Ⅸ 悪徳貴族
「もう大丈夫だぞ」
ずっと俺の服の裾を掴んで付いて来ているセリアに言った。
「・・・ありがとう」
そう言うと、ようやく裾から手を放し横に並んで歩く。
大通りに出ると、俺たちが異様に浮いているのか通行人は1度はこちらを見る。
「欲しい服を見つけろ。買ってやろう」
獣人を連れている人などいないし、その娘が奴隷服なのだ。
浮かない方が難しいか。
「別にこのままでいい」
「お前がよくても俺が困る」
このまま付いて来られては目立って仕方ない。
「じゃあ・・・あの店」
セリアが選んだ店に入り、服を新調した。
「・・・この服どうかな?」
着替え終わったセリアがそう聞いてきた。
「よく似合っているぞ」
セリアの服は、ほとんど白のローブだ。
「・・・嬉しい」
奴隷服以外着たこと無かったのか、生地の肌触りに感動している様子だ。
ここまで喜ばれるとなんだかこちらまで嬉しくなる。
「何か食べたいものはあるか?」
いつの間にか夕飯時なので、どこか食べれる所を探す。
「私はあなたに全てを捧げた」
意外と律儀なやつだな。
要するに全て俺に従うと言うわけか。
「もう少し自我を持ってくれ」
確かに奴隷商から買い取ったし、従えとも言ったが、奴隷として扱うつもりはない。
ただ冒険の仲間が欲しかっただけなんだがな・・・
「・・・じゃあ、肉が食べたい」
「そうか、じゃああの店に行ってみよう」
俺達は、視界に入った焼肉屋に入り、肉を食べる。
「美味しいな」
初めての異世界での食事に少し不安はあったが、絶品だ。
「・・・・・・・・・」
セリアは先程から無言で食べ続けており、俺の3倍は食べている。
俺は食べるスピードが落ちてきているが、セリアは全くスピードが落ちない。
「少しトイレ行ってくるから、大人しくしてろよ」
俺はふとトイレに行きたくなったので、そう言い残しトイレに行く。
数分も立たない内に戻って来たが・・・
「おい、貴様!こっちに来やがれ!」
セリアが割りと身分の高そうな15くらいのガキを筆頭とした数人に絡まれている。
「おい、そいつは俺の連れだ」
そう割って入って入る。
「貴様か!僕様の奴隷を横取りしたやつは!」
「何のことだ?」
「この奴隷は僕様が予約していた物だ」
先程奴隷商人が言っていた貴族とはこいつのことか。
「なんだ、こいつがタイプだったのか?悪いことをしたな」
「貴様ぁ!僕様をバカにしてるのか!僕様が買うと決めた物だ!僕様の意思は絶対だ!」
そう貴族の男が言うと、周りにいた男たちが俺に襲いかかって来た。
このガキに挫折と不条理の教育でもしてやるか。
「悠久の星霜」
そう唱えると、俺に襲いかかって来た男たちはその攻撃が届く前に灰となり霧散した。
「なっ、バカな!何をした!?」
驚くのも無理はない。
俺が放った呪文は、対象の時間を無限に増幅させるものだ。
その結果、体は朽ち果て灰となり消える。
「弱すぎて死んでしまったようだな」
「なんだと!あいつらはAランク冒険者なんだぞ!Sランクでも無いお前なんかに負けるはずがない!」
Aランクでもこんなものなのか・・・
敵が弱すぎて何だか残念な気持ちになる。
「どうした、お前は戦わ無いのか?」
「クソっ!役立たずどもがっ!覚えておけ、お父様に言いつけてやる!」
そう言い残し、そそくさと店を出ていってしまった。
「・・・逃がしていいの?」
俺たちのやり取りをボーッと眺めていたセリアがそう聞いてきた。
「まだ、望みがあるようだったのでな。その望みを全て粉砕してからあいつの相手をしてやるさ」
特に恨みは無いが、悪徳貴族を懲らしめてこその異世界ライフだ。
さんざん痛め付けて殺してやろう。
「そんな事より自分の身ぐらい自分で守ったらどうだ?」
「・・・大人しくしてろと言われた」
「死んだら意味が無いだろ」
「・・・あなたを信じている」
今日出会ったばかりのこいつは、俺のどこを信用しているのか皆目検討もつかない。
「次からは、自分の命優先だ」
「・・・それが命令なら」
・・・こいつ、とんだ奴隷適正だな。
「命令だ」
「・・・分かった」
その後、俺たちは肉を心行くまで食べ焼肉屋を後にした。
怠慢