01話 貴様は追放だ! 地獄へな!!
前作『TS賢者の弟子転生アリエス』で聖女を出したのですが、書いているうちに聖女が大好きになってしまって、聖女ヒロインものを書くことにしました。
聖女と田舎冒険者の身分差エセラブコメです。
どうかよろしくお願いします。
「不埒な下賎め! 貴様は今、ここで追放する!」
と、大貴族の子息にして勇者【シェイン・サザンクロス】様に告げられた。
「……クビですか。それは仕方ありませんが、しかし何でこんな夜中に? しかも、わざわざこんな崖際にまで俺を連れてきて」
夜の見張り中の俺の元に、わざわざ勇者パーティー全員がやって来て(聖女様以外)、それを告げるためだけにこんな崖際まで連れてこられた。
しかも、俺はその崖を背にして立たされた状態だ。
ちなみに俺は勇者パーティーの本メンバーではなく、サポートメンバーの一人。
本メンバーは貴族の子息のs、Aランクスキル持ちの者達で構成されている。
しかし彼らは大型魔獣と戦えるほど強くとも、実際の冒険は強いだけでは渡っていけない。
それをサポートするために、本職のベテラン冒険者パーティーがついてきているのだ。
その一人が俺、【シーザ・ツェッペリ】だ。
「フッフッフ。『ここで』といったであろう。貴様が追放される先はこの崖下だ!!」
「な、何だってえー!!!」
やけに悪い顔をしてると思ったら、そういうことか!!
「……あの、シェイン様。いちおう理由をお伺いしても? クビだけならまだしも、何故、俺は死ななきゃならないんです」
「決まっているであろう! きさまが我が婚約者エルフィリアに過度につきまとっているためだ! たかが下民の分際で、我が将来の愛妻につきまとう卑しい性根! 愛しいエルフィリアの醜聞のタネをこの場で断つ!」
そのエルフィリア様はあなたのこと、メチャ嫌ってましたよ。
『婚約者』ってのも完全な妄想だし。
アタマおかしいね、この坊ちゃん。
いや、たしかに勇者パーティーの聖女【エルフィリア様】は、サポートメンバーの俺によく声をかけてくださって仲良いけどさ。
けど嫉妬しすぎだろう。
所詮、俺は平民の田舎冒険者。
大貴族令嬢であり、王国に認められた聖女であるエルフィリア様と、どうこうなることなんてあり得ないし。
「この調子にのった下民がぁ!!」
「身の程を知れ! おれですら、貴様ほどエルフィリア様と話したことはなかったのだぞ!」
「この間はエルフィリア様の手を握ったな!? 顔まであんなに近くで見て! 許せん!!」
当のエルフィリア様以外、勇者パーティー全員が【聖女エルフィリア様しゅきしゅき団】だ。
まったく、なんでこうも狂うくらい聖女が好きな男ってのはいるのかね。
昔、俺の兄貴が聖女様が近くで水浴びしていると聞いて、覗きにチャレンジして殺された、なんてこともあったしな。
ま、あの人も【聖女エルフィリア様】を見れば狂うくらいするかもしれん。
エルフィリア・ノルデン。
ノルデン伯爵家令嬢にして、魔王の天敵であるS級スキル【光の女神】を授かった者。
このような魔王、魔物に有効なスキルを授かると、貴族令嬢でも勇者パーティーに入って魔王打倒の旅に出なければならない。
それが【聖女】だ。
だが、エルフィリア様は【聖女】という称号に加え、絶世の美貌、清楚な雰囲気と、世の男達が求める容姿までも兼ね備えているのだ。
それが何故か平民の俺を気に入っているらしく、しょっちゅう勇者パーティーを抜け出しては、サポートメンバーの野営に来たりするもんだから、こういった状況になってしまっているのだが。
「フハハハ、さぁ選べ!わがS級スキル【獄殺剣】であの世に行くか、みずから崖から飛ぶか! 貴様ごときの血で剣を汚したくはないので、飛んでくれるとありがたいのだがなぁ」
このシェインのスキル【獄殺剣】は、剣一本でA級討伐認定すらされているモンスターを倒せるという、とんでもないものだ。
実際、旅の途中で飛竜に襲われたとき、それを斬殺してしまったことがある。
あれにかかれば、俺などゴミ屑だろう。
――「おやめください、シェインさま! シーザになにをするつもりです!」
と、あらぬ方向から、綺麗な声が響いた。
そこにはイキをきらせた問題の【聖女エルフィリア様】がいた。
綺麗で豪奢な金髪。
小顔の中に緑色のつぶらな瞳。
清楚で可憐な容姿を、勇ましい冒険者用のローブでつつんだその姿も可愛らしい。
いつかドレス姿も見たい……… いやいやいやいや!
見とれるな!
今まさに、彼女をめぐって命の危機にさらされてるってのに!!
シェインは彼女を見ると一瞬驚いた顔をした。
が、「ニヤリ」と笑って俺に鞘付きの剣を向けながら彼女に言う。
「エルフィリアよ、俺を愛すると誓え。そして、この男に二度と回復魔法をかけないこともな!」
「あなたという人は!」
「さぁ、どうする! 俺はコイツを殺したくてウズウズしてるんだ! 早く言わねば、俺の手が勝手に動いてしまいそうだ!」
前々から思っていたけど、この勇者様、サイコパスだよ。
回復魔法なしの冒険はちょとキツいけど………いや、俺だけもうやめるか。こんな仕事。
たしかに魔王を討伐すれば、報酬は莫大なものになるだろうけど。
その前に確実に死ぬ。この勇者様の手にかかって。
「あ……愛します……」
「聞こえん! そんな、かすれ声で、この俺が剣を引くとでも思っているのか!!」
「愛します! 心の底から!!」
「フハハハハ、それでいい。我が妻エルフィリアよ!!」
悪いな、エルフィリア様。俺なんかのために……
「このシーザを!!」
………………………なんで?
俺を殺しにきているの? この聖女様!!
ちょっと故郷の話なんかをしただけで、そんな関係になるようなことは何もないぞ!!
「ヒッ!?」
ついに勇者様は剣を抜いた!
その怒気は青白い炎となって全身を包んでいるよう。
「もはや堪忍袋の緒が切れたわ! 下民シーザ! 貴様は追放だ! 地獄へな!!」
シェインは高く高くジャンプし、俺目がけて剣を振り下ろす!
剣身がもの凄い覇気を纏っている!
ワイバーンを斬殺した勇者獄殺剣だ!!
「ダメだ、死んだぁーー!!」
絶望の中、走馬灯のようにこれに至った経緯を思い出した。
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