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21話 リーダーはつらいよ

 さて、アカラチア山リッチ攻略の前日。

 街を救った報奨金やクエストの前金でかなり金銭に余裕ができたので、それなりの装備を買うことができた。

 ジョイスロウ殿下は大剣にフルアーマーの鎧。

 ついでにフルフェイスの兜なので、自然に顔を隠せる。


 エルフィリアはこれまたスッポリ体を隠せる防御力の高いローブにワンド。

 ついでに声を変えられるオモチャの魔石を狩ったので、これでジョイスロウ殿下にも遠慮なく話すことができる。


 そして俺は、武器をナイフ主体のものに変えた。

 ナイフをいくつも挟める革ベルトに、石けんやら洗剤を入れるポケットの多い革ジャケット。

 防御力は多少低いが、前衛には出ない予定なので、スキルの使いやすさと身軽さを優先した。

 一通りの準備が終わった頃、エルフィリアが聞いてきた。


 「シーザ。あなたは討伐クエストに参加したことはありますか?」


 「いちおう狼やゴブリンなんかはある。けど、ほとんど野営の準備に使われていて、本格的に魔物(モンスター)を狩ったのは、崖下の狼が初めてだな」


 「料理スキルのせいで後方に置かれてしまいますね。今回のクエストは、あなたのレベルより遙か上のものです。殿下の後ろの定位置を護り、決して前には出ないように。後ろから敵の魔力を解除するのがリーザの仕事です」


 「ああ。強力なスキルを得たからって油断はしないぜ。いまは生き残ることが、俺の冒険だ」


 「それと協力(レイド)バトルは、他のパーティにも気をつけなければなりません。冒険者という職業柄、危ない人間は必ずいますから」


 そうなんだよな。

 そういった奴らに侮られたり争いごとをふっかけられたりしないよう、毅然としているのもリーダーの務め。

 俺みたいな下っ端そのものの田舎冒険者が、Aランク、Bランクなんて高レベルパーティと渡り合えるのかな?

 俺自身の冒険者ランクはDだし。

 とはいえ、やるしかないんだけどね。


 ◇ ◇ ◇


 そしてクエスト当日。

 俺たちは集合場所の南大門の前で、協力(レイド)する二つのパーティーと顔合わせをした。


 Aランクパーティー【緑の大樹】。

 この街の顔役パーティーであり、総勢6名。

 メンバーは全員B級以上のスキル持ち。

 みな正統派のスゴ腕冒険者たちで、この街では英雄のように慕われているそうだ。

 そしてリーダーの【アークライト】は、若いながら貫禄ある青年。

 A級スキル【光魔法】を得ている熟練の魔法師。


 Bランクパーティー【餓狼の顎】。

 実力はAランク相当でありながら、クエスト時のトラブルや普段の素行でポイントを減らされ、Bランクにとどまっているそうだ。

 実際、彼らはみな武闘派チンピラみたいな奴らで、デカい声でしゃべりながら「ガハハ」と笑っている。

 リーダーは【ムスターファ】という男で、残虐でケンカっぱやいと噂。

 実際、ワルの親玉という感じの男だ。

 そしてA級スキル【風魔法】を得ている魔法師だそうだ。


 さて、リーダーとしての初仕事。他のパーティーに挨拶だ。

 まずは先に挨拶しとかないとうるさそうな【餓狼の顎】のムスターファ。


 「こんにちは。【駆ける疾風】です。本日はよろしくお願いいたします。こちらは出来たばかりのパーティーですので……」

 

 ヒュンッ

 一瞬、目の前にいたムスターファが消えた。 

 そして、いつの間にか俺の背後にまわられた。

 うわっ、ベタな”実力の差”を見せつけられちゃったよ!


 「遅ェ”疾風”だなぁオイ。”駆ける鈍足”に変えた方が良いんじゃねェの? いいアイデアだ。今すぐ変えろ」


 まわりの餓狼メンバーが、ゲラゲラ笑ってヤジを飛ばしてくる。

 うん、俺もちょっとパーティー名が恥ずかしくなったよ。

 無論、そんなことができるはずもないが。


 「そろそろ悪ふざけはやめてください。たしかに俺は未熟ですが……」


 「ザコがオレと対等の口きいてんなよ。あァ⁉」


 ムスターファは俺をおさえ、首筋にナイフを付けてきた⁉


 「なァ、ところでよ。オマエの妹、可愛いな。ちっと仕事紹介してェんだけどよ。なぁに、オマエにも悪いようにはしねぇって」


 コイツ! 彼女が俺の妹〈ということにしている〉ことを知っている⁉

 もしかして、さんざんエルフィリアを狙った子供誘拐(キッズナッツ)の仲間か?

 どこに斡旋するかは……想像つくな。


 そのとき、ムスターファのさらに後ろにまわりこんだジョイスロウ殿下。

 そのナイフを持っている腕を「ポン」と握って言った。


 「もう挨拶はいいだろう。【餓狼の顎】リーダーさん、シーザから離れてくれ」


 「ああ? さがってなデカブツ。オレにさわるな!」


 だが殿下は退かない

 つかんでいる腕に「ギュッ」と力を込める雰囲気が伝わる。


 「そのナイフを放せ。刃物を喉にあてての遊びなど、度がすぎるだろう」


 「(イテ)ェな。テメーこそ手を放しやがれ!」


 「恐い目だ。だが、その目で自分の腕を守れるかな。パーティーに回復手段はあるな? 今から君のこの腕を折る。それで悪ふざけを止めよう」


 「ふざけんな! おい、てめぇら!」


 【餓狼の顎】のメンバーが殿下を取り囲み、一斉に殺気を放つ。

 それでも殿下は動かず静かに言った。


 「言葉はこれで最後にしよう。『そのナイフを放せ』」


 ミシッ ミシッ


 「………ッ!」


 ムスターファの腕がきしむ。

 息が荒くなっていく。

 これは”折る”どころか”潰す”じゃないか?



 「双方、そこまでだ」


 と、アークライトが横合いから声を入れた。


 「それ以上悪ふざけが過ぎるようなら、ギルドへ報告せざるを得ない。出発前にポイントを減らされたくなければ、そこまでにしろ」


 「……フンッ。たしかに、こんなザコパーティーで、せっかくの高額クエストを台無しにされたくはねぇな」


 ムスターファはパッとナイフを放した。

 同時にジョイスロウ殿下もムスターファから手をはなす。


 ムスターファは去り際、俺に言った。


 「アンタのパーティーは一番のザコがリーダーをやってるらしいな。そっちのお嬢ちゃんも、怖がりもせず何かしようとしてたぜ」


 何もできず、ただ(なぶ)られていたのは俺だけか。

 餓狼の連中が去って一息つくと、ついエルフィリアに弱音を吐いてしまった。


 「何も……できなかった。エルフィリアが危ないってのに、体がすくんで動けなくて……」


 「仕方ありません。あれはまだシーザには早いですね。五日くらい?」


 「は、はぁぁ!? 五日後には俺はあのドキュンな連中とやり合えるようになるっての!? どんな高速成長!?」


 「帰ったらアイツとやり合うための特訓をしますね。シーザを強くするための、ちょうど良い狼さんです。あれくらい簡単にあしらうことが出来ねば、わたしは嫁にはできませんよ?」


 今さらだけど、本当に重すぎるお嫁さんだよな! エルフィリア!!


 

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