17話 洗濯の力
「すべてはガチャ神のお導きです。与えられた賜物に疑念をもつより、それを生かす道を探しなさい」
とか、ガチャ神殿の神官に誰彼にも言っているような説教で諭された。
けど、納得できるかっ!!
あのクラスの幻霊石使って得たのが【洗濯スキル】だなんて、どこまで俺は家事に愛されているんだよぉーーッ。
「ごめんエルフィリアぁ! もうこうなったら、『家政夫』になって仕えるしか一緒にいる方法なんてない!! ジョイスロウ殿下。あなたの借りも、ハートフルな家事で返すしかない!」
「…………そうですね。ですが、一度その能力を調べてみましょう」
「ハァ? 洗濯は洗濯だろう。いったいそれの何を調べるんだ?」
「わたしはスキルをかなり見てきていますが、+が二つ重なってついたスキルは初めて見ます。明日、その能力を調べてみるために石けんや洗剤を多めに買って帰りましょう」
どうしてエルフィリアはこんな冷静なのかね。
このままじゃ、俺が魔王討伐のクエストについて行くことなんて出来なくなりそうだってのに。
とにかく、殿下に頼まれていた剣と一緒に石けんと洗剤を買い込み、帰路についた。
「魔物の解体作業で、汚れた服はたまっていたし。ちょうど良いっちゃ、いいんだけどね」
「わたしのいま着ている服もお願いします。さっき馬車から跳ねた水がかかって、大きな染みが出来てしまいました」
「そうだな。最初にその服を洗ってみよう」
エルフィリアの服を見ると、それ以外の汚れなんかも、かなり良くわかるようになっている。
この目も【洗濯スキル】の効力だろう。
よし。明日になんてまわしたくない。
帰ったら徹底的に洗濯してやるか。
そう思って石けんを一つ握りしめると、それは起こった。
「うっ、うおお石けんがシャボンに!?」
「ええっ!? シャボンがこっちに!?」
俺の握りしめた石けんから無数のシャボンが吹き出し、エルフィリアにまとわりついた。
やがてそのシャボンがはじけて消えると、服も体も全身ピカピカに綺麗になったエルフィリアがそこにいた。
「すげぇ……一瞬で全身を洗っちまった。まるで魔法だ。これが【洗濯++】の能力か!」
凄いけど、ますます冒険者から遠ざかってしまった気がする。
本当に【スーパー家政夫】やった方が稼げるんじゃないか?
「………加護が……消えている?」
自分の服を調べていたエルフィリアが、不思議そうにつぶやいた。
「何か問題があったのか?」
「わたしは魔導具の指輪の力で大人になろうと、身体能力は8才のまま。あれは幻術だから当然ですね。それではとても勇者パーティーと旅などできないので、服や靴に【身体能力向上の加護】を付与していました。それは今着ている服も同様です」
ああ。たしかに一緒に行動してても、あまり重荷になったような記憶はないな。
「ですがいま、その【加護】が汚れと一緒に消えてしまいました。洗濯した程度では消えるはずのないものなのですが」
「そりゃ……悪かったな。あまりにこの【洗濯スキル】が凄すぎて、その加護も消しちまうらしい」
「………いえ。魔力や瘇気なども同様に消してしまえるのならば。もしかしたらそれは、魔王討伐のクエストにとって、とんでもない切り札になる可能性があります」
「あん?」
「予定は変更しましょう。明日、ジョイスロウ殿下に本当のことを話すのはやめて、一緒にアカラチア山に行くことにしましょう。そこでその【洗濯++】の能力を試すのです!」
「はぁ? せっかく明日、たまった汚物を一掃するモチベーションが上がったってのに」
「心まで家政夫になってどうするのです! あなたは魔王を討つ能力を手にしたのかもしれないのですよ! 冒険者ならクエストに出なさい!!」
そうだった!
世界最高の冒険者になってエルフィリアを嫁にすると誓ったのは、まだ今日のことだった。
「あ、じゃあ、これから宿に帰る前に冒険者ギルドへ行くか。シェインの『リッチ退治』がどうなったのか聞いておいた方がいいと思うし」
「そうですね。それによって山の状況が変わっているでしょうし」
帰路の道を変えて、冒険者ギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇
「よぉシーザ。どうした、こんな夜に。解体の仕事ならあさってだぜ」
宵の口の冒険者ギルド。
そう言って迎えたのは髭面で筋肉質のギルドマスター。
よくあるように、冒険者業だけじゃなくあらゆる業種へ人足の手配をしている。
「あ、いやそれはいいんだけどさ。『アカラチア山のリッチ退治』ってのがどうなったのか、どうしても気になったんですよ。勇者パーティーはまだ帰ってないんですか?」
「おお。そりゃ、ちょうど良かったな。今日、勇者様がどうなったのかウチの冒険者パーティーに見に行かせてな。それが帰ってきて、その話を聞くところだ。良かったら聞いてきな」
マスターが指刺した場所には帰還したばかり、といった出で立ちの冒険者達がいた。
その周りには話を聞こうと、人の輪ができている。
――何だ? あいつらの周り、なんだか空気が重い。
それにあのパーティー。不気味な感じだ。
「ねぇギルドマスター。ひとつ聞きたいのですが」
いきなり後ろのエルフィリアがギルドマスターに話しかけた。
めずらしいな。
あんまり人に話しかけたりはしないのに。
「おお、何だいお嬢ちゃん」
「どうして屍生人がギルドにいるのです?」
そう言って彼女が指刺した場所には、あの帰還した冒険者パーティーが!
「ハァ? おいおい、お嬢ちゃん。恐いこと言いなさんな。あいつらがゾンビだって? あいつら、おれらの質問にちゃんと受け答えだってしてるし、人間だぜ。なぁアダムス。お前ら、ゾンビなんかじゃねぇよなぁ?」
「………ああ。お嬢ちゃん……冗談が……すぎるぜ……」
「では、わたしがこのように近づいても囓ったりしないのですね? 『あったかい女の子の血を啜りたい』などと考えたりしないのですね?」
エルフィリアは「スタスタ」と不気味な冒険者パーティーに近寄る。
彼女のことだから大丈夫だろうけど、ちょっと恐い。
「……ああ。もちろん………」
「ユラリ」とアダムスと呼ばれた男は立ち上がり、「ガッ」とエルフィリアを捕まえる。
ヤベェ!
「してぇに決まってんだろォォォーーッ! 悪い娘の血液は全部吸ってやるゥーーッ!!」
「わたし、良い娘ですから吸えませんわよ。【浄化】!」
エルフィリアの全身から白い光があふれる。
そして彼女を掴んでいるゾンビの体は崩れていく。
「テ、テメェーッ。まさかこんな娘っこが浄化の使い手とは……」
「歪んだ生に縋る者、あがく者よ。死体に戻り、長い休息をとりなさい」
完全に奴の体が崩れ、肉の塊となると、他のゾンビはエルフィリアを警戒するように距離をとった。
完全にパニックになったギルドの人達の中、エルフィリアだけは冷静に俺に言った。
「シーザ。山に登るまでもなく、ちょうど良い相手がいましたわ。あなたの【洗濯++】をこいつらに喰らわせてみなさい」
「え? あれを……って、どう見てもおとなしく洗わせてくれそうにないんだけど?」
「奴らの体に付いている呪いを”汚れ”と認識しなさい。そして石けんを握り『洗いたい』と願うのです」
まるで”導きの女神”だね。
言われた通り石けんを両手に握り、奴らの”汚れ”を観る。
ああ。たしかに濃い邪悪な魔力が、奴らの全身を覆っている。
――あれを洗浄する! 洗ってピカピカにしてやる!
ゴボゴボ……
握った石けんから泡が立ち、無数のシャボン玉が生まれる。
それは意思を持ったようにゾンビどもへと流れていく。
「うっ、うおおっ、何だこりゃ!? コイツに触れると力が抜けていく!」
「ヤベェ! このままじゃ昇天しちまう! 逃げろォ!!」
――逃がさん! ピカピカ綺麗で清潔なゾンビにしてやる!
「うおおおおおおっ! 【シャボン・ウオッシャー】!!」
俺の手から生まれたシャボンはすべてのゾンビどもの体へとまとわりついた。
やがて屍生人共は、バタバタと倒れる。
そしてシャボンが消えたあとには、冒険者達の死体だけがそこに残った。
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