表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ世界が壊れても  作者: 霧島 奏
第3章 神の設計図を書き変える能力
22/31

21話 これから

 雫の後に隼人も風呂に入った。

髪と体を洗い、湯船に浸かる。


「ふぅ……」


運動した後に入るのと同じ感覚だった。


(あぁ……めっちゃ腹減った……)


 隼人は自分が想像していたよりも能力が使えるようになるのが大変だと思った。

それに対して、雫はすぐに習得できる。

10年の差と言えば納得できるが、自分も雫のようになれるのかと、少し焦る気持ちもあった。


(焦らずじっくりと……)


焦燥感を振り払い、今はリラックスする時だと自らに言い聞かせ、肩まで湯船に沈めた。


――ふと気付く。

この湯船についさっきまで雫も入っていたのだ。


(心なしか風呂場の匂いもいつもと違うような……)


隼人は自分が何かいけないことでもしている気分になり、すぐに上がった。

ドライヤーもあったが、練習のために能力を使って髪を乾かした。


 着替えた隼人がダイニングに向かうと、雫は桜の準備を手伝っていた。

自分の服を着てだぼっとした雫を見るのは、なぜか恥ずかしい。


「隼人、顔赤いけど……大丈夫?」


桜は別に心配などしていない。


「いや、ちょっと、のぼせたかなー?」


声が裏返る。


「のぼせるにしては、上がるの早かったわよねぇー?」


「疲れてたからだよっ!それよりも今日の夕飯は?」


 隼人はあの事件の日以来ずっと桜と2人だけで夕食を食べてきた。

だからこうして3人で食べる食事は、決して大人数ではなかったけど嬉しかった。

そしてそれは雫も同じだったようで、会話は盛り上がった。


「いつも隼人君は難しい質問を当てられるんですよ。それで……」


雫は学校での隼人の様子を話す。

隼人はあまり桜には話さないから、桜もへぇーと初めて聞く隼人の様子に、(うなず)きながら聞いていた。


 雫はいつも一人で食事をしていたから、こうして高校の話をすることなどなかったのだろう。

隼人は雫の横顔を見た。

そして雫の過去が思い出される。

今までどんなに辛かったことだろうか。


「じゃあ、今度その黒崎聖也君?も、うちに連れて来るといいかもしれないねぇ」


いつの間にか聖也の話になっていた。

桜は聖也が隼人のためにクラスの人を説得したことを聞いたのだった。


「聖也は本当にいい奴だよ。もしかしたら、ちゃんと話せば俺たちの仲間として戦ってくれるかもしれない」


 隼人は聖也を深く信頼していた。

長い付き合いもあり、隼人が本当に困っているときに救ってくれるのは、いつも聖也だった。


「なるほどねぇ。なかなかリスクの伴うことだけれど、かといって仲間が増えないことにはどうしようもないからね……タイミングを見て打ち明けるのはいいと思うわ」


 全て食べ終わると、3人で片付けをした。

すんなりとそれを終えると、桜はいつものように2人にお茶を用意した。


「ところで2人は進学する大学は決まってる?」


「私はずっと王立先進科学大学を志望しています。おそらく日ノ谷高校の多くがそこを目指していると思いますが」


「俺も雫と同じだよ」


 王立先進科学大学は、現在の王政が始まって以来の日本のトップの大学である。

トップというよりも、他の大学とは全く比べ物にもならないほど異質な大学だった。

科学に特化しているとは言うまでもなく、他の大学の多くが4年生から研究室配属されるのに対して、先進科学大学では入学の段階から研究室に配属される。

優秀な人は大学院に行く前に成果を出し、論文を書くこともある。


「それなら話が早いわ。2人とも先進科学大の新垣(あらがき)教授の研究室に入ってもらうわ」


「え、なんで急にそんな?というか元々そこに入りたいと思ってたから別に問題はないんだけど」


 新垣智和(ともかず)は隼人も知っている有名な物理学者であった。

その研究分野は原子核物理学を中心に、物性や宇宙のことまで幅広い。


「新垣教授はね、隼人のお父さんの後輩よ。そして実は<創造者の血を引き継ぐ者>なの。私も彼のことは詳しく知らないけれど、これからの戦いには欠かせない人物よ」


隼人は驚きを隠せなかった。

自分の尊敬する物理学者が父の後輩で、しかも<創造者の血を引き継ぐ者>だとは。

桜によると、父の彰から智和のことは聞かされていたそうだ。

隼人が新垣研を目指すきっかけも、彰から情報をもらったからだったが、後輩であることなどは聞いたことがなかった。


(もしかしたら父さんはそれを見越して……)


頭の良い父のことである。

そういうことも考えていたのだろう。


 雫も頷いていた。


「私はまだ特に行きたい研究室は決まってなかったので、どこでも問題ないです」


雫は物理全般に興味があり、どれも捨てがたいという思いがあったが、こうして目的ができたことによって、結果的に研究分野の決定を後押しした。


「ただ、新垣研は先進科学大の中でも特に入るのが難しい研究室よ。受験に備えて勉強も怠らずにね」


桜は「よく心に留めておくように」という表情で2人の顔を交互に見た。


 隼人も雫も先進科学大に入るのには十分な学力を持っていたが、さらにその中でもトップクラスの学力となると、油断はできなかった。

2人は訓練の合間に一緒に勉強することにした。

2年生の今から徹底的に対策すれば問題はないはずである。


 寝る準備を終えると、桜は「おやすみ」と言ってさっさと自室に戻ってしまった。

残された2人も部屋に戻る。

桜の家には2人の足音だけが響いた。


「えっとじゃあ、雫はこのベッド使って……。俺はここに布団しいて寝るから」


「うん、ありがとう……」


 隼人は布団に入ってから電気を消した。

もちろんリモコンは使わず能力を用いて。

一瞬で暗くなる。


――沈黙。

全く何も見えないのに、雫の気配が感じられる。

静けさがなおさらそれを意識させる。

いてもたってもいられなくなった隼人は、沈黙を破った。


「あのさ……起きてる?」


「うん……」


「今日、色々と疲れたよな」


「うん……」


またも沈黙。


(物理の話……はこんな寝る前に話したら目が冴えてしまうしなぁ……)


――と、次に沈黙を破ったのは雫だった。


「ちょっと寒いかも」


この時期、特にこのあたりの地域は冷え込む。

暖房を付けたまま寝ると喉が乾燥してしまうから、掛け布団を多くして温かくしていた。

しかし雫にはまだ肌寒いようだった。


「それじゃあ、もうひとつ掛け布団を……」


と、隼人が言い終わらない内に雫は言った。


「隣……行ってもいい?」


雫の表情は見えない。

が、それは隼人にも幸いなことで、今の自分の表情を見られたら、とんでもなく恥ずかしい。


「え?隣……?隣って……」


動揺する隼人。


「隼人の隣……寒いから」


「……うん……いいよ……」


顔から血が噴き出るかと思うくらい、熱い。

雫がベッドから起き上がる音が聞こえて間もなく、隼人の隣に温もりがやって来る。

雫の髪が隼人の顔を撫でそっと撫でた。

いい香りがする。


「あったかい……」


雫は隼人に背を向けていた。

隼人も雫に背を向けている。

互いの背中に当たる感触は、2人の鼓動を速める。


(雫ってこういうの、別に何とも思わないのかな……)


隼人は緊張が頂点に達していたが、嬉しいという気持ちもあることを自覚していた。

自分は今まで雫は、物理の話ができ、そして互いの秘密を知る仲の良い「クラスメイト」だと思っていた。

それでも何か別の「気になる」感情が芽生えていたことも分かっていた。

今までに味わったことのない感情が。


(この気持ちが……「好き」ってことなのか……?)


 背中に雫の呼吸が伝わる。

もう寝てしまったようだった。

隼人も早く寝なければ明日起きられなくなると思うのだが、なかなか眠れない。


 次の日の朝、隼人が目覚めると雫の姿はそこにはなかった。

昨日のことがまるで夢のように思えた。

ぼうっとする頭を起こして、ダイニングに向かうと桜と雫がコーヒーを飲んでいた。


「あら、やっと起きたのね。なんかあまりすっきりしない顔してるわね」


それもそのはずで、やっと眠りについたのは外が明るくなってからだったのだ。


「おはよう」


そう言いながら雫の方を見ると、雫も寝不足の顔をしている。


「2人ともあまり眠れなかったのかしら……」


桜は内心、少しやりすきぎたかなと反省していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ