31話 危なくない魔王クエスト
リッチの高濃度瘴気をあびたアークライトは様態がおもわしくなく、この館で一泊して回復をはかることになった。
軽症のケガですんだ俺とウサウサは交代で夜の見張り。
エルフィリアはアークライトの治療だ。
そして夜半にさしかかる頃。
エルフィリアは見張り中の俺の元へ来た。
「シーザ、アークライトの様態がようやく安定しました。彼が光魔法の使い手でなければ即死だったでしょうね」
「そうか、助かったか。それは良かった」
「でも冒険者は続けられるかどうか。少なくとも長期の療養は必要でしょうね。そしてメンバーの大半が損耗した以上、【緑の大樹】は解散でしょうね」
「いい冒険者パーティーが無くなるというのは悲しいな。いや、俺より街の人達の方がもっとつらいか。街の英雄パーティーだったそうだからな」
「そうですね。ですが、わたし達はこれからのことを考えないといけません。ジョイスロウ殿下を勇者に復帰させるとなると、いろいろ大変です。規定の試練もクリアしなければならないし、国王陛下はじめ関係者の方々へ謝罪もしなければなりませんし、最終試練に間に合うかどうか」
「……また”勇者の試練”か」
「シーザ?」
最近、ちょっとそのことについて疑問がわいている。
「いやあのさ。”試練”ってのが大事なのはわかるけどさ。でも限度ってものがあるんじゃないかな?」
「…………どういうことです?」
「一番肝心なのは、魔王を倒すことだろう? たしか居るのは”暗黒大陸”だっけ? そこには人間の領域にはくらべものにならないくらいの狂暴な魔物がいて、そこを突き抜けて魔王のいる場所に行かなきゃなんないんだろ?」
「え、ええ。まぁ、そうですね」
「だったら、試練にいつまでも時間はかけてらんないんじゃないかな? 試練はしょせん練習。本番の旅にこそ、準備と時間をかけるべきじゃないの? 命がけの旅になるだろうし」
エルフィリアは黙り込んでしまった。
ちょっとヤバイか?
俺ごときが、国王陛下の元でたてられたプランを批判するようなことを言ってしまって。
しかし最近、魔物の狂暴化による被害の話をよく聞くようになって、勇者様には早く旅立ってほしい気持ちが高まっているのだ。
「……シーザ。これから裏事情を話します。じつは本番の魔王討伐は、あまり命がけではないのです。それに、あまり時間も必要としません」
「は、はぁあああ!?」
いま俺は何を聞いた?
”魔王討伐が危険じゃない、時間も必要でない”と聞こえたような気がする。
だとしたら、子供のころからよく聞いている”勇者英雄譚”とかウソっぱちなのか?
「たしかに魔王の脅威は本物です。各地で魔物が狂暴化しているのは魔王が生まれたせい。また、魔王のいる場所が危険な暗黒大陸の中央にあるというのも真実です。まともに行けば長期の、最大級の危険をともなうクエストとなるでしょう」
「だったら何故? 魔王討伐が危険じゃないとか時間が必要じゃないとか、冗談としか思えないんだけど?」
「先人たちの努力と英知の結果、魔王が生まれる付近に”転移ゲート”を設置することに成功したのです。これにより、魔王のいる場所まで安全に行くことができるようになりました」
「な、なんだって!」
じゃあ、英雄譚にあるみたいな艱難辛苦をこえた旅路というのは、もうないのか!
あ、いや、良いことなんだけども、ちょっとさみしい。
「あ、でも魔王は? ここらの魔物さえ狂暴化させて強力にするほどの魔力だ。やっぱりその戦いはキビしいものなんじゃないの?」
「ええ、魔力はたしかに凄いですね。その魔力を魔法に変えて攻撃してきたら、人間などひとたまりもないでしょうね」
「え? なに? なんか含みのある言い方だよね?」
「魔王は攻撃してきません。生まれたばかりの魔王は、ただそこに存在するだけ。必要なのは濃密な瘴気を浄化する強力な光魔法と、ブ厚い魔力障壁を突破するS級戦闘スキルのみなのです。現にここ250年ほど魔王討伐本戦で死亡した者はひとりもいないそうです」
な、なんだってーーーっ!!!
「じ、じゃあ何で試練なんてやってるの⁉ そんな大がかりなこと、やる必要なんてまるで無いじゃないか!」
「ひとつは民衆への宣伝のため。魔王の脅威から民衆を守る強い王家とその元で集められた勇者パーティー。その存在を各地に伝え廻るためです。これにより、民衆は王家に対し深い尊敬の念を抱くでしょう」
たしかに裏事情を知ったら、王家への尊敬の念が半分くらい消し飛んだ!
「そして二つ目。じつは魔王討伐は政争の道具になっているのです。魔王討伐。その名誉を得られたパーティーの後ろ盾になっている派閥は、今後数十年、政治の世界で大きな発言力を得ることができます。それ故、複数の勇者パーティーがあるのです」
「な、なにいいーー!!? じゃあ、『勇者をきたえるため』とか称して、実は政治闘争をやっているだけなのかー!?」
「シェインのパーティーは宰相派。ジョイスロウ殿下は王党派。あと一つは、権力にあずかれない不遇な貴族のたてた勇者パーティーがいます」
ま、魔王討伐っていったい……
「このことは人に言ってはいけませんよ。話が広まったら、本当に消されてしまいますから」
「そんなヤバイ裏事情の話なんかするなーーーッ!!!」
ハァハァ……
しかしそういうことなら、一つ疑問がわく。
たしかエルフィリアは、俺のスキルを『魔王討伐の切り札ができた』と喜んでいたよな?
「だったら、何で俺の”洗濯++”が魔王討伐に有効そうだったとき嬉しがったんだ? 別に俺がやらなくても良いんじゃないのか?」
「場合によっては、シーザが勇者を出し抜いて魔王を倒す可能性ができたことが嬉しかったからです。もし出来たら、シーザは真の勇者。面白いと思いません? フフフ」
思わねーよ!
何で俺を王族、貴族間の政治闘争の中に投げ入れようとすんの⁉
兄貴は何考えてんだーーー!!!!




