祝福。
「タチー!!!」
両腕を振り、連動する背中の翼を羽ばたかせる。
パタパタしながら空を飛ぶ私……どうしよう、お世辞にも「格好良い」とは呼べないこの姿。
世界を揺らし、空間を裂くこの戦場に、こんな不格好で登場してしまった。
「ナナ!?――お前は何度も私を驚かせてくれるな!」
この場で一番格好良い人が、漆黒の翼を大きく広げ、深紅の刃を手首で回す。
――ずるいなって思う。だって、強そうだもん。
「なんだ?その間抜けな姿は。」
体を黒く揺らめかせ、影の化身ヤウが、私を鼻で笑った。
「うるさいな!これでも強くなってるんだからね!」
ズーミちゃんとナビの助力を得て、こうして空を飛べ、戦闘に混じる力も得た。
いつまでも傍観者だと思うなよ……!
私だって、地上を揺るがすこの戦いに一矢報い――
「ふざけないで頂きたいものです」
イトラまでが冷ややかな目で、私に口で攻撃をする。
そんな全力で「近寄るな」って雰囲気ださなくっても。
そんなにふさわしくないですか私?
でもでも、元はと言えば私が原因の争いでしょ?
「いいな!!ナナも飛べるとなれば、空で逢い引きできるじゃないか!」
「やっぱりタチだけは、私の味方だね!」
「当然だ!!空で愛し合うのが今から楽しみでならん!!」
たぶん。両方場違いだから、息が合うんだろうな。
様になっているが、変わらず不謹慎なタチと、無様だけど真剣な私。
変わり者同士、お似合いって事で。
「しかし……こんな間抜けが加わった所で、こっちの不利は変わらんぞ。」
「押されてるの?ヤウとタチ二人がかりで」
さっきまで戦闘を目で追うこともできなかった私からすると、びっくりな情報だ。
いい勝負っぽくなっているのかと……。
「いや、私が押している。奴にはこの剣を再現できん」
胸を張って親指を立てるタチ。
握りしめた「新・神殺し」が彼女の意気込みに合わせて赤く燃え上がる。
「客観的に場が見れてね~ぞ。女」
「見えてないのはお前だ悪魔」
私の参加で一時止まった戦い。
その小さな合間ですら喧嘩が始まる。仲間内で。
私の周りには、こんな人ばかりが集まっている気がする。
「たぶん。あなたは始めから望んでいなかったのだ。神であることなど……そんなあなたに彼らが気付いた。人間――不条理と理不尽があると信じる狭量な生命」
私達の様子を伺っていたイトラが、光り輝く。
両の手に、煌めく剣を持ち。
「ごめんね。今の私にはわからないから……。もう神じゃないんだもん」
「最初からあなたには見えてたのかもしれませんね――今私の目の前に広がる。多様で乱れた数々の世界が……」
イトラが光る二本の剣を交えて構えた。
戦いを再開する合図の様に。
「私はずっとあなたを理解してみたかった。あなたの席からはどう見えているのかを……」
光の速さで、イトラが飛んだ。
今の私なら、それがわかった。
「それは恋という奴だ!今や私の女だがな!」
「全てを貴様の低位な頭で解ると思うな愚か者!」
タチが追い、イトラが受ける。
真っ赤なタチの剣は、煌めくイトラの光に負けず劣らず輝いていた。
生き生きと。
「出会いはお前が先だったのに残念だったな!」
「残念なのは貴様の偏狭さだ!」
剣とは別の攻撃手段も持つイトラが、斬り合いながらも手数を稼ぐ。
少し、少しと押されるタチ。
でも、彼女は一人じゃない。
「たまには私が守るんだから!!」
水と風、まざった二つの力で光の玉を弾く私。
「やはり私達が押している!」
叫んだタチの横薙ぎが、イトラの輝く剣を折る。
今まで素手以外の攻撃は返されてきたが、タチの剣は別らしい。
人の暗い想いが練り重なって、作り上がった黒い刃。
タチに強引に捕縛され、灰色になり、今は共鳴し真っ赤に燃え上がっている。
タチに手懐けられた刃は、光の化身イトラにも返すことができない。
「汚らわしい!なにが恨みだ!なにが意思だ!貴様らにそんなものが――あるものか!!」
イトラの輝きは衰えることなく、天を照らし、地を焦がす。
輝く翼で、タチと私は反撃をもらう。
「ナナ!いけるか!?」
「うん!ついていけるよ!」
返されることの無い「タチの剣」を中心に攻撃を組み、通す道や迫る流れは私が作る。
何度か繰り返すうちに、わかったことがひとつ。
距離が開くとやっぱり、こっちが不利だということ。
にもかかわらず、イトラは距離がつまることを避けていない事実。
「舐められているぜ」
「見てないで手伝ってよ!」
「光と打ち合い過ぎると弱まるんだよ、俺の攻撃は――なにせ影だからな。最初が一番暗くて濃い攻撃ができるのさ」
ヤウが黒い羽根を畳んだ。まるで何かを貯めこむように。
「好機だと思ったんだがな……イトラを消すには」
ぼやくヤウは放っておいて、私とタチは戦いを続ける。
二度、三度、同じような展開を繰り返し、その度に世界が揺れた。
「無駄です」
タチの剣は、何度もイトラの剣を打ち砕くが、少し距離をとられると、その両手には再び輝く剣が出現する。
またも、離れて――近寄って――が繰り返されるかと思ったが。
距離を離したイトラの体を、黒い影の手が拘束した。
「間抜けと対峙すると、さすがのお前も陰りが落ちるか?」
「私に――陰りなど……!」
「相手に陰が沸かなければ、使えない技なんだがな!!」
ヤウが拳を握りしめ、イトラに絡みついた影の手で締め上げようとする。
――が、光の化身にできた、余りにも小さく薄い影からの攻撃は、あっさりと破れイトラは距離をとる。
「タチ!」
私は大きく翼を広げて、声を張り上げた。
あきらめず、後先も考えず、何度だってイトラへと突き進む人の名を。
「まかせた!」
チラリとこちらを見たタチが、私の意図を察して剣を脇に構える。
ゴフゥウウ!!
大きく、全力で、水と風の源を合わせた力で風を起こす。
渦巻く風と、飛び散る水の玉が、迎撃しようとするイトラの光の玉を撃ち落とし、タチの体を先へと進める。
今までより少し早く、少し先に。
ドス。
伸びた深紅の刃が、イトラの体を貫いた。
「……何故だ。」
いつまでもイトラ優位で続くと思われた戦いは、ほんの少しの変化によって、あっさりと幕を閉じた。
光の粒を吐き出しながら、イトラが堕ちていく。
「イトラ……!」
彼が地面へとぶつかる前に、私は光り揺らめく体を受け止める。
初めて触れる輝く体。
不思議と懐かしい感じがした。
「トドメは――あなたが……時の化身。それが道理というものでしょう……」
抱き留めたイトラの体は重かった。光の化身で、あんなにきれいな翼を持っていたのに。
「ねぇ……どうしてもどちらかが消えなきゃダメなの?」
「――このまま時間を過ごすなら、私は力を取り戻すだけですよ?……それでも構いませんが」
わかっている。
彼女は光の化身。今やこの世界の神にも等しい。
ただ存在するだけで、人々や世界から祈りを得て力にする。
「私にあなたを否定できる道理なんてない……そんなことを置いても、イトラに消えて欲しくなんてないよ」
「そこまでナナが言うのなら、私も剣を収めてもかまわんぞ?」
私の後ろでタチが腕を組み翼を畳む。
「どうかな?ちょっとだけ話し合いをして、私じゃだめでも、他の化身と力を合わせて――」
「な、言っただろイトラ?こいつら間抜けだって」
ドシュ。
黒い手が伸びていた。
イトラのお腹のあたりから。
光の化身は密度を失い、サラサラと輝く体が流れていく。
「イトラ!!」
「ヤウ――貴様!!」
突然の攻撃に動揺する私と、宙に浮く影を睨むタチ。
抱えていたイトラは重さを失い、崩れ上がる。
「ヤウ……あなたの…好きにはさせない…」
「ざま~みろ。これで俺の勝ちだ。存在した時からてめーらが憎くて仕方がなかったんだよ。テメーとテメーが」
見下ろしたヤウが、私とイトラを指さす。
「私がなにもせず……ただ時を過ごしていたと…?これが――私の贈り物です」
「なんか俺にくれる準備をしてたってのか?ありがたいね!」
イトラの体は完全に消え、光る粒子があたりに漂っていた。
「人にです。神にもお前にも、世界を乱させたりしない――」
その時辺りが輝いた。
真っ白に。
「イトラ……?」
「なんだこれは!?」
呆然と立ち尽くす私を抱きしめるタチ。
その背にあった、ヤウから借りた黒い翼がボロボロと崩れ落ちる。
「自らに主体があると疑わぬ、愚かな者たち……」
空から声がする。薄く広がるイトラの音が。
「瞬くまに世界を繋げる私と――この地を覆い蓄積したダッド……。私達からの「祝福」です」
「てめ~!!最後まで!最後まで俺を相手しないつもりか!!トドメを刺したのはこの俺だぞ!!」
空に広がる声に、苛立ちを抑えず怒鳴り散らすヤウ。
いったい私の何がいけなかったのだろう、こんなことになってしまうなんて。
「お前たちが、私から奪ったのだ。……思い知れ」
その言葉を最後に、光の化身イトラは世界から姿を失った。




