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たとえ世界が壊れても  作者: 霧島 奏
序章 悲劇
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5話 傷跡

 隼人は気分転換によく散歩をする。

勉強で行き詰っているときや、何か考え事をしたいとき、散歩をすると突然ひらめいたり、解決したりするのだ。

今日もそうやって気分転換をしにきていた。

母には強がって大丈夫だと言ったが、悪夢による睡眠不良は想像以上にきつかった。


(あの夢……悪夢。内容の詳細がどうも思い出せないけど、なんとなく夢っぽくないような……)


 西の方は橙色に輝いていたが、東側の方はほぼ真っ暗だった。

このグラデーションがかった黄昏時の空をのんやりと見つめながら歩いていると、後ろからぽんと誰かが肩を叩いた。

振り返ると、そこには部活がちょうど終わったばかりの運動着姿の聖也が立っている。


 この王城、東京城の周りはランニングする人が多く見られる。

王城は高さ600メートルの正四角錐の形の建物で、黒曜石のような色をしている。

側面には格子状の模様があるのだが、それを近くでよく見ると――一般人はそこまで近付けないのだが――いくつもの大きな窓になっている。

しかしその窓は外側から内部を見られないように加工されている。

この無機質な建築物の中に<MiKO>があり、王政が行われている。


 日ノ谷高校は王城に近かったので、練習で城の周りを走る部活が多かった。

時間帯によっては王城の影で、幾分快適にランニングやウォーキングができる。

そしてサッカー部も、毎週王城の周りを走っていたのだ。


「また気分転換か?」


幼馴染の聖也は、隼人が昔から気分転換に散歩することを知っている。


「まぁなー」


「何か悩んでるなら、俺が聞いてやろうか?」


にやっと笑いながら言った。

雫の連絡先を教えてもらえなかったことが未だに悔しく、この幼馴染が悩んでいることに悪い気がしなかった。


「悩みっていうか、今日よっと寝不足でね」


「また遅くまで物理の本でも読んでた?」


「いや、悪い夢を見てさ……」


聖也ぶはっと噴き出して笑った。


「お前、子どもかよ!悪夢で眠れないって……ぷぷっ」


最後はわざとらしく吹いて見せた。

隼人は少し恥ずかしそうに、むっとした。


「眠れないと、頭休められないじゃんか。思考力が低下したら、できる勉強もできないよ」


聖也はいたずらっ子の顔のままだった。


「で、どんな悪夢なんだ?」


「それが、はっきり覚えてないんだ。でも何かを奪われたのかな?『返せ』って言ってた」


「ほーん、それで?」


「でも……」


隼人は少しうつむいて続けた。


「でも、すごい悲しいというか、悔しいというか、そういう感じの気持ちだけは、はっきりと刻まれる感じなんだ。だから夢だけど、夢っぽくなくてね」


 今朝目が覚めた時の感覚を思い出していた。

なぜか自分は泣いていた。

何が悲しかったのか?

その何かを奪われたことがつらいのだろうか。



 ――ふと気付くと、隼人は自分の頭の傷跡に触れていた。


自分でもなんでそうしたのか分からない。

ただ、夢の内容を思い出そうとしたら、痛むはずのない傷がうずいたのだ。


「なぁ聖也、この傷跡ってどうしてできたか知ってるか?」


髪の毛に隠れて普段は見えない傷跡のあたりを指して聞いた。


「あれ、それってお前が小さい頃、遊具から落ちた時にできたんじゃなかったけか?」


「そうだよな……」


 聖也の言った通りのことを、昔母からも聞いた。

そしてすごく心配したのだとも言っていた。


「うぅ、それにてもだいぶ冷え込んできたなぁ……。そろそろ帰らないか?」


聖也は身震いして見せた。

ずっと半袖に短パンの運動着ではさすがに寒さが身に染みた。


いつの間にか王城の周りを1周していた。

日はとっくに沈み、電子公告板や建物の明かりが町を照らしていた。

別れ際に聖也は隼人の肩に、優しく手を置いた。


「まぁ……、本当に何か困ったことあったら、俺に相談しろよな」


いつもの雰囲気とは違った、柔らかい、それでいてどことなく哀愁を漂わせていた。


「……ありがと」


隼人の顔には少し明るさが戻っていた。


(昔から、ああいう一面があるんだよな。本当にたまにだけど)


隼人と聖也はそれぞれの家路についた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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次回以降も楽しみにしていただけたら、嬉しいです!

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