29話 動く人形
シェインを完全にシャボンで囲んだ。
このシャボンは相手にかかっている魔力、呪力を完全に消し去る。
つまりアンデッドに浴びせれば、かかっている呪力は消え失せ死体に戻る!
「清めてやるぜ、サイコパス吸血鬼!」
「フフン、大したスキルだ。だがスキルの力だけで倒せるほど、このシェインは弱っちくはないなぁ。S級スキル【血粧刺剣】!」
シェインが剣を抜き振るうと、無数の斬撃が飛び、奴にかかっていたシャボンを残らず割った。
「フハハハ貧弱小僧共ォ。ちょっとでもオレに勝てると思ったか? マヌケめ。さぁ今屍生人にしてやるぞ」
またしてもシェインはこちらに歩み寄る。
されど俺はビビらず奴を睨みつける。
「ああ、勝てる。すでにアンタは俺の策にはまっているからな」
考えたのはエルフィリアだけどね。
「なに……うっ⁉」
さっきのシェインの斬撃で、壁や天井に無数の穴が開いているのだ。
そこから太陽光が漏れており、吸血鬼であるシェインはたまらず後ずさった。
「バカな……この館は強固な硬質化魔法がかけられているはずだ。たとえオレの斬撃であろうと、簡単には破られないはず……ハッ⁉」
「そう、その魔法を消したんだよ。俺のシャボンでな! ダイサック、やれ!」
「はい、【ロックバレット】!」
ダイサックの魔法の礫が天井や壁にぶつかる。
あっけなくそこは破られ、眩しい太陽光が室内に差し込む。
「どれだけ強力だろうと、アンデッドに地上を支配することは出来ないんだよ! 空には常に太陽があるんだからなぁ!」
「うおおおおっ」
たまらずシェインは陰になっている室内の隅へ飛びすさる。
だがリッチの方は印を結び魔法を使った。
「おのれっ。【ブラック・ウィドウ】!」
するとリッチの体から黒い瘴気があふれ出し、それが太陽をさえぎった。
「ああっ!」
室内は再び闇の気配に支配される。
「くそっ、ダメなのか。リッチにあんな術があるんじゃ、どうしようもない!」
「いや……あの術はリッチも消耗するみたいだぜ。奴から急速に呪力が抜けている。それが見えるぜ」
リッチの体にあるドス黒い呪力。
それがみるみる薄れていくのが、俺の目に見えるのだ。
「多分、あの術は消耗が激しい。太陽を遮る瘴気も、片っ端から蒸発してるしな。時間を稼げば俺達の勝ちだ!」
しかし、その時間を与えるほど奴らは甘くなかった。
追い詰められた者がどういう行動に出るか。
それを予想できなかったのは、俺の経験のなさ故か。
「シェイン! 室内の人間を皆殺しにしろ! こうなっては退避するしかない。だがその前に憂いを断て!」
しまった! 追い詰めすぎたか⁉
「かしこまりました、わが主」
シェインが剣を抜いた!
その目から、最初の標的は俺だと直感する。
「【シャボン・バリアー】!」
「【巨岩壁召喚】!」
反射的に俺達は、前面にできる限り最高のガードをかける。
しかし――
「【吸血鬼獄殺剣】!」
ドッゴオオオオン
「うわあああっ」×2
紙の壁みたいにあっさり破られ、吹き飛ばされた。
「フン……雑魚かと思ったら、とんだ毒をもっていたな。屍生人になれば少しは使える奴になったろうに、残念だ」
糞っ、もう手がない!
「そういえば貴様の顔、どこかで見たか? なぜか憎々しい気分になるなぁ。簡単に片づけるけるのが惜しいくらいにはな」
コイツ、俺のこと覚えてないのかよ!
まぁ、コイツが庶民の顔なんて覚えているわけないし。
それにしても、エルフィリアはどうしたんだ?
もう、5分はたったのに……
「まぁ、つまらんことを思い出しても仕方ないか。さっさと潰して、完全に忘れるとしよう」
ゆっくりとシェインは剣を振り上げる。
もうダメだ!!!
―――「シェイン」
…………え?
いきなり、どこからか奴の名を呼ぶ女の声がした。
それはこの部屋のもっとも高い場所、壇上の上から。
そして、この声の主は――
「なにィ、そんなバカな! まだお前に魂は召喚していない!!」
リッチは彼女をみて驚愕する。
「お、おおっ……目覚めたのか、エルフィリア!!」
シェインも振り上げた剣を下すこともなく、壇上の彼女に目を奪われている。
そう。きらびやかなドレスを纏ったホムンクルスのエルフィリア。
その彼女が立ち上がり、シェインの名を呼んだのだ!
「エルフィリア、待ちかねたぞ! あの日からずっと!」
シェインはもう俺なんか無視して、エルフィリアの元へ駆けあがる。
「あっ!」
そうか……そういうことか!
俺は彼女の指を見て、すべてのカラクリを理解した。
そこには、前にエルフィリアが教えてくれた指輪がはめてあったのだ。
未来の自分の姿になれるという、魔道具の指輪が!
つまり、あれはエルフィリア本人!
指輪で大人の姿になったエルフィリアが、ドレスを着て人形のフリをしているのだ!
まったく。なんてことを考えるんだよ、兄貴は!!!
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