25話 館とゴーレム
俺達も【餓狼の顎】に遅れればせながら館にたどり着いた。
窓のない館はその不気味な威容をたたえ、俺達の前にそびえ立つ。
そしてその入口に向かって、大勢の人間が踏み込んだ新しい足跡が残っている。
「餓狼の連中は迷わず突入しているな。それにしちゃ中は静かだ」
「あいつらの戦闘スタイルは速攻ラッシュ。ムスターファの風魔法で速度を大きく上げ、狼の狩りのように獲物を襲って倒すんだ。もっとも今回ばかりは、それが通用するとは思えないけどね」
つまり、すでに秒で倒されていると。
「奴らのパーティー名は戦闘スタイルから来たものだったのか。で、アークライトさん。こっちはどうします?」
『人を喰らう館』
そんな不気味な雰囲気があって、足を踏み入れるのはかなり勇気がいる。
俺の問いに、アークライトさんは明るくなった空を見上げて言った。
「むろん、無策で突入したりなどしない。中も当然、聖属性の力を弱める力がはたらいているだろう。だが君のおかげでここには太陽が差している。ならばリッチには、たっぷり日光浴をしてもらおう。ダイサック、出番だ」
小柄で子供のようなパーティーメンバーの土魔法士を呼んだ。
「分かりましたアークライトさん。館に穴を開けるんですね?」
土魔法士は地面に魔方陣を描いて、呪文を唱える。
するとその場所に土が集まって人の形を成し、巨人の人形となった。
「これは……ゴーレム? 初めて見た」
「いけっ”ジャイアントコボ”! 館をぶっ壊せ!!」
――「グオオオオン!」
おおっ⁉ 返事までするのか‼
ゴーレムは「ズシンズシン」と館へ向かって歩くと、巨腕をふりあげ館を殴りつける。
ドッゴン ドッゴン ドッゴン
なにいッ⁉ ゴーレムが十発二十発と殴っても館が壊れる様子はない?
なんて頑丈なんだ!!
「そ、そんな! コボが殴っても何ともないなんて!」
「ダイサック、そのまま殴り続けろ。どうやら館には物理耐性の魔法がかかっている。しかし、いつまでも保つもんじゃない。限界は来る」
「わ、わかりましたアークライトさん。 負けるなコボ! 館が壊れるまで殴るんだ!」
――「グオオオン!」
ゴーレムが再び再び館を殴ろう腕を振り上げたとしたときだ。
―――バタンッ
いきなり館の扉が開き、ものすごく速い黒い何かが飛び出した。
「狼⁉ ロングウルフか⁉」
それは人間ほどもある狼。
されど前に見たロングウルフよりはるかに速い。
「うっ、うわああああああ!!!!」
「ダイサック⁉」
狼は一直線にダイサックへ向かうと、彼の腕にかじりつき、引きずって再び館へ戻った。
館の扉は自動で「バタンッ」と閉じられ、俺達は茫然とそれを見送った。
術者の主がいなくなったゴーレムはグズグズと崩れ、土の塊になってしまった。
「だ、ダイサック! まずい! 助けるぞ!」
アークライトは慌てて叫び、危険な館の中へ飛び込もうとする。
「待て! まずは僕にまかせてくれ!」
それを制し、彼より先に飛び出したのはジョイスロウ殿下。
「ふん!【七星崩剣】!!」
彼は剣を抜くと、扉に向かい一閃して振り下ろした。
バッガアアアアン
扉は粉々に壊れ、そこから中が大きく見える。
さらに二閃三閃と繰り出し、館の正面前を破壊していく。
「バカな……ゴーレムがあれだけ殴ってもビクともしなかった館が? あれはA級戦闘スキル? いやまさかS級⁉」
ああっヤバイ! 殿下の正体がああああ!!
「アークライトさん、これで当初の予定通りです。急ぎましょう」
ああもう! 自分がまずい方向で目立ちまくっている自覚すらない!!
「あ、ああ。ジョイといったね。君のスキルはもしやS級……」
ヤバイ!
俺は割り込んで注意を別方向へ向けさせる。
「アークライトさん、それよりそっちの仲間が危険です! 早く突入を!」
「……そうだな。まずはダイサックを助ける。ジョイ、その話はまたあとで!」
後でするのかよ。
「マズひ……。実は王子で勇者だったけど、女を追って、使命を放り出して来ていることがバレたら、どうしよう?」
俺は横のエルフィリアに困った視線を向けた。
「そうですね。高スキルを授かった貴族の息子が、お家騒動で放逐されたことにでもしましょうか。大丈夫。わたし自身のこじつけストーリーより、ずっと納得できる話を考えられますよ」
「つまり、自分の方は大丈夫じゃないと」
棚上げしている問題を思い出しちまった。
よけい不安になったよ!
「あははっ。もし大丈夫じゃなかったら、やることは一つですね」
「と言うと?」
「逃げるんですのよ! リッチとの戦いの間に、逃走ルートを考えましょう!!」
「わあ~ッ! なんだこの聖女ーッ!!」
くそっ。『勇者と聖女をメンバーにしたパーティー』のリーダーとか、考えてみれば夢みたいな立場だってのに、本当になってみたら不安だらけだな。
すでにジョイスロウ殿下を先頭に【緑の大樹】は館へ突入している。
それに続き、遅れて俺達も館に突入した。
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