26話 リッチの館でつかまえて
「お前たちだったのか。まさか本物にされていたとはな」
アークライトの驚きの声がきこえる。
俺たちが館の中に入ると、【緑の大樹】と5匹の狼……いや、狼獣人たちが対峙していた。
あんまり速かったので、本物の狼に見えたのだ。
「ああ。クソッタレな話だが、秒でやられて、改造されて、奴の下僕にされちまった。まったく、ざまぁねぇぜ」
先頭の狼獣人の声はムスターファのもの。
つまりこの狼獣人たちは、【餓狼の顎】の連中が改造された姿ということか。
「で、下された命令が『この館を侵そうとする者どもを撃退せよ』だ。オレたちは主の命令に逆らえねぇ。悪いが命もらうぜ」
狼獣人らは四つ足になって姿勢を低く構える。
戦闘態勢だ。
もちろん、【緑の大樹】も迎え撃とうと構える。
俺たちも手を貸そうとするが。
「【駆ける疾風】の皆。手は出さないでくれ。奴らとはそれなりに因縁がある。せめて同郷のよしみで、ぼくらで終わらせてやる」
ということなので、俺らは助け出されたダイサックの手当と治療をしながら、それを見守ることにした。
「いくぜ、皆殺しだ!!」
「フォーメーションBー3! 迎撃態勢維持。一体ずつ確実に倒せ!」
メディスン街を代表する二つのパーティーが激突した――
「弱いな。バケモノになったお前たちは」
アークライトは、倒れ伏したムスターファを見下ろしながら言った。
その周りには他の狼獣人の死体が転がっている。
【緑の大樹】の完勝だ。
スピードもパワーも狼獣人になった餓狼の方が上。
それでも最後に勝っていたのは【緑の大樹】の方だった。
「ああ。勝利の執念ってやつが、まるで湧いてこねぇ。首輪をつけられた狼なんざ、こんなモンだ」
「しかしお前たち全員が、こうもアッサリと敵の手におちてしまうとはな。このリッチはそんなに手ごわかったのか?」
「いいや。オレたちをこんな姿にしたのはリッチだがよ。やられた相手はそいつじゃねぇ。たった一匹の【吸血鬼】だ」
「吸血鬼……リッチの使い魔か?」
「タダの吸血鬼じゃなかったぜ。とんでもねぇ強さのバケモンで、オレら手も足も出なかった。やり合うなら、リッチよりそいつに気をつけろ」
ピシッ
いきなりムスターファの体にヒビがはいった。
そして、その亀裂は全身に広がってゆく。
「ムスターファ。お前、体が崩れてきているぞ。情報をぼく達にしゃべったからか?」
”使い魔の縛り”ってやつか。
主を裏切った使い魔に存在は許されない。
「だな。ま、ヤツラの下僕になって生きる気なんざねぇ。それでいい。もう死んでいいか?」
「あと一つ教えてくれ。二階にいるのはリッチとその吸血鬼。それだけか?」
「いいや、あと一人。人か魔物かわからねぇが、やけにマブな女がいるぜ。しゃべったり動いたりするのを見てはいねぇがよ。ヤツら、その女をやけに大事にしてるぜ」
「女? リッチと吸血鬼が?」
――「まさか⁉」
いきなり大声を出したジョイスロウ殿下にみんな注目する。
「どうしたんだジョイ。何か心当たりが?」
「……いや、何でもない。だだ……僕の知っている女性かもと思ってね」
違います。
その女性は、クエストの初めからチョコチョコついて来ています。
いまはダイサックの手当とかしています。
「……ハッ。そろそろだな。最後だ。言っといてやる」
ムスターファの体はほぼ灰になっており、残った首だけの状態でしゃべっている。
「引き返せ。二階にはいくな。オレたちを瞬殺さえ出来なかったテメェらに勝ち目は……」
ムスターファは完全に灰になった。
【緑の大樹】の皆は、その消滅を悼んでいるようにも見えた。
「……最後の言葉がぼくらへの忠告とはな。お前らしくもない。だが、聞くわけにはいかない。Aランクパーティーには、それなりの立場と役目があるんだよ」
さて、本命のリッチは二階にいることで間違いないようだ。
俺達はみな気を引き締め、戦闘態勢をとって死地に向かう。
中央にある大きな階段をゆっくりと上り二階へ。
前衛は【緑の大樹】で、階上についたら敵位置の確認と戦闘陣形の構築。
それを追う後衛の俺たち【駆ける疾風】は、アークライトの指示に従い支援と援護だ。
先頭はもちろん斥候のウサウサだ。
「ウサウサ、まずは吸血鬼を最優先に捕捉だ。そいつが一番危険なようだ。”マブな女”とやらに気をとられるんじゃないぞ」
「わかってるって。その子は、リッチと吸血鬼を倒したあとのお持ち帰りまで楽しみにとっときまーす」
「……それもナシだ」
作戦通り俺達は少し離れて彼らを追う。
先頭のジョイスロウ殿下より少し離れて、俺とエルフィリアは続く。
「シ-ザ、なんだか嫌な予感がします。なぜかリッチや吸血鬼より”謎の女”というのがひどく気になるのです」
「ふーん? 一流の冒険者というのは勘もするどいって聞くしな。もしかして、そいつは君の知り合いかもな」
「『わたしの知っている女性』ということですか。わたしは貴族淑女のしきたりには馴染めなかったもので、親しい方などいないはずですが。仲が良かったのは、もっぱら男性だったので”ふしだら”などと陰口をたたかれていました」
中身が”兄貴”だと思うと同情してしまう。
どこまでもフリーダムな男だったから、淑女の世界とか、いられなかったんだろうな。
やがて【緑の大樹】は二階へと到達した。
「わっ、きれいなひと。どこかのお姫様?」
「あれがムスターファの言っていた”女”か。やけにきれいな女だが、いったい誰だ」
「いや、それより標的を探せ! 彼女に気をとられて不意打ちをくらうな」
俺らも続いて二階に上がる。
そして、その女性を見た。
それは――
「ええええっ⁉ そんなバカな!!!」
「うそっ、あれは何なのです!!!」
それはたしかにエルフィリアの知っている……いや、俺すら知っていた女性だった。
それも衝撃的なほどに、予想外の人物!
「エル……フィリア。生きて……いたのか!」
涙まで流したジョイスロウ殿下が呟いた通り。
その二階の最奥に数段高くしつらえた壇上の舞台。
そこに、きらびやかなドレスと宝飾品を纏った彼女が椅子に座っていたのだ。
大人バージョンの”エルフィリア”が!!!
「エルフィリアー! 僕だ、ジョイスロウだ!!」
ジョイスロウ殿下は壇上のエルフィリア(?)に向かって駆けだした。
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