みずうみに、ついた。
この地上には四つの大陸がある。
それぞれを地水火風の化身たちがひとつずつ受け持っていて、各々の特性に合わせた発展をしていた。
例えば、今いる水の大陸は四大陸で一番小さい。
けれど水の化身が住まうこの地は、水源が多く有数の川や湖を持ち、多様な水生生物が存在する。
隣接する海流も穏やかで、大きな港がいくつもあり、他の地の国に比べ水産業が盛んだ。
つまりお魚料理が美味しい。
目の前に広がるアルケー湖もその一つ。水の大陸一大きな湖だ。
もちろん人々もたくさん集まるし、それに伴い露店や屋台、見世物小屋やエッチなお店まで雑然と群がり賑わっている。
「神殺しの剣――この地の何処かにと思っていたのだが……」
人混みの中、前を歩いていたタチがついに口にしてしまう。
「何処かにっていうか……」
遠目に見ている分には、お祭り会場のようでわくわくしたアルケー湖周辺。
近づけば近づくほど人々の熱気と賑わいにあてられ、危険な一夜をしのいだ私もご満悦!――とはいかなかった。
確かに、沢山人もいるしお店もある。それはいい。
水の大陸らしく青系統の、のれんや、のぼりが多々並ぶのも統一感があって素敵だ。
だが、そこに書かれている文字はどうだろう?
神殺し饅頭・神殺しの魚焼き・神殺しのかき氷・神殺し研磨店…果ては、必殺神殺しの店などという如何わしいお店まで「神殺し」である。
「絶対ここに、剣あるよね……」
とりあえず「一店舗一神殺し」状態に唖然とする他ない。
各々が思いつく限り、神殺しで客足を伸ばそうとしている。
情報収集や疲れた体の休息をという名目で、ひとまずアルケー湖に足を運んだらこれだ。
私の当初の目的――、甘くてもちもちのお菓子を食べつつ、タチが剣を手に入れるまでの時間稼ぎをするつもりだったのに……。
「どうやら湖の中にあるようだな」
水中に眠る伝説「泳ぐ神殺し」という名のお店を指さすタチ。
白いお酒の中に、赤い縦長の木の実が一つ入っている飲み物のようだ。
お店にでかでかと貼り出されている商品図解の横、湖の底に剣が突き刺さっている絵が描かれている。
今回、とことんついてない――、無能力無才能で生まれたことから始まり、私を殺したい人間と出会って、その手助けをする形になるとは。
なぜ……どうして…。
「あぁーーー!!」
今にも頭を抱えだしそうな私に向かい、全身を覆い隠した服装の子供?が深くかぶった頭巾の奥から大声を出した。
暖かなこの時期に不自然な恰好――見るからに怪しい。
ちびっこがズイズイ歩いて寄ってくる。
手に串にささった透明の丸が六つ連なる食べ物を持って。
(まさか――!あのキラキラしてもちもちしてそうで美味しそうなモノは!!)
よくみると、チビっ子は手袋までして肌を一切出していない。
しかも全部皮製の服のようだ、熱くないのだろうか?
しかし、そんな怪しさの詰め合わせなどどうでもいい。
私が気になるのは皮製品が手に持つ、キラキラもちもちした食べ物!
あれは!きっと私が食べたかったお菓子に違いない……!
「やはり来たのう!」
「おぉ。スライムか」
タチの前にで~んと立ち止まったちびっこの、頭巾の下に隠れていた水色の顔がチラリと見える。
そう、水の化身ズーミだ。なるほど、だから肌を隠していたのか。
「スライム言うな!どうせこの湖に訪れるじゃろうと、待ち伏せておったのじゃ!さすがわらわ!」
「すごいな!丁寧に加工されている皮の服だ。自作か?」
私はズーミの持つお菓子に興味をもち、タチはズーミの服装に興味をもったようだ……。
つい先日殺されかけた水の化身本体より、――だめかもしれない私たち二人は。
「褒めるところはそこでなはいわ!っというか普通の服じゃとすぐビチョビチョになるんじゃもん!」
確かに、布とかだと水分凄く取られそうな体してるもんね……。じゃなくて、私も神として眷属である彼女に一言いうべきことがある。
「ズーミちゃん!なんかこう……剣を隠すとかできなかったの?完全に観光地になってるじゃない!」
ここでまずもちもちのお菓子の事を聞いてしまっては、タチと同じレベル。
それはとても残念な気持ちになるので、まずは神としてしかるべき質問をする。
もちもちをどこで買ったのかは、もちろん後で聞く。
「じゃって……そもそも人が作ったものじゃし――わらわが勝手に、名所にするな!地域の金回り良くするためにつかうなー!とか言えんし」
シュンと落ち込みつつも、割と地味めで全うな理由で返された……。
タチと戦闘している所しか見ていなかったから少しびっくり。以外に大人だ。
「じっさい経済潤っておるし……こんだけ大きくなってしまうと、今更口だせんじゃろ…?奴らにも生活があるわけじゃもん……」
「現実」という名の正論を次々畳みかけられると困ってしまう……。
お母さんお父さんに、やんわり注意されているような気分だ「子供じゃないんだから」って。――私にはどっちも存在しないけど。
「でもでも!神殺しだよ!?ズーミちゃん水の化身で神の使いでしょ!?」
「なんの脂で手入れをしてるんだ?植物か?動物か?」
私とタチの質問攻めを受け少したじろぐズーミちゃん。
わちゃわちゃと小うるさい三人組でも、誰もこちらを気にする様子はない。
なにせアルケー湖は賑わう場所だ、あちらこちらで声があがる。なにも私達だけが騒がしいわけではない。
浮かれた若者たちのじゃれ合いに、しつこい客引き、楽しそうな親子の笑い声。
そんな中とあれば、神様と人間《皮フェチ》に責められる化身だって自然と景色に埋もれていくのである。