23話 迷いの森の霧【アークライト視点】
アカラチア山に登って数時間。
この山は薬草や素材等の狩場になっているため、山道はそれなりに整備されている。
ひたすら上っていき、やがて中腹のなだらかな丘陵にたどり着いた。
そこで斥候に出したウサウサが戻ってきた。
「ここはみんな野営をとる場所だね。あっちの方に勇者パーティーの野営の跡があったよ。餓狼の連中が荒らした後だったけど」
「急いでても手癖の悪さだけは健在だな。で、ウサウサ。後ろの”疾風”はどうだ。どうせついでに見てきたんだろう?」
「あっはは、お見通しか。不安だったリンちゃんもちゃんと歩いて付いてきているよ。テクテク歩く姿も可愛いかったよ」
「まったく。報告に余計な感想をいれるな」
ここまでは魔物の襲撃もなく、予定よりだいぶ早めに着いたので上々か。
ぼくは【緑の大樹】のメンバーを集めた。
「ここが危険地域での最後の安全地帯だ。ここで休憩をとる。この先は深い霧に覆われた森になっており、当然、屍生人や霊体系魔物が出現するだろう。そしてその先に目的のリッチはいる。戦闘は万全に行えるよう、体と装備を整えるように」
ウサウサはさっさと【駆ける疾風】の方へ、愛しの幼女に会いに行ってしまった。
思えばおかしなパーティーだ。
明らかに、おそらく貴族筋の上流の者二人が、庶民で若輩のリーダーに率いられているのだから。
◇ ◇ ◇
短時間で休憩を終え、霧の森へと踏み込んだ。
それから小一時間ほどは歩いているが、なんの異変も起きていない。
気負ってきたメンバーも、じれてきている。
「なんだ、気負ってきたのに、屍生人なんてまったく出ないじゃないか」
「どうやら街を襲ったのが全員だったらしいな。しかし、となるとリッチを探すのが大変だな。屍生人の群がっている場所を目指すつもりだったが」
「しっかし、こうも霧ばかりの風景が続くのはいただけねぇな。夜になる前に決着つけられるのかねぇ?」
――この霧は不味い。みんなが思っている以上に。
魔術師の感覚で、この霧が自然に発生したものでないことが分かる。
ぼくは口笛でウサウサを呼んだ。
「ウサウサ、何かリッチの手がかりになるような物は見えたか?」
「ダメ。上も霧がひどすぎて一寸先も見えないよ。なぜか音の通りも悪くて、こっちの足音すらよく聞こえなくなっているし」
「やはりこれは問題のリッチが起こしているものだ。このままではリッチにたどり着けないばかりか、帰ることもできず死ぬまで森をさ迷うことになるだろうな」
「なッ、ヤバイじゃん! ……待って。前方から複数の足音が!」
異変か。しかし歓迎だ。
悪いことであろうと、何かしらの変化が欲しかった所だ。
全員が警戒態勢のまま止まり、それを待ち受けた。
そしてその集団が見えたとき、少なからず驚いた。
「餓狼か⁉ どうした、撤退か?」
それはかなり前に先行してこの森に入ったはずの【餓狼の顎】。
それがこちらと同じように警戒態勢で反対方向から来たのだ。
「てめぇら、どうして前から……そうか、クソッ」
「前? そうか、君たちは森を真っすぐ進んでいるつもりだった。しかし、いつの間にか逆方向へ進んでおり、ぼく達とはち合わせてしまった、ということか」
ムスターファの話によると、彼らは強行軍で森を突き進んでいったらしい。
だが、森を行けども行けどもリッチはおろか、魔物一匹すら見ることは出来なかったそうだ。
「なるほど、君が先行してくれて助かった。このまま歩いても、無駄な体力を使うだけだということが分かったからね」
「舐めてんのかテメェ!」
「おいおい、君が自分で買って出たことだろう。それより君の風魔法は使ったのか? 当然、この霧を吹き飛ばすことは考えたと思うが」
「ハッ! 何度飛ばそうが、すぐに元に戻っちまう。こりゃアンデッド野郎の仕業に違いなねぇ! 腐ったクソ脳のくせに、やることが小賢しいんだよ!」
「やはり魔法の霧か……。現状の打開には、ぼくの光魔法を使うしかないようだな。【浄化】でここらの霧を消滅させ、道を発見しながら進む。ウサウサ、上から見ててくれ」
「了~解!」
ウサウサがまた木の上に飛び上がるのを確認するとワンドを掲げ、周囲に浄化をかけて霧の消滅をはかる。
しかし、ほぼ最高出力で浄化を放ったにも関わらず、霧はほんの2,3メートルほどしか消すことは出来なかった。
「なにっ? 威力が低い⁉」
「オイオイ、しょっぺェなぁ。なんだ期待させやがって」
「……そうか。どうやらここら一体、【浄化】の力が弱まってしまう術式がかけられているようだ。【浄化】はアンデッドの天敵。このリッチなら、そういった対抗策をとっていてもおかしくない、か」
「なんだと! だったら、本当に手詰まりだぞ!」
「もうこの森から出られないのか⁉」
どちらのメンバーも騒ぎ出す。
不味いな。
気休めでも対抗策を出さなければ、パーティーが崩壊してしまう。
「仕方ない。それでも周囲2,3メートルの霧は消すことができる。それで道を探しながら進むしかあるまい。”駆ける疾風”のリンも読んでくれ。彼女も”浄化”を使えるそうだし、力を貸してもらおう」
――「わたしなら、ここにいますよ」
いつの間にかぼくの側に、目当ての娘がいた。
背が小さいので、視界に入れることが出来なかったようだ。
「リン、来ていたのか。どうした。やはり不安で、どうするのか聞きにきたのか?」
「リンちゃん、可哀そうに! 抱きしめてあげるから落ち着いてね!」
「ドサッ」と、上から余計なものが降ってきた。
「ウサウサさんが落ち着いてください。わたしは1ミリも動揺してません。それよりアークライトさん。シーザから伝言です」
「なんだ、この霧を何とかする方法か?」
「そうです。今からシーザがこの霧を消します。皆さんはしばらく動かないで待っていてください」
――—!!?
ドヨドヨッ
「彼が……できるのか? この霧を消すことが」
「いい加減うたうのも大概にしやがれ! あの雑魚が、このうっとおしい霧をどうにかするだと?」
餓狼らのもの凄いけんまくにも、彼女は平然ととしている。
これだけでこの娘がただ者でないことがわかる。
しかし感想としては、ぼくも餓狼の連中に近い。
ぼくら二つの高レベルパーティーが翻弄されているこの霧を、あの頼りない彼が何とかできるものなのか?
「疑っていますか。でも、わたし達の中で、街を襲撃した屍生人を一番倒したのはシーザなんですよ」
「「「なんだと⁉」」」
「まぁ見ててください。今からシーザのスキルをお見せいたしましょう」
リンはエルフィリアの偽名です。
書いていたら作者本人でも忘れそうになるんですよね。
それはともかく、ブクマ・高評価ください。




