27話 吸血鬼勇者
「エルフィリア、僕だ! ジョイスロウだ!! エルフィリア‼」
壇上の彼女に向かい駆け上るジョイスロウ殿下。
だが、彼女の前に影のように黒いローブを纏った男があらわれた。
「まずい、避けろジョイ!!」
「ぐわああ!!!」
ジョイスロウ殿下は謎の力に吹き飛ばされ壇の下へ転げ落ちた。
―――「困るな、人の娘に勝手に近づかれては」
それはまるで人形を思わせるような、生命を感じさせない不気味な青年だった。
だが、なぜか彼には片腕がない。
彼は愛しそうに”エルフィリア”の肩に残った一本の手を置く。
「娘? エルフィリアがお前の娘だと⁉」
「ああ。この娘は不幸なことにこの山で命を絶ったそうなのでな。その死を悲しむ友のたっての願いで、私がよみがえらせたのだよ。まだ蘇生は不完全で、意思はないがな」
いったいどゆこと????
”蘇生”って、本人が生きてても出来るもんなの?
「なるほど。そういうことですか」
と、一番ややこしい立場の本物エルフィリアは納得している。
「あれはホムンクルスです。つまり”友”とやらの願いで、わたしの生きた人形を作ったということです」
「あ、あれは人形!? しかし、あの男は何者なんだ?」
「あれが目標のリッチですよ。そして悪趣味な人形のおかげで、”吸血鬼”の正体もわかってしまいました。勇者でありながらアンデッドの手先に成り下がるとは、情けない」
「あ、あれがリッチ? あれってドクロのイメージがあったけど」
「それは齢を経て肉体が朽ちていったリッチですね。ですがあれは生前の肉体をほぼ維持しています。それだけでなく人間時の思考能力も維持しているようです」
そして明確な”標的”があらわれたことにより、【緑の大樹】も動き出す。
「ジョイ、いったん戻れ! みんな、あれが目標のリッチだ! 戦闘態勢Aー2!」
アークライトの号令により、彼らはそれぞれの武器を携え、壇上の青年リッチを半包囲で構える。
「フム、君たちは下の下種な狼どもをたおしてきたようだね。けっこうけっこう。下僕にするにはちょうど良い」
余裕だな。
Aランクパーティーの武器や防具は恐ろしいほど洗練されたものだし、技量も並みじゃない。
彼らに狙われた魔物は、確実に仕留められるのに。
だが、アークライトはまだ攻撃命令を出さない。
「ウサウサ、吸血鬼を探してくれ。どこかにいるはずだ」
「さっきから探しているけど、気配がまるでつかめないよ。この室内全体が嫌な雰囲気がおおっているみたいで」
「ならばみんなも探してくれ! ぼくが光量を上げる!」
じつはこの室内は窓がないせいで薄暗く、持ってきた魔導ランタンだけでは室内がよく見えない。
アークライトは自身の光魔法で全身を大きく光らせ、室内の隅々まで大きく照らした。
「フッフッフわが友を探しているのか? では紹介といこう。シェイン、歓迎しろ」
ピクン
ウサウサの耳がはじかれたように立った。
瞬間、アークライトを思いっきり蹴飛ばした。
「あぶないアークライト!」
ドゴォオオン
その軌道上をものすごく速い何かが襲い、床に穴を開けた。
「やはり……『ヤバイ強さの吸血鬼』とは、あの男でしたのね」
ユラリ立ち上がったその男。
それはかつて俺ら【疾風の仕事屋】の雇い主であった勇者。
傲慢そうなその顔はそのままだが、赤い目と口元から見える牙がかつての奴でないことを物語る。
【シェイン・サザンクロス】
あいつ、あのリッチの僕の吸血鬼になっていたのか!
「ほう、良い感知をしているなウサギ耳。仕留めそこなったのは初めて……いや、下民を殺し損ねて愛しの彼女をしなせたこともあったな」
「こんなに接近してたなんて! 守り切れないなんて、こんなことは初めてだ!」
そう。あのウサウサの神速の反応すら、わずかに間に合わなかったのだ。
アークライトはどこかをケガしたのか、苦しそうに地面に伏したまま。
その地面には血がにじんでいる。
「グフッ、みんな……攻撃……しろ」
「アークライト、あんたケガを!」
「大丈夫なのか⁉ ひどく悪そうだぞ!」
「かまうな……ガフッ。自分で治癒できる……それより…攻撃だ……後手になればヤバイ……!」
さすがAランクパーティー。
アークライトを背後にかばい、当面の敵を見据えて戦闘態勢をとる。
「おい、いつものようにやるぞ! ジョーンズ、まずはお前からだ!」
「おおっ、おれの大剣をくらえッ」
ジョーンズはパーティーのタンク。
その鉄塊のような巨大な剣が振り下ろされる。
さらに彼を起点として【緑の大樹】が波状攻撃をしかける。
だが……
「獄殺剣!!」
シェインは一瞬でジョーンズの両腕を切り落とす。
さらに矢、投擲、剣の薙ぎ払いなどの同時攻撃すら、剣一本でさばき切ったのだ!
「ア……アガガ……」
ドサッ……
「歓迎に大杯でくれるのか? ありがたくいただこう」
シェインは自分に倒れ込んだジョーンズの首筋に牙を突き立てる。
そして猛烈な勢いで地をすすり上げる!
「ぎゃああああああああ!!!」
「ジ、ジョーンズ!!!」
みるみるジョーンズの体はミイラになっていく。
「クククまずまずの味だ。ほぉら返杯だ。返すぞ!」
ブン!
シェインは、ミイラになったジョーンズを【緑の大樹】の方へ無造作に放り投げる。
それが弓士の体にあたると、彼の体はメチャクチャに潰された。
「うわーーッ!!!」
だ、だめだ!
Aランクパーティーすら、吸血鬼となった勇者には通用しない!
可能性があるとすれば、同じ勇者。
S級戦闘スキルをもつジョイスロウ殿下だけだ!
「おや、そこにいるのはジョイスロウ殿下。ここに来ていたのですか。おおかたエルフィリアの未練を断ち切れずに、といったところでしょうが。よかったですな。まだ肉体だけとはいえ、愛しの君を見ることができて」
殿下は立ち上がると、剣をシェインに向ける。
「シェイン……きさま! 国王陛下から名誉ある【勇者】の称号を与えられ、崇高な使命の『魔王討伐』の任をおった身でありながらリッチの手先になるなど! 恥をしれ!!」
「ファハハハハくだらんなぁ”勇者”だの使命だの。そのリッチの【カズス様】は間もなく、その魔王の力を手に入れる。オレはその元で、復活したエルフィリアと永遠に添い遂げるのだ!」
「なん……だと! きさま、本気で人類の敵になったのか。許せん!!」
「フッフッフ。あの時の”雪辱戦”といったところですか。しかし、あなた如きではオレのスキルは見切れません。また同じ地獄におとしてさしあげましょう」
二人は同時に相手へと駆ける。
――「【七星崩剣】!」
――「【吸血鬼獄殺剣】!」
ドッガアアアアアン
吹き飛ばされたのはジョイスロウ殿下のみ。
シェインは余裕で何一つダメージを受けず立っている。
反してジョイスロウ殿下は虫の息だ。
「ガ……ガハッ……」
「ファハハハハまだ生きておられるのですか。これは素晴らしい! 人間というのはどいつもこいつも枯れ木のように貧弱で、手ごたえある遊び相手が欲しかったところです!」
ダ、ダメだ!
シェインは吸血鬼の圧倒的パワーに加え、S級戦闘スキル持ち!
あんなチート野郎、どうにもできない!!
俺たち、全滅だああああああああ!!!!
次回でやっと主人公を動かせます。
シーザは一番格下なんで、上の人達が消えてくれないと動かせないんですよ。
なんか絶望してるっぽいけど、活躍させます!
というわけで、ブクマ・乾燥ください。




