。そこで思い出したのが、アンタらのことさ。アンタらの【駆ける疾風】にはレンジャーがいなかったよね?」


 「ああ『俺達に助けてほしい』って、そういうことか。しかしな。俺達はこの街にとどまるわけじゃないぜ。もうしばらくしたら街をでるつもりなんだ」


 「いいっていいって、そんなの。言わなきゃいいだけだし。この危機から逃げるために、今だけアタシを【駆ける疾風】に入れてよ」


 いいのかなあ。

 しかしウサウサには助けてもらったこともあるし、断る気にはなれない。

 というわけで、そのパワハラリーダーのいるパーティーの元へとみんなで向かった。



 ◇ ◇ ◇


 

 連れてこられたのは、別の地区の冒険者のたむろする裏路地の一画。

 しかしそこの連中、あまり行儀の良くなさそうな冒険者たちばかりだ。

 そのパーティー【戦撃の槍】はそこの筆頭パーティーであり、リーダーはデカイ体をした見るからに脳筋凶悪野郎だった。


 「なぁにい? きさまのような亜人を入れてやろうっていう、おれ様の慈悲を断るだとぅ?」


 なるほど。

 このセリフだけで、ウサウサが入りたくない理由が分かった。


 「悪いねジイド。アタシは、このシーザが頭の【駆ける疾風】に入ることになったんだ。アンタの慈悲は、娼館のかわいそうなお姉ちゃんにでも使ってあげて」


 こんな凶悪そうなデカい男にビビらず話せるんだから、このウサウサも大した女だよ。


 「きさま……おれを舐めるのもいい加減にしろ。メディスン街最強の【戦撃の槍】を蹴って、こんなガキが頭のパーティーに入るだと? きさまは頭までウサギ並なのか?」


 「最強はまぁ、ウチの腕自慢も、ムスターファら餓狼の連中も亡くなった今、名乗れるだろうけどさ。でもさ、”最強”であっても”最高”じゃないだろ? 冒険者は達成率でモノを言わなきゃ」


 脳筋野郎の顔がいっそう凶悪になった。

 クエスト達成率が低いのは、やっぱり痛いところなのか。


 「フン。エモノどもは、おれにビビって逃げちまうんだからしょうがねぇ。だからこそ、小賢しく立ち回るきさまが必要なんだ」


 「アンタ、冒険者稼業を分かってないよ。そりゃエモノは、強い奴からは逃げるよ。そんな当たり前を言い訳にしてるようじゃ、アタシが入ったところでAランクなんか夢だね。リッチ退治に、アンタが呼ばれなかった理由を考えな。ウサギより軽い頭でね」


 「上の見る目がなかったせいだな。こんなガキが頭の雑魚パーティーの代わりに、おれの最強【戦撃の槍】を行かせれば、きさまの仲間もムスターファの野郎も死ぬことはなかったのになぁ」


 「何もできないで、真っ先に死んだだけだったろうね」


 「なにィ⁉」


 ちょとウサウサ! 煽りすぎだって!!


 「このシーザは、ウチと餓狼と勇者パーティーが壊滅したクエストに、結果を出して生き残った。呼ばれすらしなかったアンタと、どっちが冒険者として上か自明だと思うけどね」


 「そうか……なら、その実力。見せてもらおうか! おれのスキル【霊槍】を相手にな!」


 ええっ⁉ バトルまでするなんて聞いてないよ!

 凶悪脳筋野郎はかたわらに置いてあった槍をつかむと、見事な腕前で回転させた。

 『ブウン!』と振り回す槍で、強風が巻き起こる。


 「ようし、やっちゃえシーザ! 森の霧をはらって吸血鬼野郎を退かせたスキルで!」


 俺のスキルは、魔力のギミックなしに強い奴と、強い風を起こす奴とは相性悪いんだって!

 この極悪脳筋、どっちも当てはまるじゃん!


 (落ち着きなさいシーザ。大方、こうなることは予想してました。こんな脳筋、さっさと倒してしまいましょう。わたしの言う通りにしなさい)


 ええっ! エルフィリア、こんな状況を予想してたの!?

 しかも対策まで考えてる!?

 冒険者として上なのは、やっぱりエルフィリアだよなぁ。


 相対する俺と極悪脳筋の槍。

 だがそれは、横合いからの声で水を差された。


 ―――「ジイド、そんなことしてる場合じゃねぇぜ!」


 それはそいつの手下らしい男だった。

 ひどく慌てて駆け寄ってくる。


 「なんだ。このガキ、ブチ殺す以上に大事なことなど何がある」


 「ギルドから緊急クエストだ! 盗賊団が街に向かってきているんだと。おれ達に迎撃要請だ!」


 「ほう? フッフッフどうやらおれ様向きのクエストがやって来たようだな。おいウサウサ、それにガキ。格の違いを見せてやる。おれ様のパーティーだけで盗賊野郎を全滅させてくれるわ」


 脳筋槍野郎は槍を肩にかつぎ、ノッシノッシと行ってしまった。


 「助かった……のか?」


 「まったくだよ。運の良い奴だね。もう少しでシーザに殺されてたのに」


 いやウサウサ。俺を何かと勘違いしてないか?


 「いっそシーザが盗賊とやらを全滅させてみます? あの野郎を悔しがらせましょう」


 やらないって!

 どうして俺より女どもの方がバイオレンスなんだよ!!


 



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