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16話 シーザとエルフィリア 兄弟の絆

 はからずもジョイスロウ殿下のおかげで、この【メディスン街】に滞在せざるを得なくなった俺達。

 この街の冒険者ギルドから食用魔物の解体の仕事をもらって、長期の滞在も見通しがついた頃。

 ある日、ジョイスロウ殿下が来て行った。


 「世話になった。シーザ、リンちゃん」


 「どっか行くのかいジョイ?」


 殿下はこう呼べと言ったので、そう呼んでいる。

 やはり彼も自分が王族とは知られたくはないようだった。


 「ああ。明日アカラチア山に登る。これは今まで世話になったことへの礼だ。受け取ってくれ」


 「ポン」と巨大な石のようなものを手渡してきた。


 「うおっ! これは幻霊石!? しかもデカい!?」


 「S級スキルを狙うためのものだ。グレードは最高級。盗賊に眠らされ身ぐるみはがされたときも、これだけは偶然見つからないでくれた」


 「い、いいのかよ! それって、アンタが使うためのものじゃないのか!?」


 「いいんだ。『新たなS級スキルを得て、奪われた彼女を取り戻す』なんて思っていたけどね。盗賊にすら不覚をとる僕じゃ、新たなスキルを得ても同じだ。彼女の言う通り、僕は未熟だったんだろう」


 「し、しかしこんな高価なブツを! 俺が世話して使った金額の10倍はあるぜ!!」


 「君達から受けた恩は、それ以上の価値があったよ。どうしても渡さずにはいられなかった。その代わりといっては何だが、剣を一本買ってくれないか? さすがにそれくらいはないと、一級魔物のいるあの山は難しい」


 「ど、どうしても行くのかい!? 『リッチ』なんて危険な魔物もいるってのに!」


 おまけにシェイン勇者パーティーもいる。

 そんな所にジョイスロウ殿下が行ったらどうなるか。

 殿下は眩しそうにアカラチア山を見上げた。


 「あの山にはね。彼女がいるんだ。僕の大好きな彼女がそこに」


 いねぇよ!

 『僕の大好きな彼女』は、今、俺の後ろだ!


 「僕はどうしても、もう一度彼女に会わなければ前に進めない。たとえあの時のように、またみじめな結果になるだけだとしても」


 「……わかった。明日昼まで待っててくれ。用意を請け負ってやる」


 俺とエルフィリア様は殿下から逃げるように、幻霊石をもってその場を離れた。



 ◇ ◇ ◇


 「どうしますエルフィリア様。ジョイスロウ殿下、本当に行っちゃいますよ」


 行っても、そこにエルフィリア様はいないのに。

 いるのはサイコパス勇者だけなのに。


 「……”エルフィリア様”ですか。わたしはどこまでも、あなたにとっては”貴族のお姫様”なのですね」


 はぁ? それ以外に何だってんだ?

 どうしたんだ。

 エルフィリア様は妙にさみしそうな雰囲気だ。

 

 「わたしね。あなたが生まれたとき、いつかこの子といっしょにクエストに行くんだと思っていました。兄弟で名をあげて世界最高の冒険者になるんだって、父と母にも【疾風の仕事屋】の仲間にも言ったものですよ」


 ――――あっ!

 最近すっかり忘れていたが、エルフィリア様の前世は俺の兄貴ジョゼフ。

 彼女は、俺のことをずっと弟だと思っていたのか!


 「夢ですね。わたしは、もう変わりすぎてしまったというのに。こんな良家子女では、あなたの兄になどなれるはずもないのに」


 うん。こんな女の子が俺の兄のつもりでいたなんて、ビックリだ。

 けど、そうか。

 俺が彼女を『エルフィリア様』と呼ぶたびに、じつは彼女は傷ついていたのか。


 俺達はしばらく、言葉を出さないまま見つめ合った。

 なんとなく、次の言葉が俺達の未来を決める予感がした。

 やがてエルフィリア様が口を開いた。


 「明日、大人の姿になって殿下に会います。そして殿下に勇者にもどってもらいましょう。わたしも聖女にもどって、殿下のパーティーに入ります」



 ――それがいいです。



 ………とは、言えなかった。

 もしかしたら、俺は兄貴に試されているのかもしれない。

 冒険者とは征く者。

 困難を理由にクエストに出ない者は、永遠にお宝は掴めやしない。

 だったら、俺の返事は……


 「『兄弟で世界最高の冒険者』ですか。たしかに夢ですね」


 「…………ええ」


 「兄ちゃん、一人だけで見てるだけじゃな」


 「え?」


 俺はあえて兄貴が生きていた頃に呼んでいた”兄ちゃん”と呼んだ。

 俺ははじめて、彼女を貴族令嬢【エルフィリア様】としてではない。

 俺の亡き兄【ジョゼフ】として話している。



 「でも、その夢を俺も見たなら。二人で目指したなら、きっと叶う。そうだろう、兄ちゃん」



 決断した。

 いいさ。こうなりゃ、どこまでも彼女と征こう。

 魔王とやり合うことも、重すぎる嫁をもつことだって。

 きっとそれは、俺達が兄弟で挑む最初のクエストだ。


 「いいのですか? わたしがこれから挑むクエストは”魔王討伐”ですよ。それにわたしは伯爵家令嬢。その家から、わたしを連れ出す覚悟はありますか?」


 「そりゃ俺みたいな底辺冒険者じゃ、重すぎるクエストだな。一流冒険者の相棒でもいないと無理だ。兄ちゃん、頼りにしている」


 そう言うと、彼女ははにかみながら照れくさそうに笑った。

 ああ、思い出した。

 そういや兄貴は、俺に呼ばれるたびに、こんな表情で笑ってたっけ。

 前世、けっこうな(ブラ)コンだったんだな。いや、今もか。


 「わかりました。ついてきなさい。でも、もうわたしを”エルフィリア様”と呼ぶのは禁止です。『相棒』にそんな呼び方はありませんから」


 「わかった、エルフィリア。俺もきっと一流冒険者になって、兄ちゃんを嫁にして、俺の家の娘にしてやる」


 …………アタマおかしいセリフだな。

 いったい俺は何を宣言してるんだ。

 いやしかし目標を言葉にすると、こうなっちゃうんだよな。

 しかしこんな奇天烈なセリフも、エルフィリアは嬉しそうだ。


 「シーザを一流冒険者にするには、まずはスキルですね。ジョイスロウ殿下からいただいた幻霊石。それを使ってS級スキルをゲットなさい」


 「ええ? あれって、使っちゃっていいんですか……あ、いや、いいのかな? アレって、なんか王侯貴族御用品って感じで、俺が使うのはためらわれるんだけど」


 「そう思うのなら、借りにして後でスキルでジョイスロウ殿下に仕事で返せばよろしいでしょう。きっとアレは、今シーザがパワーアップ覚醒するために巡ってきたもの。そう思っておきましょう」


 そうだな。

 まずは、俺自身が何かできるようにならなきゃ始まらない。

 ジョイスロウ殿下。ありがたく使わせてもらいます。

 アレできっとS級スキルをゲットして、恩返しいたします!

 

 そんなわけで、俺はこの街にあるガチャ神殿へと行った。

 神殿への献金も、エルフィリアがパーティーを抜ける際にを持ち出した資金の一部を使って何とかなった。

 そしてその日の夕方に儀式を受け、俺は新たなスキルを授かった。

 新たなスキルの名は――



 C級スキル:洗濯++(ダブルプラス)



 「どうして、あのクラスの幻霊石で【C級】なんだよぉぉ!!!」


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