8話 祖母との再会
目を開けると真っ白な天井と蛍光灯が見えた。
まだうすぼんやりとしている。
身動きがとりにくい。
腕を動かそうとすると、何か管のようなものが付いているのに気付いた。
(そっか……ここは病院か……)
おぼろげながらに意識が戻ってくると、スーっと無機質な音がした。
病室の自動ドアが開いて数秒、
「あぁ、目を覚ましたかい?」
高齢な女性の声である。
スタッ、スタッと歩み寄ってくる音は落ち着きがある。
「どうだい?体の調子は」
老婆の声がする方に視線を向けると、その声から想像していたよりも若い、――いや、若く見えるが正確だろう――女性がこちらを柔らかな表情で見ていた。
髪は灰色がかっていたが、眼鏡から覗く丸い目には、すっと透き通るような瞳があった。
隼人は怪訝そうにその顔を見ていた。
「隼人、私のことを覚えてないの?」
隼人の知人のようだ。
埃のかぶった記憶を探る。
「まぁ仕方ないかもしれないねぇ。最後に会ったのは、隼人がまだ小学校に上がって間もない頃だったから……」
その女性はベッド脇にあった椅子に腰かけた。
「……もしかして、僕の祖母ですか?」
自信なさげに聞いた。
その女性は、その聞き方がおかしかったのだろう、思わず笑った。
「そうだよ。昔は『おばあちゃん、おばあちゃん』と言って、私を散々遊びに突き合わせていたのにねぇ。昔みたいに『おばあちゃん』と呼んでくれていいのよ」
隼人は祖母と遊んだことを思い出した。
顔やどんなことをして遊んだか、までは思い出せなかったが、確かにそういうことがあったということは思い出せた。
この女性、蒼井桜は、隼人の母方の祖母である。
その思い出と共に、隼人は急に全身の気が抜け、涙があふれ出した。
今まで体を縛り付けていた恐怖と不安、孤独といった闇の中に、温かい光が差した気がしたのだ。
桜は隼人を抱きしめる。
「つらかったねぇ。いいんだよ。思い切り泣きなさい」
そう言ってからは、隼人が泣き止むまで何も言わなかった。
泣くだけ泣いた後に、水をコップ一杯飲んだ。
落ち着きを取り戻した隼人の頭には聞きたいことばかりだった。
「あのさ、おばあちゃん。俺、聞きたいことが……」
と言いかかった隼人の言葉を、桜は首を横に振りながら遮った。
「その話は後にしましょう。今はまだゆっくり体を休めなさい。私はどこにも行かないから、安心してまた眠るといいわ」
隼人は気になると眠れない質だったが、疲労感に似た恐怖と悲しみの名残が、再び隼人を眠りに誘った。
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