13話 聖女と勇者二人【エルフィリア回想】
エルフィリア視点
半年前 王宮庭園
おれ、エルフィリア。
ガチャ神の呪い付き転生のおかげで、言葉遣いも物腰も優雅な女になっちまったが、中身はまぁこんなもんだ。
前世憧れのS級スキルゲットの代償がこれじゃ、悲しすぎるぜ。
そして憂いのおれの隣には、勇者になった王子様。
「エルフィリア、不安かい。魔王討伐の旅は」
彼は第四王子ジョイスロウ殿下。
出会った頃は本当にガキだったのに、急速に大人になってカッコ良くなりやがった。
おれもこんな男に生まれて勇者やりたかったぜ。
「ええ。不安でないとは強がれません」
実は8才だからね。
親父も、こんな魔導具まで寄越してよく行かせるよ、と指輪を見た。
これは未来の自分にしてくれる魔導具で、王宮で紹介されてから外したことはない。
「だが安心してくれ。一緒に旅に来てくれるパーティーメンバーは皆、魔物討伐の専門家。みんなやる気満々で、君に一匹たりとも近づけるようなことはない」
ま、たしかに良いメンバーだ。
他二つと比べたら戦闘力では多少劣るが、総合力ならトップだと思う。
たしかに強さも重要な資質だが、他二つはそれ以外が酷すぎる。
「なによりエルフィリア。君は僕が必ず守る!」
「あ、それは考えないでください。まずは魔物との戦い方を覚え、自分が死なないことを優先してください」
S級スキルを得たとはいえ、魔物との戦いは素人。
物語の勇者のマネなんかしたら危うい。
「……エルフィリア。僕に守ってほしくないと言うのか?」
「ええ。殿下はまだそれを言ってはいけません。【勇者の試練】は魔物との戦い方を覚えるためのもの。その本分をまっとうして下さい」
そう言ったら、殿下はひどく傷ついた顔をした。
しかし技術がまだまだ危ういのに、そんなことをされても困る。
愛の告白なら良いが、クエストでは自分の腕に見合った役割を果たすべきだ。
魔王討伐クエストの出発準備の合間。
いまこの庭園は、殿下の申しつけでおれたち二人っきりのはずだった。
だが、そこにあの男が現れた。
殿下の申しつけなど無視して、ズカズカ踏み入ってきた。
「フッフッフ魔王を討つ力こそ正義。魔王出現とは、いい時代になったものですな。魔王を倒せる力を持つ者は身分を越えて望みを口にできる」
奴はシェイン・サザンクロス。
サザンクロス侯爵家の次期当主だ。
次期当主にもかかわらずS級スキルを得て勇者になり、魔王討伐に出る狂った奴だ。
「シェイン! 貴様、何を言っている! 言うに事欠いて魔王が生まれたことを『いい時代』などとは!」
「これは失礼、ジョイスロウ殿下。さて、このシェイン・サザンクロス。今日は【勇者】として、たってのお願いにまいりました」
「なんだ。勇者としての願いならば聞かぬわけにはいかない。言ってみろ!」
「私、ジョイスロウ殿下と勇者としての力比べをしとうございます。そして私が勝ったなら、聖女エルフィリアを我がパーティーに加えることをお許し願います」
「な、なにを言う! エルフィリアは僕のパーティーの大事なメンバーだ! それをよこせなどとは、要求が過ぎるぞ!」
「エルフィリア様は聖女として最高の法力をお持ちのお方。ならば、最強の勇者に付き従うのが、もっとも魔王を倒すことへの近道のはず。ジョイスロウ殿下。どうか私とお手合わせを!」
ああ、ヤバイな。
たしかにジョイスロウ殿下の獲得したSランクスキル【七星崩剣】はSランクスキルでも比類ない絶大な破壊力をもつ。
でも、実戦はスキルだけじゃ決まらない。
このシェイン。サイコパスなだけに、戦闘での容赦のなさでは並ぶものがない。
甘いジョイスロウ殿下じゃ、とても勝てない。
「ジョイスロウ殿下、受けてはいけません。シェイン様は、あなたの勝てる相手ではありません」
と忠告したのだが。
「エルフィリア……僕はそんなに頼りなく見えるのか?」
「ええ、未熟です。それを自覚し、試練で戦いの研鑽を積んでください」
おれは仲間として、至極まっとうな忠告をしたのだが。
「よかろう! シェイン、貴様の増長をたたいてやる! 覚悟しろ!」
なんで戦っちゃうのかね。
結果は、まぁ予想通り。
「【勇者獄殺剣】!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
一瞬で体を数十ヶ所も切り裂かれ、ジョイスロウ殿下はシェインの足元に崩れ落ちた。
「フハハハ! たしかにあなたの【七星崩剣】は強力なスキルだ。しかし! 私はそれに対抗するため、サザンクロス侯爵家の家財をつぎこみ、三枠すべてをS級戦闘スキルにしたのですよ!」
いくらかかったんだ?
狂いっぷりが凄えよ。本当にサイコパス野郎だな。
おれはジョイスロウ殿下のケガを癒やしながら告げた。
「だから言いましたのに。こうなっては仕方ありません。わたしはシェインのパーティーに加わります」
「なっ………エル……」
回復呪文で殿下の傷を癒やし終えると、冷たく背を向けクソ野郎の所へ行く。
ジョイスロウ殿下。アンタの男の見栄を守るためだ。
クソ野郎の前に立つと、淑女の会釈で挨拶。
「シェイン様。これより聖女エルフィリアは、あなたのパーティーに加わります。どうか以後よろしくお願いいたします」
ジョイスロウ殿下のためにも、あえてハッキリ野郎に挨拶した。
「フハハハ、聞かれましたかジョイスロウ殿下! 女の心変わりは恐ろしゅうございますなぁ。このシェイン、震えがとまりませんぞ! ウワァーハハハハ」
なんだ『心変わり』って。
勝負のケジメをつけているだけなのに、何で女の性根の話になるんだよ。
「う……ぐぐっ……エルフィリアァァ! エル………ッ」
去って行くおれとシェインの後ろで、ジョイスロウ殿下の叫びがいつまでも響いていた――
◇ ◇ ◇
「………と、いうわけです。あの後、きっとジョイスロウ殿下は立ち直って、魔王を倒す真の勇者になってくれると思ったのですが。どうして、このようなことになっているのでしょう?」
「『僕は君を守る』ってのが、本当に愛の告白だったからじゃないですか? 『ゴメンなさい』されたと思って、ヤケになったんだと思います」
「ええ!? S級スキルを得て、オレTUEEEE気分してるのだとばかり思ってましたわ!」
うわあ、思わず殺意を抱いてしまう程の鈍感ヒロイン
これはもう、【パーティークラッシャー】どころじゃない。
いわば【パーティーデストロイヤー】……いや、まだ足りない!
パーティー破壊神だぁ!!!
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