23話 親友と
部活が終わり急いで校門に向かうと、既に聖也が石段の上に腰をかけ、携帯型端末を弄っているのが見えた。
「ごめん、待たせた」
「いや、俺もさっき来たばっかりだよ」
2人は駅の方に向かって歩き出した。
隼人は話をするために自分の家――桜の家ではなく――に来てもらうことにした。
事件以来、ずっと帰らなかった家。
桜の家は来てもらうには遠すぎるというのもあったが、これから仲間と話すであろう場所として、自分の家も拠点のひとつにしたいという考えもあった。
「そんなに話すのが恥ずかしいのか?」
聖也はお道化た雰囲気で聞いたが、隼人の表情はかたいままだ。
「うん……すごく大事な話だから……」
家に着くまではほとんど会話をしなかった。
互いに重い雰囲気を感じ、かといって何か関係ない話をする気にもなれない。
家の前まで来ると、隼人はぎゅっと心臓を掴まれるような感覚に襲われた。
吐き気で思わず体をかがめてしまった。
「お、おい……大丈夫か?」
聖也が隼人の背中をさする。
「……ありがとう……。大丈夫……」
そう言いながら生体認証を終えて家の中に入った。
家の中は事件などなかったように綺麗になっている。
王政の所有するドローンやロボットで処刑が行われると、その後の処理は全て清掃ロボットによって行われるようになっていたことは知っていたが、これほどとは思っていなかった。
それでもよく見ると、家具や床には襲撃の痕跡が残っている。
「じゃあ、適当に座って……」
聖也を席に案内しながら飲み物はいるかと問うたが、聖也は首を横に振った。
「それで、天音さんとは結局どういう関係なの?」
隼人が座るや否や質問をしてきた聖也の目を見て、それから下の方へそらした。
「聖也は、俺が一番信頼している親友なんだ」
聖也は隼人の方見ながら「俺もそうだ」と、囁きながら相槌を打つ。
「だから、きっとこれから打ち明ける俺の秘密も、真剣に受け止めてくれると思っている」
沈黙は自分の鼓動をより意識させる。
呼吸を整えて口を開いた。
「――俺は、<創造者の血を引き継ぐ者>なんだ……」
***
隼人は<創造者の血を引き継ぐ者>のこと、雫や桜のこと、そして王政に反逆を挑もうとしていること、全てを話した。
聖也はその間ずっと表情を変えることなく、隼人の言葉に耳を傾けていた。
「なるほどね……信じがたいけど、筋は通ってる……」
話を終えた後、聖也は少しの間、考え事をするように天井を見ていた。
「うん、俺は隼人を信じるよ!――そして俺も一緒に戦う」
隼人は顔を上げた。
信じてもらえるという期待の中に、やはりどこかに不安や恐怖があったのだと気付く。
聖也の言葉と表情がそれら全てを消し去ったことで、それが自覚できた。
「……本当……?」
「もちろんよ!というか何となくそういう気がしてたんだ」
「え?俺の正体を知ってたってこと!?」
「いや、<創造者の血を引き継ぐ者>とかそういうのは知らなかったけど、あの事件の日から色々と様子変だったしなー。何年の付き合いだと思ってんだ?」
隼人は嬉しさと安堵で思わず涙をこぼした。
「おい、さすがに泣くまでいくと、引くぜ?」
笑いながらそう言いつつも、聖也は近くのティッシュを取って渡した。
その後は雫の話になった。
隼人の話を聞いている途中から、聖也は思わず笑い出していた。
「隼人……それは天音さんのことが『好き』なんだよ……」
「え、俺が?そんな……」
「そっか女の子を好きになるのは初めてか。でもそれは俺の見解だと、いや誰が聞いても間違いなく『恋』だって言うと思うぜ?」
隼人は顔が赤くなるのが分かった。
(俺は雫のことが好き……)
意識するほどに、より一層その「好き」という感情が大きくなる気がした。
一緒にいると恥ずかしいのに、幸せで離れたくない、そういった感情は今までになかった。
「それで、さらに言うと天音さんは……」
そこまで言いかかったところで聖也は口を閉じた。
「いや、これは止めておこう」
「え?何なんだよ?気になるなー」
「これは隼人の問題だからな。天音さんのこと『好き』なんだろ?だったらそれでいいじゃん。その『好き』って気持ちをしっかり伝えなよ?」
聖也はわざと「好き」という言葉を強調した。
隼人が恥ずかしがるのが面白いのだ。
でも確かに聖也の言う通りかもしれないとも感じていた。
いずれ自分たちは王政に立ち向かう。
そうしたら気持ちを伝える余裕などないだろう。
駅まで一緒に向かい聖也を見送った隼人は、そのまま桜の家に帰った。
聖也が自分たちの仲間になってくれるという話をすると、桜は「一歩前進したわね」と頷きながら聞いていた。
「それでもまだ戦うには少ないから、他にもできるだけ人を集めてほしいわ。ただ慎重にね!」
「それは分かってるよ。ただ、俺たちみたいに能力がない人はどうやって戦うの?」
味方を多く集めたからって、改変の能力がなくては戦えない。
武器も易々と手に入る代物でもない。
「そこはちゃんと考えてあるわ。まだ隼人たちにはしっかり説明してなかったけど、物にも改変の能力を宿せることができる。これは前にも話した飛行ドローンがプロペラなしに飛べるのも同じ理由よ。あれは重力に逆らう改変が施されてる」
「じゃあ何かの物体に、攻撃や防御になるような改変の力を付与しておけばいいってこと?」
「そうね。例えば単なる棒でも、それで何かを叩いた時に、叩かれた対象の運動量が、通常の倍になるとでもしておけば、力がなくても強力な武器になる」
「じゃあそれを大量に作れば……」
桜は隼人を制すように首を横に振る。
「改変の能力は、使用者の能力や距離などにも依存するっていうのは前に話したよね?だから物に対して改変の力を宿しても、改変を行った人がその物体から離れると、効力は薄れてしまうの」
「じゃあ近くにいないと使えない……」
「でも、それを可能にする人物がいる。それが前に話した新垣教授よ。彼は密かに改変の能力を物体に定着させる研究もしているの。だから彼を仲間にすればきっと強力な武器が手に入るはず」
新垣研究室に行く目的がより明確になると共に、新垣智和という物理学者は、改変の力までの研究の対象にしてしまうことに驚いた。
そして早く智和に会ってみたいという気持ちが強くなる。




