0話 書き置き
物語は変わりませんが、構成上「0話」として新たな話を付け加えました!(2020/9/3)
既に読み進めている方は、この話を読んでも読まなくても物語を追えるようにしていますが、気になる方は読んでほしいです!
初めて読む方はこの話から読み始めてもらえると嬉しいです!
俺は何のために生きてきたのか。
何のために犠牲を払い、何のために戦ってきた?
この世界を平和にする……?
違う、そんなの建前だ。
ただ憎かった。
憎くて憎くてたまらない。
何もかも壊してしまいたかった。
俺は周りの人間が思っているような、できた人間じゃない。
平穏な日常を奪った奴らに復讐してやりたい、そのためだけに多くの人の命を奪った。
心から信じられるのは自分だけ。
――君を除いて。
俺は君を愛していた。
その温もり、香り、笑顔……その全てが愛おしかった。
そんな君を、俺は救えなかった。
君を救うために、何度も何度も何度も挑んだ。
君のためなら、世界がどうなろうと構わない。
この世界の理を変えてでも、君を救えるなら。
俺には君さえいれば、それでいい。
――たとえ世界が壊れても
そう思っていた。
それでも俺は、君ではなく世界を選択した。
それが君の願いだった。
君を失った。
そうか……これは罰かもしれない。
神の設計図を弄んだ罰。
どんなに理を変えようとも、この運命だけは変えられない。
ならばもう抗うことは止めよう。
もう無理だ。
つらい。
苦しい。
だから俺は一番手っ取り早く君に会う方法を思いついた。
なんだ、すごく簡単なことじゃないか。
なんで今まで思いつかなかったんだ?
今日、俺は自分の人生を、ここで閉じる。
***
男は認めたものを机の引き出しに入れると、机上の砂時計に目を移した。
眩しいくらいの白銀で装飾が施され、何もないくらい透き通ったくびれたガラスの中に、きめ細かな金色に光る粒が入っている。
これほど美しい砂時計は、世界のどこを探しても見つからないだろう。
それを取ってひっくり返すと、輝きがさらさらと滑らかに落ちてゆく。
静かな時の流れ。
砂の落ちる音は、そよ風に似ていた。
砂が全て落ち切った後の余韻。
男は目を瞑ってゆっくりと呼吸する。
それからその砂時計を取り上げると、郊外へ向かった。
――あの荒廃した、誰もいない土地へ。
灰色の木々を抜けると、既に日が傾き、燃えるような空が広がっていた。
第3次世界大戦の傷跡を未だに残しているこの土地は、まさしく死の象徴のように、全く生気を感じられない。
男は砂時計をポケットから取り出すと、それを近くの木の根元に置いた。
(ここで全てを終わりにしよう……)
男は高い崖の淵に立ち、ゆっくりと辺りを見渡した。
それから目を閉じ、一歩を踏み出す――その時である。
――ねぇ……
頭の中で声が響いた。
気付くと男の目から涙があふれ出している。
(あぁ……そうか……)
止まることを知らない涙を拭いつつ、男は先ほどの木の方へゆっくりと引き返した。
(君は俺に、未来を信じろと……そう言ってるんだね)
地面に崩れるように膝を着いた。
震える手を伸ばし、砂時計をそっと手に取る。
(それが君の望みなら……俺は信じよう……)
それから間もなく、白い光が男の手元から発せられたかと思うと、真上に向けて一筋の光線となった。
やがてその光線の先端が広がり、一瞬にして空全体を覆った。
ちょうどその光が消える頃、赤羽隼人は悪夢にうなされていた。
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